<その36:カワダ「R-COAT」シリーズ徹底解剖!>
![]() カワダから2003年モデルとして他社に先駆けてリリースされた最新のリビルダブル23Tストックが「R-COAT」シリーズです。ブラシタイプはスタンドアップとレイダウンの2種類が用意されたこのモーター、ただ単に(1)ブラシ素材の改良、(2)マグネット強化、(3)モーターカンの改良(厚み、形状)、といった従来のチューニング手法を踏襲・発展させただけのモノではありません。「ローターの放熱」という新しいコンセプトを盛り込み、従来の23Tストックとは異なる次元を切り拓こうという意欲作なのです。 この背景には、23Tモーターのマグネットが年々強化され、ブラシもどんどん低抵抗化が進み、バッテリーも大容量化した結果、JMRCAスポーツクラスのギヤ比はついに5.0を切るまでにハイギヤード化・ハイスピード化したという事情があります。オーバルレースと見まがうばかりの極端なハイギヤード化は、当然ながらモーターに猛烈な負荷をかけます。結果、モーター表面ですら走行直後は100度前後に達するのが「当たり前」な時代になってしまいました。モーター内部、特に、熱源であるローターについては、走行中に150度にも達しているようです。 ところが、ローター巻線の素材である「銅」は、温度変化による抵抗値の変化の幅が結構大きい金属です。25度から90度への変化幅なら65度しかありませんが、これが155度にもなると、その変化幅は2倍の130度にもなります。当然、ローターの電気抵抗が大幅に増えますから、マグネットの磁力低下も加わって、出力は目に見えて低下します。いわゆる「熱ダレ」です。出力が落ちるとドライバーというのはアクセル開度を増やして対応しようとするのが「人情」なので燃費はますます悪化し、熱ももっと出る、という悪循環です。 ![]() ![]() <まずは外観チェックから> ではまず、「お約束」の外観チェックです。 今回入手したのは、以下の2種類です。いずれもJRM/JMRCA認定のリビルダブル23Tストック規格適合品です。 近日発売のレイダウンタイプも後日テスト予定ですが、このページでは、スタンドアップブラシの2種を先行レポートします。 (1)VストックモーターR(スタンドアップブラシ、品番M1-231B、価格2980円)<ローターの違い> ![]() ![]() (1)のVストック(M1-231B)は、ローター頂点をフラットに削り、ローター中央のエアギャップを広げてトルクを意図的に軽めに設定したコア形状のV型ローターを採用。ピークパワーは低くなりますが、全域でフラットな特性を得られ、ローターの軽量化による吹けあがりの改善と相まって、扱いやすい操縦性が狙われています。これに対して、(2)のVSストック(M1-236B)は、マグネット表面に対して均一なスキ間(エアギャップ)を維持する一般的なコア形状に、磁気進角をつけるホールショット(貫通穴)加工を施したH型ローターを採用し、ローター頂点を中心に強力な磁界を得て「ピックアップが良い」という説明です。ピックアップというと、コーナー立ち上がりなど中〜低速域の出力が大きい、ということと理解しますが、確かに、コアの設計意図としては、ローター外径が同じという条件下であれば、V型とH型では上記のとおりの違いが想定されます。さあ、果たしてこうした設計意図のとおりにモーターは回るのでしょうか?? ![]() ![]() <コミュ径は7.6mm> タミヤGPでも2002年から23Tストックの分解整備がOKとなり、コミュテーター研磨によってコミュ径を積極的に変更し、最適値に追い込むことによって効率を引き上げ、ある程度のパワーアップを狙うことが大っぴらに認められるようになりました。RCTのBBSでもここにきてブラシサイズとコミュテーター径の関係が俄然注目を集めています。従来から、ブラシホルダーの金具部分のみを外し、5×4mmブラシ式ストックモーターのコミュ研磨ができる研磨機はあり、タミヤGP規定でも特に禁止条項はなかったのですが、道義的には「積極的に触っていい箇所」とは言いがたかったので、RCTとしてはあえて手をつけていませんでした。しかし、リビルダブルタイプになって、コミュ研磨そのものが「前提」みたいになってしまいましたから、もうこのような心配はありません。今は積極的にコミュ径と出力の関係に注目しています。 そこで早速、V/VSストックモーターのコミュ径に注目したところ、スタンドアップブラシ用はいずれも「7.6mm」で仕上げられていました。ちなみに、取扱説明書では「7.2mm以下に削り込まないでください」とありました。RCTのBBSでは、まだ仮説の段階ですが、コミュ間の電極のすき間を考慮すると「スタンドアップブラシのコミュ径は7.3〜4mmくらいがベストではないか?」