<その41:スタンドアップブラシの最適コミュ径は?> <タイプTZは不当に評価されていないか?> その40において、タミヤ・タイプTZとRZの比較で得られた結論は、「新品時の状態では、全体としてRZのほうがパワフル」ということなんだろうと思います。消費電流の問題や効率の問題は付いて回りますが、「択一」を迫られれば迷わず 「とりあえずRZ行っとけ」 となるのでしょう。TZが優位性を発揮するのは、ごく限られた局面であると。 でも、どうも腑に落ちないのです。 本当にTZはRZよりパワーのないモーターなんでしょうか? 同じカン、同じマグネット、マーキングは違うけど同じにしか見えないローター。確かにエンドベルストッパー(エンドベルリング)の差はあるけれど、これにブラシテンションとブラシの向きの違いだけで10Wものパワー差になるのはおかしくないか? もし、コミュテータの径とブラシサイズの最適化が不十分なためにポテンシャルが発揮しきれてないだけなら、そこをチューニングしてやれば良いのではないか? つまり、コミュを削って径を落とし、ブラシタイミングを最適な状態に追い込めば、TZでもRZに迫る性能を確保できるんじゃないか? これが、今回の仮説となるテーマです。 <コミュテーター研磨の効用> コミュテータ研磨、俗に「コミュ研」と呼ばれる加工は、一般には、回転摩擦やアーク放電で変形・劣化したコミュテータ(=回転子:ブラシと接触してローターの電極をスイッチングする純銅製のパーツ)を旋盤で薄く削ぎ落として形を整え、酸化被膜を取り除く、というもので、「研磨」とはいいますがあくまで切削加工です。アーク放電による傷というのは結構深くて、最低でも0.05〜0.10mmくらいは削らないと満足な仕上がりは得られません。ですから、何度も繰り返していると、当然にコミュテータの直径が小さくなってしまいます。 そうすると何が問題かというと、ブラシというのはコミュテータの形状に沿ってアーチ状に接触面を作っている関係で、ブラシサイズが変わらないままコミュテータの直径が縮んでいくと、「円周」が小さくなっていく、言い換えればブラシの接触面の距離が相対的に伸びてしまう格好になります。すると、コミュテータの回転時に、本来ブラシが接触(通電)して欲しくない区間でもブラシの接触が避けられなくなります。以前、この問題についてモーター研BBSでかなり突っ込んだディスカッションをしたことがあり、その際に具体的な模式図を書いてくださった方がいます。こちらにアップしていますのでイメージが湧かない方はぜひご覧になってみてください。また、ブラシサイズと極性切り替えタイミングについてのディスカッションの端緒となったオリジナルの図もこちらにご紹介していますので合わせてどうぞ(こちらのほうが説明が詳しいです) 3相モーターというのは、3つの巻き線のうち2つ(正確には2つと1つ)がN極とS極に分かれて磁石と吸引・反発をして回転するわけですが、上にご紹介した図でも分かるように、コミュ研磨でコミュ径が小さくなり過ぎると、この3つの巻き線が瞬間的に短絡、つまりショートを起こしてしまうわけです。そうすると、本来ならば「消耗」ということで廃棄されるはずなんですが、どっこい、これが「現実」の面白いところで、必ずしもそうはならないのです。というのも、電気にも「慣性(とは言いませんが適切な言葉を知らないので。「レイテンシ」かな?)」があって、何十Aという大きな流れを急には止められないし、動かせないのです。数十ナノ秒というほんのわずかな時間ですが「タイムラグ」があるので、その遅れを許すようなブラシタイミング上の「オーバーラップ」が「ある程度」あったほうが、モーターに流れる電流を増やすことができ、パワーアップが図れるのです。ほら、内燃機関でも給排気バルブタイミングのオーバーラップというのがあるじゃないですか。あれとまったく同じです。内燃期間の相手は「空気(混合気)」ですけれども、モーターでは「電気」が相手だ、というだけの違いで、考え方はまったく同じなんです。 