posted on 5/11/2002
last updated on 10/18/2007
タミヤRC製品・即買いカタログ
<モバイル版> <PC版>
powered by Amazon

RC Car Trend モーター研究室

<タミヤモディファイドモーター列伝>



<それは「ブラックモーター」から始まった>

タミヤのモディファイドモーターの歴史は意外に古く、 ほぼタミヤRCカーの歴史と言っても過言ではありません。 実車がそうであるように、性能アップの近道は、今も昔も動力のパワーアップ。電動RCでいえば モーターの交換にほかなりません。タミヤで電動RCカーが始まってまだ2年目、シリーズとしても 3作目の「タイレルP34」が出て間もない1977年12月1日、早くもオプションとしてマブチRS-540Sが登場。 これは厳密にはモディファイドモーターではなくてただのoptパーツですが、以後のタミヤモディファイドモーターの 「原点」として無視できません。 ちなみに、意外にあまり知られていないようですが、540S/SHは0.65mm線のシングル27ターン (マブチ社内では「6527」と呼ばれます)、 というスペックのモーターです。 これがすべての比較の基本になるスペックですので、この際、ぜひ覚えておきましょう!

「マブチRS-540」は、そもそもはRC用なんかではなくて、多目的の汎用モーターです。そのため、ノイズキラー用のコンデンサは カスタム仕様として「外付け」されていました。それも初代の樹脂製白エンドベルの頃は大きいセラミックコンデンサが1個、 +−両極を直結する形で付いていました。その装着方法も、今からすれば驚くべきことに、手作業によるハンダ付け(!)だったのです(写真は380Sの例ですが540Sも同じでした)。
380Sのエンドベル
しかし、他社製品も含めて電動RCが爆発的なヒットを続けるなかで、さすがにいつまでも手作業では済まなかったのでしょう、 1980年3月〜4月発売の「ウィリアムズFW07/ロータス79競技用スペシャル」からキット標準で同梱されたとみられる 第2世代の黒エンドベル仕様ではノイズキラーが大幅に見直されました。 同じセラミックコンデンサでも、一段と高周波に対応できる小型タイプの2個仕様となり、モーター缶をアースとして当初はハンダ付け、後年になるとスポット溶接で両極と缶に接続する方式に改められたのです。
540S後期仕様(第2世代)
ところで、540Sモーターが電動RCカーに使われるようになった1970年代後半の頃は、 まだブラシ摩滅の影響も考慮されておらず、正転・逆転どちらにも使う可能性があったので、 540Sでは「進角ゼロ」のエンドベルが使われていました。このため、ブラシが摩滅し、片減りすると進角がついてパワーアップするので、 進角方向に片減りさせるための「逆転ナラシ」がチューニングとして大いにモテはやされた、そういう時代でした。

ちなみに、後に7.2V仕様に改められた540SHでは、 エンドベルが金属製となり、ブラシに逆進角
540SHがつき、ブラシの摩滅につれて回転は上がるものの出力は均衡ないし若干落ちる
よう設計し直されています。 ドライヤーや自動車用ワイパーなどにも使われる汎用部品向けの設計としては、 ブラシの消耗で「パワーアップ」なんてしたら「欠陥品」なわけで、このような仕様が望ましいのでしょうが、 RC用としても同じ設定が流用されている(メーカーオプションで変更できるのに)理由については、 タミヤから話を聞たことがないので不明です。恐らくは、「キット標準」という位置づけからして、 「使い込むほど性能アップ」という話は無いほうがいい、と判断したのでしょう。

昨今はノイズ対策が当たり前となってきているので、ノイズキラーも標準装備となり、機器への組み込みの邪魔にならないよう、 エンドベルの内側に移動しています。540SHやスポーツチューン(540SHのエンドベルを流用) のノイズキラーコンデンサが外から見えないのは、そういう理由です。

RC用としての540Sは、当初は6V電源を前提として、これをニッカド5セル(汎用の1200SCセル)、 ないしは乾電池4本で実現していました。ただし、タイヤも標準は中空ゴムでしたから (インナーなんてありません、タイヤゴムの剛性でタイヤがヨレもせず走れていたのです!)、 これでも十分なパワーがありました。当時は1/12スケールが中心で、マシンの全備重量は1200g前後でした。 一部の電気に強いユーザーは、 RC電源をバッテリーから取ることでRC電源用の単三電池4本分の重量をカットし (注1)、ミニサーボの使用や受信機カバーを外すといった工夫で1100gくらいまで軽量化していたようです。 このため、「6Vの540パワー」でも、走行速度は時速25〜30km/hくらいは出ていたのです。 もちろんマシンの軸受けにはしっかりボールベアリングが入ってましたヨ!
(注1)これが後に「BECシステム」という形でプロポメーカーにフィードバックされ、一般化していきます。


さて、時代は進み、80年代に入ってくると、タミヤ以外のメーカーがどんどんトンガったモデルを出し始め、 JMRCA主催の全日本選手権も次第にヒートアップするに至り、タミヤとしても時代の流れ、すなわち飽くなきパワー競争の波に のまれていきます。

カンナムローラのキット この、JMRCA全日本を頂点とした「ワークス対決」が絶頂期にあった1980年、タミヤが満を持して送り出したのが、 伝説の「レーシングマスターMk.1」そう、あの「カンナムローラ(Item 58021)」です。 このマシンに同梱されたモーターこそ、タミヤ初のモディファイドモーター(注2) としてマブチに特別に作らせた「ブラックモーター」でした。 正式には、当初「マブチRS-540SDブラック」(sp.136、3800円)と呼ばれました。 出力側だけですが軸受け部分にボールベアリングが入り、12度のブラシ進角が与えられ、回転方向が指定されたタミヤ初の純レース用モーターとなりました。 なお、このモーターセットには、カウンタック/ポルシェ936(380S仕様のシャシー)に後付けできるギヤケースが付いていました。

