<その5:タムテックギヤ用バッテリーパック徹底チェック!> <セット標準とバラ売りは別物!?> 早いもので、06年3月に GB-01「マイティフロッグ」が発売されてから、もう1年近くになろうとしています。 トラックバギータイプの「ワイルドボア」に続き、去る06年12月には、GT-01「ポルシェ934」も発売され、 ラインアップも徐々に充実してきていますよね。この07年1月から早速GT-01によるタミヤGPも 開催され、「タムギア」はますます盛り上がっていきそうです。 07年以降のタミヤGPでのタムギアクラスでは、完成セットと組み立てキットが併売されることになった関係で、 RCメカについては、コネクター類含めて一切手を付けてはいけない「セット標準指定」のレースと、 「RCメカ自由」のレースに2分化し、いずれのレースでもRCメカについてはそれぞれの規定のなかで 「イコールコンディション」が確保されています (「自由」クラスでは、良い成績を求めるとRCメカは必然的に最上位機種に収斂するので、結局モノの差は出ないのです。 参加コストはかさみますけど)。 そうすると、パワーソース関係で残る要素は、「モーター」と「バッテリー」になりますが、ここでは特にバッテリーについて 検討します。というのも、セット標準品と別売のパックは、外装からして明らかに「別物」と察せられ、 発売当初からその「差」が注目されていたからです。 テスト結果については、既に06年6月頃からRCTのBBSユーザー登録者向け専用ページで先行して公開 してあったのですが、なかなか手が回らなくてコメントを付けるのが遅れていました。GT-01の発売を機に、ようやく コメントを付けて一般公開することにした次第です。 <外観調査> タムテックギア用の純正パックとして07年1月時点で販売されているのは、セット標準品(右写真の上側のパック)と Item 55090(本体価格1800円、06年3月29日発送)として別売されているパックのみ。 いずれもニッカド(Ni-Cd)6セル500mA、というスペックですが、パック外装の色やシュリンクの形状からして違います。 セット標準品は電極部にも何もカバーがありませんが、別売品にはしっかり電極部に保護用プレートが入っていて、 それがシュリンクの仕上がり形状の違いとなって現れています。また、別売品には、サンヨーのロット表記を思わせる「KC」 という刻印が打たれています。サンヨーの表記基準に従えば、「06年3月製」と読めますが、 これはこのパックの発売時期にも ピタリと符合します。特に製造元は明示されてはいませんが、裏面ラベルに「Made in Japan」 となっていることからしても、別売パックについてはサンヨー製(しかも国内製)であることは明らかです。 ひるがえってセット標準パックをみると、こちらは「Made in China」となっています。見比べると、 裏面ラベルの内容も微妙に異なっています。タムテックギアの組み完セットは フィリピン工場で生産されていますし、セット標準バッテリーに求める性能も「ごく普通」で十分でしょうから、 安価かつ近所の中国製セルをセット標準品として調達して来るのは合理的な判断でしょう。中国には山ほど メーカーがありますから、どこから調達しているかは良く分かりま せん。パックの裏面にはロット表記?のようなものがあり、 「V」と打刻されていますが、もちろんサンヨーやGPとは違います。かといってむやみやたらに取引先を広げるはずもないので、 1300カスタムパック等の製造元と同じなのだろうと推察しますが・・・。 ところでタムテックギアなどいわゆるハーフサイズモデルのバッテリーについては、 既に一般には同サイズのリチウムポリマー(Li-PO)電池や1400mAhを超えるような ニッケル水素(Ni-MH)セルが出回っているわけですが、いずれもメーカー標準品としての採用には難点があります。 リチウムポリマーの問題は、充電面もありますが、やはりコストでしょう。 +極に希少金属のコバルトを使用しているのがネックです。 06年から+極にマンガンを採用してコストダウンしたた第2世代品が登場していますから将来的にはコストダウンが 期待できますが、現時点ではまだまだ価格・供給量の点でメーカー採用は難しいでしょう。