というわけで、現実には、「ある程度」のショート(ブラシタイミングのオーバーラップ)を許したほうが、絶対的な出力は上がることが多くなります。ただし、余計な電気をショート(=単純に熱になるだけ)で喪失しながらの出力アップですから、効率は落ちてしまいます。このへんのサジ加減が、レーシングエンジンでもモーターでも等しく燃費と出力のチューニングのキモになるわけです。 ではいったい、どのあたりのコミュ径がベストと言えるのでしょう?BBS上でのディスカッションでは、5×4mmサイズのブラシをスタンドアップ(標準の配置)で使う場合、計算上、コミュ径が7.4mmくらいになると、コミュテータ間のすき間までブラシがカバーするようになり、オーバーラップがゼロ、つまり無通電区間がなくなる計算になります。つまり、理論上の効率は最高になるわけです。しかし、出力的に最高かというと、電流の応答遅れがあるのでそうではないと。レイダウンブラシ風に、ややオーバーラップを設けてあげた方が、より多くの出力を獲得できるはずだと。ちなみに、レイダウンブラシでは9.0〜9.4mm程度がベスト径と計算されます。レイダウンにはビッグコミュを与えるべきなんですが、スモールコミュの採用にも一理はあるので(ブラシを全アタリにしないで使うことにより、接触面積と極性タイミングを調整できる。ただしブラシが減ると状態が変わるので不安定ですけどね)、まぁこのへんは好き好きでしょう。 理屈上はそういうことなんですが、実際にはスモールコミュ採用モーターの出荷時コミュ径は8mm以下、最近の23Tストックだと7.6mm程度に追い込んでいるものが多いです。ちなみに、リーディー社の2004年向けモディファイドモーター「Reedy Pt」は広告で「コミュ径7.5mm」と明記しています。また、タミヤ・タイプTZ/RZのコミュ径はともに実測7.6mmです。こういう商品は「新品がベスト」ではユーザーにとっては財布の負担が大変で困りますから、1〜3回程度のコミュ研磨後に性能のピークを迎えるよう設定しているはず。 以上を総合して、RCTではスタンドアップブラシ用コミュテーターのベスト径は7.3±0.1mmではないかと推定しました。 この推定値の妥当性を探るためには実測試験が必要ですが、今回は、とりあえず性能変化の様子を大まかに捉えてみよう、ということで、 同一のタイプTZモーターをコミュ径7.4mmと7.2mmに削り込んで計測してみました。なおコミュ研磨機としては何でもいいんですが、 お恥ずかしいことにこれまでコミュ研磨機というものを持っていなかったので(タミヤから出るまで待ってたんですが)、 自動化と仕上がりの均質化を狙ってHUDY社製の全自動コミュ研磨機 (輸入はセントラルRC扱い)を購入、純正のダイヤモンドバイトと組み合わせて使用しています。 なお、この全自動コミュ研磨機を使って、練習として別のローターを処理した模様を ビデオに収めています(ビッグコミュ仕様なのでコミュがデカいです)。どんなもんだかご興味ある方は こちらを どうぞ!(mpeg1-18.2MB) 計測結果に大きな影響を及ぼす温度については、いつものように25度±1度(実際には夏場なのでともに26〜25.5度)に制御し、コミュテータの表面温度も室温+5度程度の範囲に収めています。なお例によって計測は5回ずつ行い、グラフは取得した5本のデータの中央値で代表させています。 <計測結果> (表1:タイプTZ<新品時=コミュ径7.6mm>の生データ) (表2:タイプTZ<コミュ径7.4mmに切削後>の生データ) (表3:タイプTZ<コミュ径7.2mmに切削後>の生データ) (表4:タイプRZ<新品時>の生データ(参考)) <コミュ径を7.4mmに切削後> <ヨコ軸:回転数で表示> (実線はタイプTZ(コミュ径7.4mmに切削後)、点線はタイプTZ(新品時=コミュ径7.6mm)) <ヨコ軸:トルクで表示> (実線はタイプTZ(コミュ径7.4mmに切削後)、点線はタイプTZ(新品時=コミュ径7.6mm)) <ヨコ軸:消費電流で表示> (実線はタイプTZ(コミュ径7.4