カンナムローラに同梱の初期型ブラックモーター。モーターラベルに「スプリント」の表記がないのが分かりますか〜? また、カンナムローラに先立つ1979年7月には、カウンタックなど「競技用スペシャル」シリーズの人気を背景に、強化形バッテリーとして、タミヤ初の6セルパックである「タミヤカドニカ7.2Vバッテリー(Item55008、5800円)」いわゆる「ラクダパック」が発売されています。この頃はまだ、タミヤGP=5セル6V、JMRCAが5セル6Vから6セル7.2Vへ移行しつつあり、海外(IFMAR)ではアメリカROARルールの影響で既に6セル7.2Vが定着、という混乱した状況でした。1980年前後の様子を振り返ると、ローカルレースでもまだまだ5セル6Vが多かったですね。ラクダパックをレースで使った覚えがありませんからね。ラクダパックは、当時最も入手しやすかった6セルパックでしたが、いかんせん「タミヤ専用」のパッケージングで、他のメーカーのシャシーには使いずらかったのです。現在につながる「ストレートパック」式の6セルパックが普及し始めたのは、タミヤが「レーシングパック(Item55015、5800円)」という名称で1982年11月に発売を始めてからです。
(注2)
当時は「モディファイド」というのは海外から輸入した高性能モーター、 というニュアンスが強く、一般には「チューンド・モーター」という呼び方でした。 当時は基本的にマブチやイガラシの540サイズのカンに各チューナーが特製ローターを仕込む、というケースが多く、したがってブラックモーターのようにエンドベルが固定されているものも少なくありませんでした。現在のノリで「モディファイド=分解可能モーター」という意味で理解すると、誤解されてしまう部分がありますので注意してください。
ブラックモーター・スプリント。赤いエンドベルが特徴 その後、JMRCAでは、上部の国際組織であるIFMAR世界選手権の影響を受けて1/12レーシングのレースを「8分レース」に移行しました。 わずか2〜3分の走行時間でひたすらパワーを追っていた、赤エンドベルの「ブラックモーター」ではこれに対応できないのは明らかで、 「新ルール対応ではないヨ」というのを明確にするため、「ブラック・スプリント」(sp.189、3000円)と改名。 従来付属していたカウンタック用ギヤケースが省略され、パッケージも品番も新しくなって83年8月より販売されました。 モーター自体の仕様は変えないまま2種類の異なるパッケージで販売されたわけです。そんな時代もあったんですね。 「カンナムローラは買わなかったけれど、ブラックモーターは買ったよ」なんて人も多かったのでは?  とにかく、当時は田舎のRCマニアにとって最も手に入れやすく、共通の話題にもなっていたチューンドモーターでした。 実際、タミヤにとっても結構なヒット商品だったのではないでしょうか。

ブラックモーター・エンデュランス。こちらは青いエンドベルです 「ブラック・スプリント」に続いて、「8分ルール対応モーター」として1983年11月にリリースされたのが 「マブチRS-540SDブラック・エンデュランス(sp.200、3000円)」です。これは翌年1984年5月には8分レース用シャシー 「レーシングマスターMk.5/ポルシェ956」の同梱モーターとしても採用されています。

また、翌1985年には同梱モーターをマブチRS-540Sにスペックダウンした レーシングマスターMk.6「トムス84C」およびMk.7「ニューマンポルシェ956」が発売されましたが、 実は、これらのキットに同梱された540というのは、知る人ぞ知る、「ベアリング内臓の540S」というシロモノでした。 ここに示した写真がその現物。 そう、進角ゼロのオリジナル540S(黒エンドベルの第2世代6V仕様)に「ブラックモーター」の軸受けを組み合わせていたのです。 スピコン端子付きのトムス84C/ニューマンポルシェ専用品なので、 アフターサービス(当時)だけでしか入手できない、超レア品です。

この540Sについて、2006年4月に「ポルシェ956/トムス84C」の紹介ページをアップした後、 カスタマーサービスにダメ元で問い合わせたところ、奇跡的に「2個だけ」残っていたので、早速購入してみました。 ところが残念なことに、入手したモーターは仕様変更を受けていて、7.2V仕様・逆進角つき金属エンドべルの「540SH」でした。 モデル末期にはモーターが540SHに変更されていた、ということなのでしょう。 サンプル数を追加して「ベアリング付き540S」の高精度なテストデータを取ってみたい、という当初の目的はかなわず残念でしたが、 540Sから540SHへの切り替え時期を知るうえでは貴重な事実が分かりました。

「ブラックモーター」シリーズは、タミヤ初のモディファイドとして画期的でしたし、マブチとしても、 RC専用のカスタムモーターを初めて作ったという意味で歴史的な価値のあるモーターだったのですが、内容的には、 率直に言って、当時のレベルから見てもかなりショボいものでした(笑)。 ボールベアリングは出力側の軸受けのみでエンドベル側はプレーンメタルのまま、カン、ローター、エンドベルといった基本パーツも540Sと共通でしたからね。でも、「タミヤが売ってる」というだけで、もう十分なバリューだったのです。これは今も昔も変わりませんねえ。そういう意味で「タミヤ」というブランド力は素直にスゴいと思います。

タミヤとしても、20年前当時でも2万6000円!(インフレを考慮した現在価値では7万円前後になるでしょう) という超高価な「カンナムローラ」がそんなに売れるとは思っておらず、あまりリスクを取る商品企画ができなかったのかも知れません。 確かにカンナムローラ自体は、全国的にみれば、お世辞にも「売れた」とは言えなかったようです。「高価だから」というよりも 「メカに凝りすぎて重過ぎ、シャシーデザインも実戦的でなく、他メーカーのマシンと勝負にならない」という理由からです。 当時は「タミヤクラス」なんてなくて、メーカー制限なしのレースが前提でしたが、そんななかにあって、 当時すでに1000gを切るマシンが当たり前だったのに、全備重量1200gという「キングタイガー級」の重量マシン、 それがカンナムローラだったのですから。おまけに独特の1ピースシャシーは絶対的なメカニカルグリップの面でもライバルより 劣っていました。期待されたJMRCA全日本でもAメイン入りはおぼつかず、活躍の場はタミヤグランプリのみ。 「見た目」のインパクトはものすごく新鮮だった(今でも!)のですが、いざ走ると、タイムにつながらない、 机上の空論で作られたクルマ。こういう傾向は、80年代いっぱいまでずーっとタミヤ車の「お約束」みたいに続いてきて、 90年代のトップフォースEvoやダイナストームでも覆し切れなかった「悪しき伝統」でしたね。TRF414でようやく JMRCAでのAメイン入りが定着し、2000年のスポーツクラスではAメインでのトップゴール(1ヒートのみ)も実現し、 さらにISTC(ツーリングカー世界戦)で2人のチャンピオンを輩出し2期4年間にわたってチャンピオンメーカーの座を守るに至って、 この悩ましい伝統は完全に打破されたわけですけどね。

