レーシングマスターMr.5〜Mk.7 |
当時のシャシー設計の考え方は、まだまだ発展途上の段階でした。シャシーとサスペンションの切り分けが
徹底できていませんでした。カーボン(CFRP)は実車レースの世界でもまだ出てきたばかりの超先端素材で、
もっぱらグラスファイバー(GFRP=俗に言うFRP)がシャシー用の素材でしたから、剛性不足でした。サスペンション設計の最適解も手探り状態でした。
このため、シャシーを剛体と考えた設計が難しく、メインシャシーのシナりでサスペンション効果を得る、という
旧態然とした設計がまだまだ幅を利かせていた時代です。 このシャシーでも、そうした時代を反映して、RCメカはすべてアッパーデッキに 「吊り下げ」て搭載し、メインシャシーのシナりが干渉を受けないよう配慮されていました。 そうすると、重心がどうしても上がってしまうんですが、当時はJMRCAの全日本選手権ですら、 |
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駐車場を借りて開催されていたような状況でしたから、ロールモーメントより、まずはロードホールディングありき、だったわけです。当時最強のアソシRC12が、サイズが全然違う1/8エンジンカーに似せて、サーボを立ててメカデッキにマウントしていたくらいですから、「重心」の優先順位はかなり低かった、そういう時代でした。
上の写真中央を拡大したのがこちらなんですが、実はコレ、受信機アンテナの先端をハンダ付けする端子です。 この先端に、前年に発売の「マイティフロッグ」から採用されたsp.195スチールアンテナを装着するように なっていました。 |
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sp.195というのはいまでも立派な現役アイテムです。
先般の「フロッグ」の復刻で追加生産もされたのではと思います。
筆者がこのパーツの存在を認識したのは、ほんの3〜4年前くらいからなんですが、
このパーツを見た当初は、その意味がよく分かりませんでした。 今回、改めてトムス84Cキットを組んでみて、ようやく「使い道」に納得。 要は受信感度のアップとアンテナ破損を回避するために、 電気を通す材料で外部延長アンテナを設けた、というわけですね。 でもフロッグなどでは、単に「丈夫なアンテナガイド」としてしか役に立たなかったようですが・・・。 |
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実際に装着してみると、こんな感じ。 スチール製なので結構重いです。10gくらいでしょうか。確実に「重心アップ」をお約束するアイテムです(笑)。 当時はタイヤグリップも低いし、バッテリー容量(1200mAh)の関係で走行速度も遅かったので、 こうしたことが許されたのでしょう。でなければ、転倒を促進するようなこんな重量物を 高々と掲げるなんて、あり得ない。このロッドが「転倒防止」に役立つことは、まず無いです。 スチールアンテナにはメリットもありました。「アンテナ線が千切れる心配がない」 「取り外し簡単で片付けやすい」、といった点です。アンテナ側を回せば取付ネジが緩み、 アンテナが片付くのですから、便利だったとは思います。 しかし重い!重すぎる!! |
アッパーデッキ(メカプレート)左側前寄りにあるのがダイオード式のレギュレータ付き
RCメカ用スイッチです。sp.214「956スピードコントローラー」に標準装備されたものです。
当時はまだ「BECシステム」という統一的な規格はなくて、各メーカーやユーザー個人が
思い思いに、もっぱらダイオードを使って、スピードコントローラーから引いてきた
走行用電源を7.2V→6Vに落として
RCメカに流用していました。走行用電源がドロップしてくるとRCメカもダウンして
ノーコンになるのですが、速度も出ないのでまぁ大丈夫、
タレてきたら速やかに走行を止めようね、という、実にアバウトな仕組み。 既に1979年頃にはこうした「共用電源」によるマシンの軽量化はエキスパートの間では 当たり前になっていました。何しろ50g以上の劇的な軽量化になりますから。 タミヤでも82年11月発売のRM第2世代「トルネード」で初めて正式にサポートされました。 この流れでMk.5〜7でも共用電源がサポートされていたわけです。 |
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この後、1985年の秋のホビーショーで、
タミヤ(そもそもBECの発案は滝博士)と各プロポメーカーのタイアップによる
「BECシステム」が正式に発表され、
共用電源は一段と洗練された仕組みになっていくのです。
さてこちらはスピードコントローラーです。Mk.5〜7用の「スピコン」はアソシRC12を強く 意識した設計になっています。極めて軽量・コンパクトで十分実戦に通用する作りです。 非常にしなやかなコイルバネで加圧された銀接点が、巻き線抵抗と基板の上を擦って、 滑らかな前進/ブレーキの制御、およびバック(全開のみ)を実現しています。 |
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当時はこの程度のステップ数で「無段変速」と謳ってはばからなかったわけです。
実際には巻き線の段数は10ステップしかありません。
ただ、巻き線の「間」もあるので、実質18ステップ相当です。