ニッケル水素は言うまでもなく 自己放電レートの高さが問題です。保存性が悪いセルだと、流通ルートで在庫している間に劣化してしまいますから。 1/10RC用のサブCセルほど極端なことはないはずですが、保存性の良いセルを採用しようとすると、どうしても 放電性能が犠牲になって魅力が薄れてしまいます。 セット標準品では保存性やコストが重要ですから、そういう点を評価してニッカドが採用されているので しょう。 別売品まで「ニッカド」で出てきた理由については、あくまでも「スペアパーツ」である、と 理解すれば合点が行きそうです。確かに、いきなり別売がoptから始まったら、 セット標準品のスペア入手が逆に困難になっちゃいますものね!・・・もっとも、あえて性能の悪いセット標準品を後から 買い足す人がいるんだろうか? という気もするんですが・・・。 ともあれ07年2月には、いよいよ待望のハイパワーモーター「スポーツチューンSPT」も出ますし、市場が盛り上がれば、 バッテリーの品揃えも当然に強化されるでしょう。 <テスト条件> テストは、06年5月下旬〜6月上旬に3週間かけて、バッテリーのコンディションを整えるインターバルを設けながら実施しました。 今回のテスト条件はちょっと特殊です。温度こそ25度±2度(実際は24〜27度)とRCT標準条件に準拠していますが、 問題は「充放電レートの設定」でした。結局、充電0.5A(1C)、放電1.0A(2C)を 基準とながら、セット標準バッテリーについては特別に充電0.1A(1/5C)という特殊な設定を余儀なくされました。 この結果、充放電器は「その3」と同様に MuchMore製「CTX CellMaster」を使用しています。デルタピーク設定も機材の都合でいつもとちょっと違っていますが、 計測結果に影響するような差異ではありません。 「その3」で取り上げた単4セルと同様、 放電特性がいつものサブCサイズとは違いすぎて、サブCのような「2C充電・10〜15C放電」というような設定は不可能でした。 試せばすぐ分かりますが、異常終了が頻発して試験どころではなくなってしまいます。 特にセット標準品は、充電レートをわずか0.2Aに上げると、もう正常な充電が保証できなくなるような状態です。基本的には セット標準品は急速充電には適さない、と考えるべきでしょう。セット付属の100V充電器での充電をお薦めします。別売の Item 55090については、後日、「1.5A(3C)で充電できるようになった!」といった話も聞きましたが、まぁそりゃあ ピークロックかけたりしてムリムリで詰め込めば、できなくもないでしょうが、セルの状態が 非常に不安定になることは間違いなく、場合によっては異常な加熱でセルが自己崩壊(=破裂)する可能性も高まります。 当研究室ではあえてそのような条件を標準的に採用するツモリはありません。チューニング技法の検証としてはアリな テーマだとは思いますけど、それはまた別の機会に。 このサイズのセルは、最初からRC用にターゲットを絞って作り込んできているインテレクトのNi-MHセルを除けば、基本的には 機器組み込みなどの産業用に主に使われる「汎用品」ですから、RC用で要求されるような非常識な大放電特性はもともと 考慮されていません。 通常は5時間率、つまり0.2C放電で定格を満たせばオッケーなんですから、RC用で経験するような10Cとか、20Cとかの レートで放電したら、実効容量が定格の70%とか、50%とかに減っても、おかしくないわけです。この「実効容量の低下」を どの程度に抑え込めるか、という点にこそ、メーカーの技術力とセルの品質が端的に表れる部分なわけですが、とは言っても、 オーバークオリティなモノを作っても競争に負けるわけですし。産業用は「コストパフォーマンスで選ばれる」 という側面が強いですから。 このようなわけで、測定の条件出しにはちょっと難儀しましたが、いつもの例に倣って、5回計測を行い、このうち最も 数値の悪かった1回目(バッテリー起こしの回)を除いた4回分の平均値を取りました。