なお、ブラックモーターについては、「モーター研究室・その9」にて詳しくレポートしています。合わせてお読みください。



<80年代半ば:タミヤにも分解式モーターの波>
さて、以後の数年間、筆者はRCから遠ざかっていたのであまり詳しくは語れませんが、 さすがに、「ブラックモーター」程度の仕様では、年々激化の一途を辿る1/12レーシングではユーザーのガマンも限界の極みに達したようで、ついに84年12月、マブチとの共同開発により、8分レース専用の高効率な「RX-540SDテクニパワー」(sp.225、4500円)が発売されます。両軸ベアリング支持、完全分解式で進角調整も可能になった初めてのモデルです。翌85年3月には、ターン数を増やし特性をマイルドにした「RX-540SDテクニチューン」(sp.230、4500円)も発売されました。こちらは、流行の兆しをみせていたバギー、特に2WDマシンでの使用を念頭に置いたモーターとして発売されたものです。なお、テクニパワーとテクニチューンは、マブチとしての型式は同じで、タミヤでの品番が異なっているだけなので要注意です。ターン数はカタログに記載がないのですが、後に出てくる「テクニゴールド」が21Tシングル巻き、ということからすると、テクニパワーで21T、テクニチューンで23T程度だったのではないでしょうか(シングル巻きであることは確認済み)。線径は未確認ですが、見た目では0.70mm程度です。

このRX-540系モーターから、ようやくタミヤの「チューンドモーター」も世間並みに「分解式」となります。スペアブラシ、スペアローターなんてのも出てきました。しかし当時は、まだRC用モーターの部品について、今のような汎用性のある部品がほとんど存在していませんでした。各メーカーが共通して調達していた部品なんて、マグネットとローター回りの部品、軸受けくらいしかなかったのではと思います。モーターカンやエンドベル、ブラシ、ブラシスプリングなど、各メーカーが思い思いに設計していたのです。当然製造コストは高く、今から20年前に5000円前後、というのですから、今の価値に換算すると1万円〜1万5000円くらいの価値のあるモノとして当時のユーザーは購入していたわけです。もうこうなると、宝石みたいなものですよね。

確かに、前後のエンドベルと中央のマグネット部分を長ビスで組み上げるモーター、というのは、なかなかにメカメカしくて、今となっては懐かしい思い出です。今では、どのメーカーも、カンとエンドベルという「見える部分」のデザインや色だけを変えて、細かいパーツについては汎用部品をあれこれ組み合わせているだけ。価格的にはずいぶんと安くなりましたから文句はないのですが、モーターカンも、分割式というのはハイエンドモデルでも完全になくなり、プレス加工の1ピースものばかりで、「つまらなくなった」と思うのは筆者だけでしょうか。


<80年代後半:モーター元禄時代>

時代は変わり、世の中は1/12レーシング中心のオンロードが廃れ、バギーが急に売れ始めます。 「ミニ四駆」ブームと連動したバギーブームの始まりです。時代はいわゆる「バブル経済」の真っ最中。 80年代中盤〜後半にかけて、都会のデパート屋上に相次いでバギーコースが設けられ、テレビでは「タミヤRCカーグランプリ」などの テレビ番組が放映、ブームを支えました。発表前から大変な注目を集めたタミヤ初の4WDバギー 「ホットショット」から始まり、最後には「アバンテ」「イグレス」なんていう3万円も4万円もするフルopt仕様のバギーモデルがバンバン売れました。新宿「伊勢丹」の屋上にバギーコースがあったとか、新宿NSビル内のアトリウム(吹き抜けの広場)で特設コースを作ってタミグラを開催したとか、子供向け雑誌とタイアップしたRCモデルがテレビCMで宣伝されてた、なんて言ったら、今じゃ誰が信じるでしょうか? でも、そんな時代が確かにあったんです。まさに「ラジコン元禄時代」とでも言えそうな、カネ使いも商品企画も贅沢でバブリーな時代でした。

タミヤが1988年3月の「アバンテ」発売を機にTRFを結成し(avexのTRFより4年も前<笑>)、同年のJMRCA全日本でAメイン8位に入るなどしてワークス活動に本腰を入れ始めたのもこの時期です(TRFはその後 「ダイナストーム」の発売後93年頃をもって一時休止しましたが、96年以降、1/8GP・BMTでのレース参戦やTRF404〜414シリーズの開発で活動を再開したのはご存知のとおりです)。当時東京・三鷹で学生していた筆者は、そんなことはツユ知らずでRCのことなんか忘れ、全然RCとは関係ないオーケストラ活動に全力を注いでいました。伊勢丹にコースがあるなんて当時知ってたら、まるっきり人生変わってたと思うんですけどね。。。

閑話休題。この空前のミニ四駆ブーム&バギーブームのなかで、パワー競争は一段と激化しました。しかし、バッテリーの容量は相変わらず「1200mAh」のまま。セルの種類もSC(汎用スタンダードセル)のみ。80年代初頭に予選時間45秒(!)で争っていたJMRCA1/12レーシングの悪夢がパワー競争とともに再び忍び寄って来ました。やみくもにモーターパワーを上げると、ランタイムがたった3分くらいしか持たなくなってしまう、というジレンマです。

これを手っ取り早く解決する手法として80年代中盤の一時期、脚光を浴びたのが「7セル8.4Vパック」というバッテリーです。 タミヤでも、「タミヤRCカー発売十周年企画」として、ムーンクラフトの由良拓也氏デザインによるバギー「ビッグウィッグ(Item58057、2万5800円)」を86年7月に発売し、同時に「タミヤカドニカ8.4Vゴールドパワー(Item 55025、6400円)」をリリースしています。さらに、同梱モーターとしても新たに8.4V対応のハイパワーモーターとして「RX-540VZテクニゴールド(sp.290、5000円)」を開発。翌86年8月からスペアパーツとして別売りも始まりました。なお、テクニゴールドのローターは0.8mmシングル21ターンです。

ここまで発売された一連のマブチ製モーターは、基本的に全てのパーツに互換性がありました。最終モデルであり、8.4Vバッテリー対応型の「テクニゴールド」の取説には、「テクニパワー/テクニチューンのブラシに換えると性能が落ちます」と注意書きされていますから、テクニゴールドとそれ以前の2モデルではブラシの素材が違うようですが(たぶんテクニゴールド用のほうが柔らかいのでしょう)、金具の形状は同じで互換性はあります。ローターも、線径や巻き数はもちろん違いますが、寸法は同一なので流用が可能です。このあたりは、カスタムモデルを作ってもやっぱりマブチですね。