という見解が出ていますから、そのへんを参考にすると、7.6mmというのは多少コミュ研磨のマージンを残した設定、と言えるでしょう。逆に言うと、「カツカツ」を追求するならあらかじめコミュ研磨必須、ということですね。ただ、コミュ研磨についてやり出すとまた話が長くなるので、このテーマはまた別の機会に! <進角はいずれも19度?> これはメーカーによってポリシーが分かれるところですが、ヨコモが初代T-MAXでやっていたように、モータータイプによって細かく進角設定を刻むメーカーもないわけではないので、一応チェックしました。当初、エンドベル進角はいずれのタイプもJRM/JMRCA限度いっぱいの「20度」であるように見えたのですが、続く「その37」の執筆時点で改めて厳密に比較してみたところ、スタンドアップブラシ、レイダウンブラシのいずれのタイプも進角は同じでしたが、よくよく見ると、20度にはごくわずか足りず、19度くらいになっています。これが意図的なものなのか、それとも、ある程度車検時のアローアンス(測定誤差)を考えたものなのか、定かではありませんが、キッチリ「20度」でなかったことは確かです。ここにお詫びして記述を訂正します(03年6月27日加筆)。 ![]() もちろん、ユーザーが事後的に手を加えるのは違反だし、もともとベストを追求してるわけですから、ヘタに手を加えてもかえって悪くなることのほうが多いと思うんですが、モノには製造誤差がつきもの。実はタミヤのスーパーストック缶では、この「製造誤差」がかなり大きいので、カワダのこの缶を見た瞬間、やはり同様の懸念を抱いたわけです。しかし、チェックしてみたところ、いずれも見て分かるようなバラツキはなく、かなり高精度で位置決めされているようなのでひと安心。もちろん、2個づつ開いている取り付けビス穴を中心に左右対称になっています。見てすぐ気がつくような、±1度くらいマグネット取り付け角のバラツキがあるスーパーストック缶とはちょっと違います。 <エンドベルリングはスチール製> ![]() スチール製はマグネットにくっついてしまうので、メンテナンスが面倒な場合がないわけではありません。そのため、スチールタイプのエンドベルリングは、内径がローター径より大きくなっていて、マグネットに張り付いたままでもローターが抜けるようになっています。ちなみにアルミ製のタイプでは、識別の目的もあるのでしょうか、内径はローター径より小さくなっているのが通例ですよね(というか各社同じモノを使っている)。 <スペーサーにもフリクション削減の配慮がニクい> ![]() ![]() <ブラシは最新スペック> ブラシは、この新シリーズのために新たに用意された最新スペック。見るからにメタリック感が高く、いかにも「金属混入率高いです〜」という感じです。金属の配合率が高い、ということは、熱伝導率は上がってコミュから発生する摩擦熱の放出には有利ですが、相応にブラシが硬くなり滑りも悪くなる、というのが定石なのですが、実際にはそんなにガチガチ、というわけでもありません。ごくイマドキのフツーです。10パックも走るとブラシカスで思いっきり内部ショート起こしますから洗浄はマメにやったほうが良さそうです。今回はタミヤ丸Tブラシ(op.581レーシングモーターブラシ・スタンダードタイプ)との比較もやってみます。 <ブラシスプリングは210g前後> ![]() ![]() まずは今回のモーター2タイプについてですが、おおむね、205〜215gの幅で収まっているようで、中心的な値は210gあたりと見ました。スプリングの個体差で10g程度、計測誤差として10g程度あって、最大20gくらい計測値がブレましたが、何度か計測してみて、収束したのはこのあたりでした。 ![]() ![]() ![]() V/VSストックのエンドベルは、特にコレといった目新しいものはありませんが、基本はキッチリ押さえられています。精度ももちろんですが、+-で色違いのヒートシンク、3連装のタンタルコンデンサ(ノイズキラー用)、金メッキブラシホルダー、テーパードメタル軸受け、といったところです。ブラシホルダー回りは、金メッキなのでブラシのネジ止め部との導通は良さそうです(ブラシのピッグテール(リード線)をハンダ付けしちゃう人には関係ないんですけどね)。ただ、デザイン的にはもう何年も前のストックモーターから変わっていませんから、古ぼけた感じがないわけでもありません。ブラシダンパーもないですし。まあ必要ないですが。エンドベルでの放熱についてはもうちょっと積極的に考えたほうが良かったかなあ。あ、コレは次の新製品に盛り込むネタでしょうか、もしかして!?(笑) ***以下の試験は、すべて気温25度±1度の条件で実施しました*** <測定編> ではいよいよ計測を始めます。