mmに切削後)、点線はタイプTZ(新品時=コミュ径7.6mm)) <コミュ径を7.2mmに切削後> <ヨコ軸:回転数で表示> (実線はタイプTZ(コミュ径7.2mmに切削後)、点線はタイプTZ(新品時=コミュ径7.6mm)) <ヨコ軸:トルクで表示> (実線はタイプTZ(コミュ径7.2mmに切削後)、点線はタイプTZ(新品時=コミュ径7.6mm)) <ヨコ軸:消費電流で表示> (実線はタイプTZ(コミュ径7.2mmに切削後)、点線はタイプTZ(新品時=コミュ径7.6mm)) <考察> もともとスチール製のエンドベルストッパーを採用し、出力にして3W程度の「ゲタ」を与えられているタイプRZ並みの性能を求めるのが酷な話なんですが、やはり、7.4mmに追い込んだ程度ではほとんど性能アップの効果は認められませんでした。無負荷回転数は1340rpmも増えましたけれども、最高出力、常用回転域での出力とも、むしろごくわずか下がってしまったくらいです。まぁこの最高出力の値は、トルクが全体的に若干増えていることからしても「誤差」の範囲内でしょうが、それにしても意外に変化がなかったですね。それでも回転数が伸びてパワーバンドが広がったことは評価できるでしょう。ちょっと無理やりの自画自賛ですけど(苦笑)。 ところが、コミュ径を7.2mmまで絞ってみると、かなり様子が変わってきます。表3を見ると、5回のデータ中、中央値で139.1W、最大で141.2Wと、アルミエンドベルリングのままにもかかわらず、タイプRZに肉薄する数字をたたき出しました。その様子をもっと詳しくみるため、代表値のグラフを下に示します。付属する各種のデータに着目すると、興味深いことが分かります。効率、消費電流、トルク、無負荷時最高回転数、フリクションなど、あらゆる数字がほとんど変わらないのです。つまり、ここまで性能が拮抗すると「どっち使っても同じじゃん」と言えそうです。スチールリングなんて気にしない気にしない!(笑) <コミュ径7.2mmのタイプTZとタイプRZ(ナラシ済み新品)の比較> <ヨコ軸:回転数で表示> (実線はタイプTZ(コミュ径7.2mmに切削後)、点線はタイプRZ(新品時) とはいえ、ここまでの結果を引き出す「プロセス」に着目すると、やはりタイプTZのほうが「マニア向け」と言わざるを得ない面倒臭さがあります。タイプRZも、ちゃんとブラシの面取りをしないと(ブラシセッターを使わずに空転ナラシだけだと、2セルのバッテリーで1時間くらいかかります!)本来のパフォーマンスが出ませんから、どっちにしても「何も考えずに新品をそのまま」ではベストではないんですが、特別な加工を要しない、という点ではやはりタイプRZに分があると思います。でも、コミュ研ができて、なおかつスチールエンドベルストッパーを使っていいなら、タイプTZもタイプRZももうまったく同じか、場合によってはTZのほうがごくわずか高出力になると予想されます。スチールエンドベルストッパーによる性能差はおよそ2〜3Wですからね。1Wとか2Wなんて、コミュやブラシのわずかな状態変化で変動するホントにごくわずかの差なんで、無視できる範囲なんですが・・・。 さあ、あなたはどちらを使いますか!? <ついでにひと言:リビルダブルストックの功罪> 2002年からリビルダブル23Tストックの「タイプS」「タイプRR」がリリースされ、タミヤでもいよいよ「リビルダブル時代」に突入してしまいました。時代の流れであることは十分承知のうえですが、率直に言って、筆者は大変残念に思っています。トップクラスの争いをするためには従来と比較にならないような多大なコストを必要とするからです。 「分解整備ができるからランニングコストが安くなっていいじゃない」という方もいると思いますが、本気でそう信じているならあまりに無邪気です。各パーツがバラせる、ということは、それぞれのパーツについて、従来ならあまりにもカネがかかりすぎるのであきらめていた部分まで詳細に吟味・選別を加える事ができる、ということです。