そうこうしているうちに、1987年、日本でのF-1GPが復活するのに合わせてタミヤからも「ロードウィザード」のシャシーに新しくロータス99TとウィリアムズFW11Bのボディを付けたキットを発売。にわかにF1ブームが沸き起こってきました。

ダイナテック01R 当時のF-1モデルは、70年代末に発売された「タイレルP34」「リジェJS9」など第1〜2世代のF1シャシーと比べて、軽量化の面でも、走行性能の面でも大きく進歩しており、540パワーでも初心者にはちょっと手に負えないくらい、十分楽しめる速さを持っていました。それでも、さらなるパワーとハイスピードを求めるユーザーが増えてきたことから、これに対応するために出てきたのが、「ダイナテック01R(op.1、5500円)」です。これも、マブチのカスタム品で、マブチ社内の呼称は「RX-540VS」となっています。

え、op.1?そうなんです、記念すべき「ホップアップオプション」の第1号がこのモーターなんですねえ。ホップアップoptの歴史もまた、モーターとともにある、そんな感じですかねえ(笑)。

ところで、「ダイナテック01R」では、ローターに「オプション設定」が初めて出てきたことが特筆されます。 ダイナテック01Rの標準は0.90mm径の19Tシングル巻きでしたが、オプションとして1.00mm径の17Tシングル巻きが用意されたのです。
それまでにも、ワークスメンバー(TRF)やJMRCA参加者へのサポートとして、現場で特注スペックのローターを供給されるようなケースはあったようですが、一般に出回るようなケースはありませんでした。こうした「そのレース限り」のスペシャルモーターを現場で頒布ないし配布する、というノリは、バギーブームの盛り上がりとともに、むしろ今よりもはるかに先鋭化していたようです(歴史を遡ると既に70年代末頃からワークス専用の「全日本スペシャルモーター」は存在してましたけどね)。また、RX-540系では、別々の名称で出された「テクニパワー」「テクニチューン」とも、ローターに互換性があったので実質的にはこの頃からスペアローターにopt設定があったようなものですが、当初からoptとして出てきていたわけではありませんでした。

この頃から、バッテリーにもついに技術革新の波が押し寄せてきます。長らく使われつづけてきた汎用のSCタイプセルが発売後10年を経てついに廃され、新たに大容量の1700SCEセルが登場したのです。タミヤでも「1700EX」として1987年11月に発売されています(Item55038、6000円)。

ただ、このSCEセルは繰り返し充電に弱く、放電特性としても後半にダラダラになってしまい、必ずしもRC用として適していませんでした。そこで、大電流放電が可能で最後まで電圧が持続できる「SCRタイプ」が開発され、「1400SCR」(Item55051、4400円)として登場しました。1990年のことです。容量の表記からも分かるとおり、容量を犠牲にして、放電電圧の落ち込みを抑える方向にセル構造を振った設計になっています。ただ、実際に走行に使える容量でみると、最後までタレにくい分、1700SCEとさほど変わらなかったようです。

折りしも、ニッカドバッテリー市場では、三洋電機の独壇場に松下電池が挑戦を開始し、RCレースでも「パナソニック」が徐々に注目を集め始めました。「1400SCR」はこの争いに終止符を打つべく、サンヨーが繰り出した必殺ウェポンだったわけです。結果的には、「1700SCE」や「1400SCR」の登場をきっかけに、ニッカドバッテリーに「容量競争/特性競争」という新たな戦いが始まり、以後2年ごとに「1700SCR」「1700SCRC」「2000RC(タミヤパックでは不採用)」「2400RC」「3000MH」といった具合に新製品が出る、90年代の怒涛の開発競争に突入していくわけですが・・・。

ダイナテック02H さて、こういったバッテリーの大容量化の恩恵をフルに受けたのは、何といってもモーターです。何しろ、ターン数を減らしてパワーアップしてもランタイムを維持できるわけですから、年を追ってどんどん過激なモーターが出てきました。そんな時代を象徴する記念碑的なモデルが、89年11月にホップアップオプションとしてリリースされた「ダイナテック02H(op.44、6000円)」です。これは後に、「スーパーアスチュート2WD(91年8月、Item 58097、2万1000円)」や「トップフォース・エボリューション(92年6月発売、Item 58107、3万8000円)」といった超ハイスペックモデルにも同梱されています。

「ダイナテック02H」は1400以上の大容量バッテリーの使用を前提に、コバルトを含有する当時最高レベルの希土類マグネットを贅沢に採用、0.65mm径13Tダブル巻きローターという、今でも十分に通用するスペックで登場しました。 オプションローターはなんと線径0.70mmの10Tダブル! ニッカドバッテリー用としては当時最高レベルのスペックで、 このモーターを含め「ローター無制限(社外品もOK!)」のルールで争われたタミヤGPのツーリングカー・Gr.Aクラスでは、夏場になると、バッテリーコネクターが溶ける!なんて事故もときどき見受けられるほどでした。当時はPL法(製造物賠償責任法)がなかったので、事故は原則としてユーザー責任で、メーカー側は割合とお気楽なスタンスでこんなホットなモーターをリリースできたのですね。懐かしい平和な時代でしたね。

ダイナテック02Hのスペアブラシ ダイナテック02Hのoptローター このダイナテック02Hモーターは、オフロード走行を強く意識した独自のエンドベル&ブラシデザインを採用したおかげで、スペアブラシがなんと1000円!というとてつもなく高価なモノになってしまいました。まさに大鑑巨砲時代の末期に出てきた「戦艦大和」状態です。モーターカンも、相変わらず3ピース構造の贅沢な作りです。結果的に、タミヤモーターとしては最後の3ピース構造のモーターになりました。こんな行き過ぎたコストアップにユーザーがついて行けるハズもなく、バギーブームはほどなく衰退の一途を辿っていきます。別にタミヤやダイナテック02Hのせいじゃないんですがね。。。

「ダイナテック02H」でもうひとつ特筆されるのは、このモーターがタミヤで初めて、 マブチ以外のメーカーから供給されたモディファイドモーターとなったことです。メーカーは香港のジョンソン社。 ジョンソン、といえば、今では540互換のいわゆる「ジョンソンモーター」で知られますが、80年代のバギーブームには540タイプのストックモーターはあまりレースに使用されていなかったので、どちらかというと当時は「ダイナテック02H」でジョンソン社を知った人が多いのではないでしょうか。