まずは「基本性能」ということで、通常の試験条件で、メーカー出荷状態を計測してみます。この時点では、「モーターの過熱」は一切考慮しておらず、基本的に「室温状態=走行開始時点での性能」と考えてください。 <Vストック(M1-231B)> ![]() (実線はVストック(M1-231B)、点線はタミヤ・スーパーストック・タイプT基準データ(<その18>と同じ)) <VSストック(M1-236B)> ![]() (実線はVSストック(M1-236B)、点線はタミヤ・スーパーストック・タイプT基準データ(<その18>と同じ)) VストックとVSストックを直接比較すると、こうなってます。 ![]() (実線はVSストック(M1-236B)、点線はVストック(M1-231B)) X軸をトルクにしてみると、同じ負荷(ギヤ比)をかけた場合の特性の違いが浮き彫りになります。特に、常用負荷領域でのVSストックの回転数の伸びと全域におけるパワーの水準は圧倒的な差です。 ![]() (実線はVSストック(M1-236B)、点線はVストック(M1-231B)) ![]() (実線はVSストック(M1-236B)、点線はVストック(M1-231B)) なんだかVとVSの違いって、単に「パワーのあるなし」になってるだけじゃん、みたいな・・・(汗)。トルクも最大出力も回転数も、ぜぇ〜んぶVSのほうが上回ってるわけだし・・・。最大出力で見れば、Vだって2年前のタイプT並みにありますが、Vが採用するトルク細めのV型ローターにとっては、やはりスプリングテンションが強すぎるのでしょう。もっと上まで吹けるのかと思っていたのでガッカリです。最新スペックのマグネットのおかげで、トルクはそこそこの水準を満たしているので、ギヤ比を高めに取ってやるか、あるいはタイプTと同じような200g未満のごくフツーのテンションのブラシスプリングにしてやることで、ある程度は改善できそうです。というか、210gのスプリングを使いながら、もともと高回転タイプのタイプT並みの吹けあがりを確保したVSストックのバランスの秀逸さをほめるべきなのかも。 ただし、燃費が厳しい時には、Vを積極的に使いたくなるケースもあるかも知れません。なにしろVSは130W級の大出力、3300でも8分は厳しいかも知れません。まあ、それならギヤ比を落とせばいいんで、わざわざモーターを積み替える必要はないと思いますが、「遊び」なら、パワーより燃費重視の23Tストックユーザーもいるでしょうから、そういうお気楽系ドライバーにもR-COATのメリットを堪能してもらおうと思ったら、Vをどうぞ、ということなのかも知れません。でも、わざわざ同じカネ払って性能のバランスが悪いモーターをあえて買うでしょうか? ちょっと価格戦略的に問題があるような気が・・・。私なら、燃費やパワーはバッテリーやギヤ比で調整することにして、モーターとしてはやはりVSをおススメしますね(ただし、プレゼントにVが当たっても文句言わないでネ!)。 <付属ブラシの実力は?> モーター標準ブラシは、当然ながら最新スペックが盛り込まれているものと思われますが、ブラシ単独の客観的な性能評価というのはなかなか難しいもので、ユーザーの多くは経験とフィーリング、メーカーのアドバイスという2次的な情報に頼らざるを得ないのが実情です。しかし、RCTではタミヤ製ブラシという「基準値」があるので、データを比較することで、ある程度性能比較ができます。今回は、「その27」でPower Maxシルバーブラシを計測した際にベンチマークとした、当研究室で「丸Tタイプ」と称しているブラシ「op.581レーシングモーターブラシ(スタンダードタイプ)」と交換して計測値を比較してみました。「タミヤ丸T」との性能差が分かれば、他ブラシとの差も相対比較(%での差異)もできるというわけです。ホントは「その27」で使ったスーパーモディファイド11Tで測定できれば直接比較できていいのですが、残念ながらこのモーターは既に実走行に使ってしまいました。悪しからず。 ![]() (計測はVストック(M1-231B)を使用、 実線はタミヤ製op.581ブラシでの計測値、点線は上掲のVストック基準データ) ん? ありゃ?? タミヤ丸Tのほうが好結果になっちまいました!! コレはどういうこと? ブラシのせいかな〜、と思って急遽、VSについていたブラシに交換してみましたが、ご覧のとおり、 やや改善は見られましたがやはりタミヤ丸Tを超えるには至りません。んん〜丸T恐るべし!かなりいいブラシですねやっぱり。おススメです!! ![]() (計測はVストック(M1-231B)を使用、 実線はVストックにVSストック付属ブラシを装着した計測値、点線は上掲のVストック基準データ) <温度上昇したときの変化は?> ではいよいよ、温度変化の影響を検証してみます。