ローター、カン(マグネット)といった主要パーツについて、個別にセレクトできるとしたら、どうします? 従来なら自分では選ぶことのできなかったローターとカンの組み合わせが、自身の手に委ねられたとき、最初に考えるのは、「たくさんのローターを購入して選別し、これまた選りすぐりのカンと組み合わせる」という作業でしょう。完成品のモーターを選別するよりもはるかに効果的にチューニングすることが可能なだけに、「やらない人はバカを見る」的な風潮も懸念されます。幸い、これまではそのような涙ぐましい努力はほとんど見受けられないようですが・・・。 エンドベルは性能に影響するようなバラツキはほとんどないので選別する意味はありませんが、ローターの選別作業だけ考えたって、トータルのコストアップは火を見るより明らかです。しかも、コミュテーターはあらかじめベスト径まで削り込み、一度使ったらポイで、また新しいローターに交換、というのが「リビルダブル時代」の究極の作法なわけです。まさに、タイヤ並みにモーターを浪費する時代、と考えると、お先真っ暗です。ユウウツな話をしてしまってごめんなさい。しかし、リビルダブルストックに手を染めるからには、「行く末」についてくれぐれも覚悟しておいたほうがいいと思います。 幸いにも、現実にこんなことをタミヤGPでやる人は、現時点ではごくひと握りのマニアに過ぎません。「皆無」といっていいくらいでしょう。もちろん筆者だって、すべてを承知のうえで、「良識」としてこうしたチューニングに本気で乗り出すつもりはありません。多くのエキスパートは、「そこまでやって何か意味あるの?」という冷めた目でコストパフォーマンスを考えながら対応していると思いますし、なにより「タミヤGPの精神」を尊重して、やみくもなコストアップを煽るような行為には及ばないでしょう。かくいう筆者も、2004年シーズンのタミヤGPに使うモーターは「タイプRZを1個」と決め、これ以上モーターにカネをかけるつもりはありません。ダイノデータを取るうえでは、最低3個は欲しいところですが、こう毎年ドンドンと新製品を出されては、使いきれない在庫が溜まる一方なので。実際、まだタイプSが3個まるまる未使用で残ってるし・・・。 いまや、エキスパートドライバー(筆者のような「なんちゃって」を含む)であれば、モーターのメンテナンスにコミュテーター研磨を取り入れるのは半ば常識となっています。特に、JMRCAで23Tストックが定着した96〜7年頃からは、エンドベル固定式でありながら、ブラシホルダー部の固定ネジを外してバイトを突っ込めるコミュ研磨機が普及し、既にコミュ研磨をする人は大勢いました。あまりに普及したので、「わざわざ専用の研磨機買わせるようなルールを維持するよりも、いっそのこと分解OKにしちゃったらいいじゃないの」ということになったわけです。当時既にアメリカでリビルダブル・ストックを認める動きが先行しており、これに追随する形で日本でもリビルダブル化が解禁されたという経緯があります。しかし、いくら「異なる製品のパーツとの交換を認めない」とはいっても、「同一銘柄のなかでのパーツ交換」は誰がチェックしたって分からないわけですから、イコールコンディションを保つには、タミヤ世界戦(本戦)のように「支給モーター」にするとかでないと、「競争の土俵に上がるまでに要するコスト」がものすごいことになってしまうのは上述したとおりです。 余計なお節介と言われればそれまでですが、このへんをどうクリアしていくかは、もはやユーザーの自主的な判断でコントロールできる範囲を越えていると思います。メーカーと主催者が真剣に「コントロールモーター」などの考え方を導入していかないと、早晩、JMRCAのスポーツクラスやオープン規定のローカルレースは1/12や1/10オンロード並に参加者が固定化し、間口の狭いカテゴリーになってしまうでしょう。そのような事態はRCファンの1人として大変残念なことなので、できれば杞憂に終わって欲しいのですが・・・。
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