ただ、ジョンソンは世界的にもマブチに次ぐ大手の小型モーターメーカーであり、以後も540タイプモーターの供給を安定化させるためのセカンドソース(代替供給元)として取引が続いていることは皆さんご存知のとおりです。「ジョンソンモーター」がキットに同梱されるようになったそもそものきかっけは、「ブラックフット」系のビッグタイヤのキット同梱モーターとして、540Sより少しパワフルなモーターが欲しくて、 「特製モーター」という触れ込みでに同梱したのが始まりのようですが。

ところで、このようにハイエンドのモーターが年々どんどんスペックアップしていくと、ベーシックな540モーターのスペックは基本的に変わりませんでしたから、パワーの格差は開いていく一方でした。80年代末当時のキットのラインアップ、特に当時主流のバギーモデルをみると、540を同梱した入門用モデルと、テクニ系、ダイナテック系のモーターを同梱した純レースモデルに極端に2分されていたのです。しかし、タミヤ車を買うユーザーの多くは入門者で、いきなり純レースモデルを買ってしまうと、その高性能が手に余ってしまう、といったケースも少なくなかったようです。もうちょっと、おとなしい性能で、540よりはハイパワーなモディファイドモーターが欲しくなってきたのです。

こうした要求に応えるべく生まれたのが、「RS-540スポーツチューン」(op.68、1500円、90年10月)です。これはキット同梱モーターとしては「アバンテ2001」(Item58085、90年6月発売、2万6800円)で先に登場し、続いてCカーシャシーシリーズ第1弾「メルセデス・ベンツC11」(Item58088、90年11月発売、1万3000円)にも採用されました。初代「アバンテ」は「テクニゴールド」装備でお値段も3万4800円と豪華装備だったのですが、もっとお手軽な「中級モデル」としてより多くのユーザー獲得を狙った、それが「アバンテ2001」だったと言えるでしょう。また、「Cカー」シリーズは、全備重量が1200gとF1モデルより重く、540では動力性能がやや不満でした。こうしたモデルにはピッタリのモーターとして、以後、「スポチュン」はタミヤのモディファイドモーターの品揃えに欠かせないロングセラー商品となっています。恐らく、既にタミヤのモディファイドモーターで最大のベストセラーになっているのではないでしょうか。ブラシのライフが短い、マグネットが熱ダレしやすい、など、いろんな批判もありますが、なんと言っても、ひと昔前には5000円払って手に入れていたモーターと同レベルの性能が、わずか1500円で手に入るようになった、このインパクトは相当大きかったのではないでしょうか。

蛇足ですが、「スポチュン」は0.80mm径の23Tシングル巻き。ちょうどダイナテック01Rの0.90mm19Tシングル巻きと540S/SHの0.65mm27Tシングル巻きとの中間的な仕様です。この、「入門者にも程よい高性能」がいかにツボを得たものであったかは、後にこの仕様を基準として、日本独特の「23Tストック」が生まれ、JMRCAでツーリングカー・スポーツクラスの規定などに採用されたことからも伺えます。結果論としては、まさに、タミヤモーター史上に残る最高傑作、と言っても過言ではないでしょう。



<90年代:多様化の時代>

モディファイドモーターの「第3の波」が来たのは1993年以降です。その前に、80年代後半から90年代初頭にかけて「F1ブーム」が あったわけですが、ここでもっぱら使われたのは540タイプのストックモーター。 「ロードウィザード」から「F101シャシー」に発展してF1カテゴリーがタミヤGPの人気クラスとなり始めた当初、 EXPクラスでは重量無制限だったため、930〜950gなんていうとんでもなく軽量なマシンも仕立てられていて、 モディファイドモーターは一時期「無用の長物」と化していたわけです。 ダイナテック01Rでさえ、パワーとしてはあり余ってる感じで、使いこなすにはなかなか大変でした。 その後、タミヤ全日本が始まるようになった頃から全クラス1000g以上となりましたが、 いずれにせよ性能アップの中心は、シャシーやシャフトなど主要部品をカーボン素材へ置換したり、 切削加工などによる「軽量化」でした。バッテリー性能が年々改善されだしたこともあり、 540パワーで「EXPも満足のスポーツ走行」が十分可能だったのです。 このあたり、いまどきのRCキットに失われてしまった部分ですよね。「軽量でシンプル、540で十分速いキット」というのが復活して欲しいよう。。。

しかし、そのF1ブームも一巡し、次にきたツーリングカーブームでは、いかんせん1600gという重量 (その後、見直されて1995年頃から1500g規定になりましたね)が負担となり、540では完全にパワー不足。 満足なパフォーマンスを得るためにモディファイドモーターが見直されました。バッテリー容量も1400〜1700に増えてランタイムの不満も減りましたしね。

この流れから最初に出てきたのが、「アクトパワー」シリーズです。このモーターから、ようやくタミヤでも、 汎用ブラシとしてすっかり一般に定着していた「5×4mmブラシ」が採用されました。めでたし!

アクトパワー2WD まず最初に出てきたのが、オープンレース用2WDバギー 「ダイナストーム」を念頭に開発された 0.75mm14Tダブルのピンク缶 「アクトパワー・オフローダー2WD」(op.122、4800円、92年11月)。次いで0.70mm15Tダブルの「アクトパワー・ツーリング」(黒缶、op.153、4800円、93年11月)、0.70mm17Tダブルの「アクトパワー・フォーミュラ」(メタリックブルー缶、op.154、4800円、93年11月)が登場しました。またこの時期に、バッテリーも刷新され、容量アップした「1700SCR」(Item55056、5200円、92年10月発売)、後には当時「究極」と謳われた「1700SCRC」(Item55062、5800円、95年3月発売)が登場しています。特に1700SCRCは、実際の放電容量は1800〜1900mAhを確保しており、放電特性も過去に例を見ない優れたモノでした。実はこの「SCRC」というタイプのセル、サンヨーの産業用バッテリーセルのカタログには載らない、初めての「RC専用品」でした。特に、初年度に生産された、いわゆる「Zダマ」の性能が飛び抜けて良く、後年のロットがザッピング処理なしではこの性能を凌げなかったことから、「バッテリーのロット違いによる性能差」について気を配る人が増えるキッカケにもなった、エポックメイキングなセルでしたね。