そう考えると結構なもんですね。
現在の最高級アンプも「VFS1以前」は長年、32ステップ(5ビット)が最高だったわけですから、
18ステップ(4ビット強)もあれば十分じゃん、と言われればまぁそうかな、と・・・。 ところで、写真のブラックFRP仕様の機械式スピコン端子は、どうやら初期ロットだったようです。 カスタマーから2006年4月に「最後の在庫」として入手したトムス84C用スペアモーター付属のスピコン端子は、ナチュラルFRP色 でした。これがモデル末期の最終仕様だったのでしょう。ご参考まで。 |
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上下のシャシープレートは、フロントサスアームと4本のメカポスト(正式名は「サポートステー」)
だけで締結されています。 ちなみに初版の956では サポートステーはアルミ製でJIS/ISOネジ止めでした。トムス84Cとニューマン956(Mk.6&7)では、 安価で軽い樹脂製+タッピングビス仕様に変更されました。 |
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このナイロン製のメカポスト(サポートステー)なんですが、実はMk.6&7シャシーの泣き所
だったようです。
上下のネジ穴にタッピングビスでタップを立てて止めるようになっているのですが、
タップの下穴が小さすぎたのか、
メカポストの外径が不足していたのか、長期に使っているとネジ穴が割れてきてしまいます。
こんなパーツをレストア用にストックしていた人も少ないようなので、一度割ってしまうと
スペアパーツの入手は絶望的です。
まだ割っていない人は大事にしましょう(笑)。ただし単純な形状なので現行パーツとの
置換は簡単です(後述します)。 |
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ネジ止め時の回り止め用として、メカポスト中央には六角レンチを通す穴が開いています。
ナイロンストラップは、専用の止め具を使ってシャシーから外れないようになっています。 キット標準では、バッテリーはナイロンストラップ止めなんですが、いかにもヤボったいし、 少しでも緩いとバッテリーが抜け飛んでしまうので、 グラステープ止めのほうが現実的だと思います。 アッパーデッキがちょっとグラステープ止めには不向きな形ですが・・・気にしない気にしない。 |
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モーターポッド回り、ボディマウント(トムス用)がよく分かる画像です。 トムス84C/ニューマンポルシェ(Mk.6/7)で |
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は、ポルシェ956(Mk.5)の540ブラック・エンデュランスに代わってメッキ缶の540モーターが付属しています。 写真のキットはどうやら初期ロットだったらしく、6V仕様進角なしの540Sで、 しかも後述するとおりの特別仕様になっています。 モデル末期には、RC向けとして黒ラベルが付された7.2V仕様の540SHに 変更されていました(カスタマーから入手した最後の在庫モーターの入手で判明)。 |
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初期ロット付属のRS-540S(6V用)の注目ポイントは「軸受け」です。 エンドベル側は初期のタミヤRCキットでお馴染みの、RS-540SのOEM専用仕様 (黒い樹脂エンドベルの進角なしφ0.65シングル27T、6V仕様)と何の変哲もないんですが、 出力軸側をよーく見ると・・・。 そう、ボールベアリング支持の540Sなんです! 540ブラック(スプリント/エンデュランス)と同じ缶ってことです。色が違うだけ。 巻線の径や進角の有無の違いはあるわけですが。 |
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こんなモノがあったのかー!? これ知ってた人って、当時やり込んでた人しかいないかと。
タミヤのカタログには、サクっと「540モーター装備」としか書いてないので、知り得ません。
コレってなにげに、後年のF1なんかでの540レースではものすごい武器に
なった気がするんですけど・・・。モーターの伸びが違うでしょ、片側だけとはいえ、
ベアリングが入ってるのとプレーンメタルじゃぁ・・・。 なお、エンドベル側がプレーンメタルという軸受仕様は540ブラックも共通です。 |
部品番号は7435017「トムス 540モーター(コード、端子つき)」とされています。
Mk.6/7専用仕様です。後の第3世代F1シャシー(ロードウィザード等)用はギボシ仕様の別物です。
エンドベルはOEMの6V仕様そのもの。6V仕様の540Sは、80年代後半の第3世代F1シャシー まで。90年代からは7.2V仕様の「540SH」に切り替わるので、写真のモーターは 「6V仕様540Sの最終進化形」とでも言うべきものです。 ちなみに、初期のタミヤRCキットに同梱された540Sや380Sは、マブチ自身が一般模型用として販売していた、白い樹脂エンドベル仕様の流用でした。1979〜80年前後からノイズキラーを強化した黒エンドベル仕様に切り替わりました(小型化した素子が高周波を効率よく吸収し、カンもアースされた)。なお7.2Vの「540SH」では、ノイズキラーコンデンサはエンドベル内側にあって外からは見えませんが、540Sではこのように「外付け」でした。しかもハンダ付け。 さらに言うと、タミヤRCのごく初期の白エンドベル540Sのコンデンサは、モーターカンをアースとして利用せず、大きなコンデンサが1個、エンドベルをまたいで+−両端子に接続されていました。 |