通常の統計処理なら、「最も良い値」も除いて平均を取る ところですが、実は今回の試験では、「セルのバラつきが多いパック」の典型的なパターンで、特にセット標準品には 「充放電サイクルを追うごとにパックの性能が上がる傾向」が見られたので、 以後にもっとパックのパフォーマンスが上がる可能性を考慮し、一番良いデータもあえて含めて算出しました。 なお、都合により、計測サンプル数はセット標準、別売品とも1個ずつとしています。サンプル数が極めて少ないので、 計測データに含まれる個体差(製造上の品質誤差)の要因が比較的大きくなる懸念があります。ただ今回は、 「セット標準と別売品の性能差がどの程度あるのか?」という、大ざっぱな傾向が分かりさえすれば良いとの考えから、 あえて時間をムダにしないよう、サンプル数を絞った次第です。どのみち、もっと高性能なパックがoptとして出てくる(たぶん)までの 一時期しか問題になりそうもないテーマですしね・・・。 <測定結果と考察> (120秒付近のピークは内部抵抗計測に伴う電圧変動です。ピークの大きさは内部抵抗が相対的に大きいことを示します) グラフを見れば一目瞭然ですが、セット同梱品と別売品の差はかなり明確です。1A放電でセット同梱品が 7.0V程度で放電しているとき、別売品は7.3V強ですから、割合としては4〜5%の電圧差です。 これはそのままモーター出力の差となって表れます。 ただ、そもそも「1A」という放電レート自体、セット同梱品の 性能に引きずられて低めに設定されている値である、という点には注意が必要でしょう。実際の走行では、 ゼロ発進時やジャンプなどの際には、3Aとか5Aとかいったレートでの放電を要求されるわけで、このような大放電の際には、 もはやセット標準品では、電力の供給力が追いつかずに電圧が瞬間的にゼロ近くまで落ち込んでしまい、 加速が得られなくなってしまいます。何しろ2Aでの放電テストにすら耐えられずに数秒で放電終了してしまったんですから、 大放電での性能低下は推して知るべしです。電気を食う状況になればなるほど、走行性能に大差が出てくるわけです。 タムテックギアのレースでは、結果的にギヤ比はメいっぱい上げて走らざるを得ませんから、バッテリー負荷としては かなり厳しいものがあります。セット同梱品ではストレートスピードからして別売品と大差がついてしまうでしょう。 対策としては、「その6」で取り上げた1600SPと同様、 キャパシタ装着が有効 ではありますが、06年暮れ以降の「ミニスポーツ」クラスで単独の銘柄指定を受けることになった 1600SPの場合とは話が全然違いますので注意! タムテックギアでは素直に別売バッテリーを使うのが先決で、そのうえでさらに パフォーマンスアップを狙うために500〜1000uF程度のキャパシタをホドホドに付けるのが王道でしょう。 スカタンバッテリーにいくらデカい キャパシタ付けたって、もともと性能が良いバッテリーにはかないませんから! ところでサイクル毎のデータを見ると、5回の充放電を通じて、セット標準品の放電容量は200mAh代前半から300mAh台へと 「成長」したことが分かります。裏返せば、それだけ個別セルの品質のバラつきが激しい、ということなんですが。 一方、別売品は一貫して520mAh前後をキープ。一般用途の10倍近いレベルでの放電にもかかわず、しっかり 定格容量をクリアしているのはさすがサンヨー製、というところでしょうか。 内部抵抗は、セット標準品は計測ごとのバラつきが大きすぎて よく分かりませんでしたが、軒並み130〜190mΩ台を記録したので、内部抵抗が大きいことだけは分かりました(苦笑)。 こんなに内部抵抗がデカいバッテリーなんて、レース用には論外(笑)。 一方、別売品は、 充放電を重ねていくうちに若干内部抵抗が下がる傾向が見られました。総じて90mΩ台前半で推移しています。 タムテックギア用別売バッテリーには、トンだ「仕掛け」が用意されていました。まぁ通常は素直にインテレクトとか リチウムポリマーに換装してしまえば快適に楽しめるので、このようなテーマを真剣に議論にするのは、タミヤGPへの出走を 考えている限られた人達しかいないと思うのですが、やはりレースでは「モノの差」を知らないで悔しい思いをするほど イヤなことはないですからね! この情報が多少なりともお役に立てば幸いです。 (おわり) |