「アクトパワー」シリーズで新しかったのは、「用途に応じたラインアップを用意した」こと、言い換えれば 「多様化したニーズへの対応」という点です。既に「テクニ」シリーズでのローター互換性の確保、 「ダイナテック」シリーズでのoptローター設定という形でその萌芽があったわけですが、 「アクトパワー」ではさらに一歩進めて、パッケージから別個になりました。それだけマーケットが広がっていた、 ということでしょうか。そういえば、この頃から、発売されるキットの数がボディバリエーションの増加という形で 急激に増えました。海外への輸出も伸びたようです。

ただ、アクトパワーで「こりゃヤリ過ぎ」と思ったのが、スポット生産の形で限定販売された 「アクトパワーTRFチューン」(Item49567、8000円、93年12月発売)です。バギー用という触れ込みでしたが、 そもそもは先行して1992年前後に開発が進められていた試作バギー 「TRF411X」 とTRFのワークス活動に合わせて作られたモノでした。 ローターは0.8mmダブル巻き12Tとダイナテック02H以来のハイスペック。マグネットも強化され、ダイナテック02Hのoptの10ターンローター仕様にこそ 敵いませんが、ノーマル状態のタミヤモーターとしては史上最高レベルのパワーをひねり出します。

TRFチューン+411X ブラシは当時ちょっとしたブームとなった、5×5mm、いわゆるビッグコミュ&ビッグブラシの組み合わせです。エンドベルがまた豪華で、 アルミ削り出し。ビッグコミュ、ビッグブラシ、アルミ削り出しエンドベルはこのモデルが初採用です。 カンも特別に冷却を促すフィン加工が施されたスペシャル品。ついでに、お値段もビックリの8000円! 手巻きの最高級モーターが5000〜6000円で買えた時代に、ですよ! 機械巻きローターなのに! まさにバブル経済期のワークスモーターを彷彿とさせる設計ですが、時代錯誤も甚だしかったのがなんとも残念。 バブル経済はとうに崩壊し、バギーブームもとっくに過ぎ去りマニアだけのもの、 モーター発売に先立ってTRFもバギー分野でのレース活動を休止してましたし、 タミヤGPですらバギーは既に年初の新春レースしかやっておらず、今さらこんなもん出して誰が使うの?と 訝っていたのを良く覚えています。結局、タミヤGPで唯一の使い道だったGr.Aクラスも95年には廃止となり、 さらに追い討ちをかけるようにオープンレースでのビッグブラシの使用も禁止され、95年頃には ビッグブラシ自体が一気に廃れてしまいました。結局タミヤでも交換用ブラシは定番アイテム化されなかったですしね。 そんなわけで、実に使い道のないバブリーなモーターとなってしまったのは 返す返すも残念です。歴代タミヤモーターの中で最もオソマツな商品企画だったのではないでしょうか。

そんなこともありましたが、この後もひるむことなく、どんどん新製品が出てきます。1995年末からは、 新たにシンナゴヤ(WAVE)製の「アクトチューンMスペシャルモーター」および「ダイナラン」シリーズが始まります。
「アクトチューンMスペシャルモーター」通称「Mチューン」(op.251、3000円、95年12月発売)は、小型軽量なミニクーパー用Mシャシーに合わせて、ローターの長さを通常の540タイプの1/3に切り詰め、モーターの全長も540タイプのほぼ半分にした特別なモーターでした。通常のモーターと単純比較できるモーターではありませんが、ローターは確か0.65mmの22Tシングル巻きだったと記憶しています。また、分解可能モーターでしたが、軸受けはコスト削減のためオイルレスメタルという、珍しい組み合わせになっていました。

「Mチュ−ン」は、小型軽量、トルクが細い分チューンドモーターにしては扱いやすい特性で、進角変更ができるため、 モーターを逆転で使用するM-02シャシーにも使える、といった点がウリでした。そのへんは狙いどおりのモノだったのですが、 しかしながら、サイズ相応で熱容量が小さくなっているくせに、エンドベルやモーターカンにまったく開口部がなくクーリング性能ゼロで、 走行してすぐに熱ダレを起こしてしまう、やっかいなモーターでした。もっとも、タミヤGPでは2シーズンくらいで MシャシークラスへのEXP参加が禁止となり、Mチューンも使用できなくなりました。2002年頃までカタログに残っていた モデルですが、今、Mシャシーいじってる人には、ほとんど忘れ去られているんじゃないでしょうか。

一方、ツーリングカー向けの「ダイナラン」シリーズは、当時シンナゴヤが力を入れていた1/12オンロード向けを強く意識して 提唱していた「ショートスタック」仕様のローターを採用したのが特徴でした。これは、ローターの全長を詰め、 軽く、ローターのトルクも弱くなるよう仕上げることにより、 マグネットを強くしても転がりやすいモーターに仕上げ、スロットルレスポンスを改善しよう、という狙いが込められたものです。

ラインアップとしては、モディファイドの「ダイナラン・スーパーツーリング」(ショートスタック15Tシングル= 実質13ターン相当)(op.263、5000円、96年6月発売)とストックタイプの「ダイナラン・ストック」 (ショートスタック20Tシングル=実質17ターン相当)(op.272、2500円、96年10月発売)の2種類が出されました。 いずれもエンドベルは基本的に「Mチューン」と共通の、クーリングの抜けが悪く、ブラシカスが溜まりやすいデザインで、 「アクトパワー」系のエンドベルより加工精度が悪くなってしまったのが残念でした。正直、あまり評判は良くなかったと思います。 他に選択肢がないから仕方なく使ってましたけど・・・。

ダイナラン系では、ローターの長さが短く詰められた分、空いたスペースに冷却ファンが入り、強制的にクーリングするという仕掛けが 付いていたのも特徴的です。冷却ファンの考え方自体は、タミヤモーターとしては既にジョンソン製「ダイナテック02H」で 採用実績はあったんですけどね。ただ、ダイナラン系のファンは、形状の問題と、エアフローへの配慮不足で、 必ずしも期待したようなクーリング性能が得られていなかったのが惜しまれる点です。何しろ、カンやエンドベルに「穴」が ほとんど開いてない。カン側面に開いている穴は、エアの「出口」になっているわけですが、 「入り口」がまったく無いので、結局はモーターの中でエアをかき回してるだけ。損失が増えるばかりで意味なかったですよね。 どうしてあのようなナンセンスな設計がまかり通ったのか、今でも謎です。