RM Mk.5ポルシェ956が出た時点で、既にアソシなど海外のシャシーはボールデフを備えていたと
思うのですが、出たか出ないか、くらいの時期でしたから、
タミヤ的にはそんな最新のアイテムに率先して飛びつくわけもなく、
購買するユーザー層のことも考えて手堅くギヤデフです。
80年代までのタミヤのギヤデフは、プラネタリーギヤも含めてすべて樹脂製でした。 F10xのスパーやマンタレイ系ギヤと同じ素材感の硬質ナイロン製で、結構な音が出ます。 モジュールは当時一般的だった06モジュール。当時は 駐車場での走行が主流だったので、石噛みを考えると、 小さいモジュールは採用しずらかったのでしょう。実際、筆者も モリブデン入り軟質ナイロン製スパーのAYKシャシーでは石噛みに随分悩まされました。 |
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初期のタミヤの「競技用スペシャル」系はスパー径が非常に小さかったので
石噛みは皆無でしたが、Mk.5〜7系はスパー径が拡大したので、タイヤ径を落とすと
石噛みしやすくなります。フロントホイールは、アップライトが共通な他の車種にも使い回せたんですが、リヤホイールは専用のハブに適合する設計になっているので、このシャシー専用です。
ナイロン製で肉抜きも多く、非常に合理的な設計ですが、「スケールのタミヤ」らしからぬ、オリジナル956を無視したホイールデザインには当時から賛否両論あったのではないでしょうか。 せめてホイールキャップくらい考えて欲しかったですよね。 |
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当時、1/12電動オンロードの世界で頭角を現しつつあった無限精機の「コスミックGP/M」とかのほうが、むしろ実車再現にコダわってエアロディッシュホイールだったりする始末。
なんでタミヤがスケール無視デザインのホイールで、バリバリ競技志向のメーカーが
スケールホイールなんだ!? って矛盾を感じてた人も多かったのではないでしょうか。え、そんなこと考えてたのは私だけ??
実はこのリヤホイールの締結方法、5mmアルミナットという、タミヤキットでこのシリーズしか使ってなさそうな特殊ナット、しかもロックナットですらない、という、実にタミヤらしくない仕様でした。 |
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ナット径が小さいので、意外に緩みにくい? 特に逆ネジを採用してるわけでもないので、ホントに大丈夫だったんだろうか?
RM Mk.5ポルシェからアバンテ、トップフォースあたりまでの8年間くらいが、滝博士が本来のガチレース指向のワガママ全開で設計の腕を振るった全盛期、ということなのかと感じます。 左側リヤハブは、タミヤRCの最初から今のF103までつながる、DDカーの一般的な作りを継承しています(シャフト末端にホイールハブを被せてタイヤを装着)。 |
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Mk.5〜7シャシーのダンパーユニットは原始的なもので、写真に見える黒いダイヤル状のフリクションユニット内に収めた超小型のOリングがダンパーシャフト(針金)と擦れる際のフリクションでダンピング効果を得ています。 また、この当時は「ギヤボックスの剛性」が駆動効率アップの手法としてレースシーンで非常に注目された時期でした。 タミヤでもMk.1「カンナムローラ」でモーターとギヤボックスを一体化するアプローチを試みたりしていたんですが、このMk.5〜7シャシーではもっとコンベンショナルな手法として、ビーム材で左右のブラケットを位置 |
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決めする方式を採用し、モーターマウントも高剛性なダイキャスト製として、高い剛性と精度を得ています。 ところが、この後に出てくる1990年代以降のオンロードモデルでは、樹脂製モーターマウントが主流となります。特に駆動効率が悪化した訳ではないので、1980年代のモーターマウント設計は過剰品質だったようにも思えます。 今からすると非常に原始的な作りですが、リヤショックユニットの基本機能はこの形で十分に実現 |
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されています。何よりも「軽い」ことが当時は重要でした。何しろオープンレースでは全備重量880g規定でしたし、当時はシャシーがカーボンではなくFRPでしたから。 以上でMk.5〜7シャシーの紹介はおしまいです。 本稿執筆当時はネットオークションで2〜3万円くらいで未組み立て品が買える状況でしたが、2024年現在では復刻版が出てより入手しやすくなっていますので、当時のパワーレベルに近い540SH+Li-Fe仕様で、ぜひ走らせてみて欲しいです。いまのキットにはない味わいを感じることができるかも。 |