ブラシやコミュのコンディション変化を考えると、何度も何度もテストしてもあまり意味がないので(皆さんレースにはコミュ研磨済みのベストコンディションで臨むわけでしょう?)、1パック回したときの状態をチェックしてみます。ただし、そのまま3300HVを1パック分回して計測しても「途中経過」が分かりにくいですから、完全放電後に1200mAhずつ充電したRC2400SPを用意し、おおよそ1000mAhずつ消費させて計測することにしました。また、モーターに負荷をかけて実際のランタイムに近づけるため、ダイノ計測で使うフライホイールを装着しました。さらに、計測にかけるまでにモーターが冷えてしまわないよう、最初からダイノに取り付けた状態で負荷運転を行いました。 まずは、この条件でどのようなことになるのか、小手調べにタミヤ・スーパーストック23TタイプRで予備調査を行ってみました。タイプRを選んだのは、レイダウンブラシを採用し、燃費が悪く、熱も出やすいからです。熱的に一番不利なモーターを選んだ、と考えてください。 実際に回してみると、バッテリーは、フライホイールを付けていても結構持ちました。1000mAhを食い尽くすのにおおよそ15分かかり、とてもじゃありませんが実走行の状況をシミュレートできる感じではありません。しかし、赤外線温度計で測ると、エンドベル周辺は60度以上になっていることが確認できました。触ると、ちょっと暖かい、という程度なのですが、これでどのくらい違ってくるのでしょうか。モノは試してみなきゃ分かりません。 ![]() (計測はタミヤ・タイプRを使用、 実線は負荷運転1回目終了後、点線は試験直前に測った常温時の値)) ![]() (計測はタミヤ・タイプRを使用、 実線は負荷運転1回目終了後、点線は試験直前に測った常温時の値)) ![]() (計測はタミヤ・タイプRを使用、 実線は負荷運転1回目終了後、点線は試験直前に測った常温時の値)) おお〜、結構、違ってきましたね!同じギヤ比(負荷)での変化は、2枚目の「トルク」を横軸にしたグラフを見れば一目瞭然です。数値的にも、ピーク出力なんて、24Wも落ちちゃいました。率にして18.1%のダウンです。「熱ダレ」ってこんなにすごいんだ〜、ということを始めて知りましたね。もっとも、実際の走行条件では、発熱に伴ってバッテリーの放電特性がアップするため、バッテリーの端子電圧の上昇で補償され、走行中のモーター出力はここまで極端に下がることはありません。でも、熱ダレで2〜3割パワーダウンする、というのはこの程度の発熱でも起こるんだ、ということは知って置いて損ではないでしょう。 それでは次に、もう1000mAh消費させてみましょう・・・すると、あれれ、エンドベルの温度が60度以上に上がりません。この試験条件では、冷却速度との均衡点が60度付近になってしまったようです。しかし、冷却が行き届かないローター内部は、時間の経過とともに1回目よりも少しは熱くなっているはず。 ![]() (計測はタミヤ・タイプRを使用、 実線は負荷運転2回目終了後、点線は常温時の値)) というわけで計測した結果はこのとおり。常温から比べるとピークパワーは22.2%ダウンとなりました。やはり、多少は熱の影響がさらに出た感じです。しかし、これ以上やってもあまり意味はなさそうなので、とりあえずタイプRでの試験はここまでとします。 さて次はいよいよR-COATの登場です! 果たしてどうでしょうか? 1本目を回してみると・・・熱い熱い!エンドベルがタイプRより開口部が大きいせいでしょうか、温度計が直接コミュテータ接触部の温度をキャッチしたようで、80度なんていうとんでもない数字が!まあ、このくらいが実際のところなんでしょうねきっと。 ![]() (計測はVストック(M1-231B)を使用、 実線は負荷運転1回目終了後、点線は常温時の値)) ![]() (計測はVストック(M1-231B)を使用、 実線は負荷運転1回目終了後、点線は常温時の値)) ![]() (計測はVストック(M1-231B)を使用、 実線は負荷運転1回目終了後、点線は常温時の値)) おおっ!やはり宣伝文句はウソではなかったようです!!出力のダウン率はわずか7.5%に過ぎません。 上掲のタイプRと比べると、明らかに落ち込みが少ないですね!こりゃあスゴいです。 ![]() (計測はVストック(M1-231B)を使用、 実線は負荷運転2回目終了後、点線は常温時の値)) 当然ながら2回目もこんな感じ。常温時からのピークパワーのダウン率は12.7%にとどまっています。 この格差は温度が今回計測のおよそ2倍になる120〜150度とかいう領域では、もっと差がつくわけですから、このモーター、これからの暑い時期、なかなか武器になるかも知れませんね。
![]() ![]() |