性能的には、「ストック」も「スーパーツーリング」も、狙いどおりのフラットトルクを示し、 スロットルワークにスムーズに反応する扱いやすさとパワーをうまくバランスさせたものに仕上がっており、 新たに採用したブラシ(op.307レーシングモーターブラシとして別売もされたMマーク、後に旧Tマークの刻印に変更されたブラシ)の 高性能と相まって良好なパフォーマンスを発揮。結果的に、タミヤGPでもツーリング用モーターの主軸として、 2001年夏に「スーパーストック23T」シリーズが出てくるまで、 かなり長期にわたって利用されました。

もうひとつ、これら一連のシンナゴヤ系モーターで特筆されるのは、「ブラシダンパー」をタミヤモーターとして初めて導入した点です。 ブラシダンパーというのは、日本を代表するモーターチューナーとして高名な関口氏を招き新興モーターメーカーとして93年頃から 活動を始めたシンナゴヤが他社に先駆けて導入し、同社モーターの「ウリ」のひとつとしていた仕組みでした。 「ダンパー」とは言いますが、いわゆるショックアブソーバーを想起してはいけません。 ブラシ底面からバネ仕掛けでブラシを強制的にブラシホルダーに押し付け、 バタつきを抑えてコミュテータとの接触を安定させるとともに、ブラシホルダーとの密着性も高めて、 導通効率を引き上げようというデバイスです。写真のとおり、 ブラシホルダーの底部に薄いステンレスシートを挟み、そこに切れ込みを入れ、少し起こして板バネとして 機能させているだけ。単純なアイデアですが、バカにはできません。あったほうが性能的に有利なことは明らかなので、 以後、相模マイクロからOEM供給される5×4mmブラシモーターでは「当たり前」の装備となって今日に至っています。



<そして21世紀:飽くなきパワーアップと一層の多様化へ>

年代もいよいよ21世紀に入り、バッテリーも2400RCの後継として、遂にNi-MHセルの3000MHパック「7.2Vアドバンスパック RC3000MH」 (Item55075、7800円、00年11月発売)が登場。環境問題への配慮から、ヨーロッパでニッカドバッテリーの製造が禁止となり、 販売についても、エッセンシャルユース(極低温環境などの特殊用途)を除けば3〜4年後には全面禁止となることが決まったなか、 電動RCカーの世界でも、Ni-MHセルへの移行が避けられない流れとなってきました。

これはしかし一方で、4000mAhとか5000mAhとかという、わずか5年前の1990年代半ばには想像もつかなかったような 大容量バッテリーが登場する道を開きました。 実際、2005〜06年にかけて、Ni-MHセルの公称容量は4200〜4300mAhに達し、06年には電動RCカー用として初めて リチウムポリマー電池パック(5000mAh)もOrionから発売されました。さらに07年に入ってからも GPやインテレクトから相次いで4500〜4600級のセルが発表されています。 当ページを最初に公開した2002年時点での予測が見事に実現した わけですが、その開発ペースは恐ろしいくらいの速さですよね。Ni-MHセルの高容量化はセパレータの薄膜化がかなり限界に近付いているので 5000〜6000あたりで打ち止めになりそうですが、リチウムポリマーはいまだに形状が標準化されていないので今後については 流動的です。標準サイズがOrionのサイズより小さくなれば容量減りますし。それでも、敢えてアグレッシブに予想すれば、 2010年頃には6000〜7000くらいまで容量拡大するかも知れません。レースのランタイムが変わらない限り、 バッテリー容量が拡大すれば、その容量を食い尽くすことを新たな目標としてモーターは常に進化してきました。 あり余る電源をフルに生かせるモーターの開発は、今後も続くことでしょう。

このような時代背景にあって、21世紀初のタミヤ製チューンドモーターとして 「ダイナラン・ストック」の後に出てきたのが「スーパーストック23T」シリーズです。「エンドベルがカシめられていて分解できないタイプのモーター」を「ストックモーター」と定義すると、このページで紹介するのは妙なことになるのですが、「ブラックモーター」以来の流れからすると、これも立派なチューンドモーター、ということで、一連のタミヤ・モディファイドモーターの系譜に含めておきます。

さて、この「スーパーストック23T」が出てきたのは2001年6月です。タミヤモーターとしては実に5年ぶりの新製品で、中身も大きく 進化しました。製造元は明らかにされていませんが、使われている諸々のパーツからみる限り、他メーカー向けのOEMも 数多く手がけている相模マイクロ製であることは明らかです。ローターはJMRCAの23Tストック規定に準拠した0.80mm径23T シングル巻きで共通、進角も20度で統一されていますが、タミヤモーターとして初めて 「レイダウンブラシ」を採用したタイプR(op.476、2600円)と、標準的な スタンドアップブラシを採用したタイプT(op.477、2600円)が用意されたことが新機軸でした。

このモーターの性能については、既にモーター研究室「その18」で詳しくご紹介のとおりです。同じ23ターンとはいいながら、この10年余りの間に「元祖23T」のRS-540スポーツチューンより3割以上のパワーアップを果たしています。このような性能アップに大きく貢献したのが、近年のマグネット素材の急ピッチな性能アップです。小型モーター用のマグネット素材は、パソコン向けHDD用モーターなどの開発に伴って、90年代後半以降ほとんど毎年のようにどんどんと進化を遂げ、おかげでRC用のマグネットも、より強力で、より熱に強いものが毎年のように出てきています。また、ブラシ素材もより柔らかく、高性能になり、より大電流を流しやすくなっています。その代わり、ブラシライフは極端に短くなり、5〜10パックで交換しなければならなくなりました。また、柔らかいブラシは摩擦量も大きくなり、おびたたしい発熱を伴うようになっています。タミヤGPの、わずか2分間の予選時間で「熱ダレ」で予選後半はタイムが出なくなるなんて、かつては誰も考えていませんでしたが、今は現実的な問題です。また、4000オーバーのバッテリーで23Tストックで8分走ると、モーター内部は150度を超えることもしばしばで、エンドベルにショッキーダイオードを取り付けていると、保証温度105度の素子でも熱で破損してしまうからモーターから離して装着しないといけなくなってきたとか、IFMARツーリングモディファイドの5分ルールで走った07年のTITC(タイ国際レース)ではモーターコードのハンダが熱で溶けて脱落してしまう事故が続発してコードをエンドベルにネジ留めしないといけなかったとか、極端な例とはいえ、昨今はかなり厳しい話が出てくるようになってきています。どれもこれも消費電流とブラシ摩擦量の大幅な増加が原因です。高性能と発熱量・耐久性はトレードオフの関係にあることは分かってはいますが、痛し痒しですね。

さて、「スーパーストック23T」に続いて出てきたのは、同じカンを使ってエンドベルを分解可能とした 「スーパーモディファイドモーター11T」(op.485、5200円、01年10月発売)です。エンドベルは5×4mmスタンドアップブラシ、 スモールコミュというごく標準的な仕様。11Tダブル巻き(線径不明ですが恐らく0.85mm)と、 ハイエンドモデルとしては「アクトパワーTRFチューン」以来、実に8年ぶりになる久々のホットモデルでした。 ちょっとしたウラ話として、 スペアブラシとして、当時はまだ定番パーツ化していなかった「丸T」印のブラシ(後年op.581として定番化)が 同梱されており、これに換えると1割近くパワーアップする、なんて話がありました。

ちょっと残念だったのは、Ni-MHセルの普及で、ツーリングカーの世界では無負荷で4万〜5万回転という、 540サイズのモーターの物理的限界を試すような極太シングルターンモーターが主流となってしまい、 11Tというのはかなり中途半端な設定で、結局ほとんど活躍の場がなかったことです。タミヤGPでも お茶濁しでほんの1〜2回の出場機会があっただけでしたからね。それに、意外にトルクが細くて、 11ターンと言いながら実質的には13ターンくらいのパワーだったことも期待外れでした。 結局、ダイナテック02Hを超える「タミヤ最強モーター」の真打ちは、2004年12月発売の 「トランスピードMS(9T)」を待たなければならなかったのです。

「トランスピードMS」シリーズは、タミヤが1999年7月に「TRF414X」をアメリカでリリースし、 「ツーリングカー世界戦タイトル奪取」を目標にワークス活動を再開して以来の流れを汲んだ、最高峰の純レース用モーターです。 04年ISTCの「3600バッテリー+6セル5分レース」フォーマットに最適化したシングル9T仕様のItem49347は04年12月14日に、 06年のJMRCAエキスパートクラスの「4セル8分」フォーマットで4200以上のセルを使うことを前提にした、 シングル10T仕様のItem49386は06年3月29日にリリースされています。その最大の特徴は、Team Orionが開発した 「V2テクノロジー」と称されるエンドベル&ブラシセットを採用した点にあります。

「V2テクノロジー」とは、ブラシを45度に寝かせてV字型に配置するレイアウトを採用し、 ブラシ形状も「円筒形」というまったく新しい形を採用することにより、パワーと燃費、エンドベルの冷却効率を 新しい次元に引き上げた、一連のエンドベル回りの技術体系です。それが単なる「見せかけ」でなかったことは、マーク・ライナート選手が 2004年のISTCでTRF415MSに勝利をもたらしたことで十分証明されています。ただし実際のレースシーンでの認知はもっと早く、 既に2003年頃からOrionやそのOEM先がV2エンドベルを装備したモーターを相次いで投入し、普及が進んでいました。

04年の暮れにようやく「トランスピード」を出したタミヤは、V2系モーターのOEM先としては最後発グループでした。 定価も1万2800円(税抜)と一気にタミヤモーターの記録を塗り替えてしまうほど高価だったため、 タミヤGPで使用OKになったことはありません。そもそも、 このモーターが前提としているハイエンドシャシー(特にTRF415MSXなど最新モデル)の活躍の場が現在のタミヤGPでは極端に 制限されていることもありますし、モーター価格も高くて供給も限られているので、現時点では タミヤGPでの使用はそぐわないと判断されているのかも知れませんね。しかも主戦場であるはずの オープンレースシーンでは、2006年頃からブラシレスモーターの解禁が徐々に始まり、07年以降はもうすっかりブラシレスが主流になってしまいましたから、今はもうトランスピードMSの活躍の場は事実上なくなってしまった状態です。

2006年にJMRCAがツーリングカー・エキスパートクラスに4セル8分規定を導入したこともあって、以後、 23Tストックモーターを使うスポーツクラスとモディファイドモーターを使うエキスパートクラスでは ニーズの乖離が一段と大きくなっている感が強まっています。タミヤでも、3300HV、3600HVと続いた 「最新セルをリリース直後に製品化」する流れが途絶え、2006年5月に発売された最新バッテリーパックは、 実に2世代遅れのセルを採用したGP3700でした。タミヤGPにおける実際の運用面でも同様で、06年11月以降のミニスポーツクラス等では、従来の「2400ザップドまで」のバッテリー規制を強化し、06年7月発売の1600SPパックを指定してバッテリーを「グレードダウン」させる現象まで起きています。営業的には英断だったと思いますが、ユーザー的には安いバッテリーの指定は大歓迎です。540〜スポチュン程度のモーターなら、1600SPでバッテリー性能は十分です。

タミヤGPで使われるモーターにしても同様に、「ハイエンドから二歩引いた」スタンスが垣間見えます。 「スーパーストック系」の発売以来、タミヤGPで使われる最高クラスのモーターは23Tストック、というスタイルが すっかり定着しました。さらに2004年頃から固定ギヤ比のルールも段階的に導入され、一段とイコールコンディション化と エントリーコストの抑制が推進されました。

しかしそれでも、バッテリーが年々パワーアップするものですから、中級クラスのレース参加者には23Tストックのパワーが 手に負えない状況が出てきていました。とはいえ、その「下」のモーターというとスポーツチューンしかなく、コレはコレで かねてからブラシ寿命の短さや性能のバラつきなどの点で多くのタミグラファンから不評をかこっていたことも事実です。 また、ちょっとタミヤGPから離れてライトユーザー層の動向を眺めると、最近は25〜35ターンといった、従来よりかなり ターン数の低いチューンドモーター(ブラシ交換式ストックモーター等)が売れていることに気づきます。なかでも目立つのは 「ドリフト」用途に多ターンモーターを買うユーザーの台頭です。こうした新しいユーザーの広がりもあって、 従来、540やスポチュンがカバーしていた領域に5×4mmブラシモーターをoptとして発売していく余地が出てきたわけです。
GTチューン
そのような背景から登場してきたのが、25ターンという新しいターン数の基準を作った 「GTチューン」と、5×4mmブラシ仕様の27ターンモーターとして、入門用チューンドモーターの 新基準となった「ダートチューン」、さらに07年の静岡ホビーショーで追加された 28ターンの「ライトチューン」です(詳しくはそれぞれのリンク先を見てください)。

タイプBZ
一方で、日進月歩の23Tストックのアップデートも抜かりなく進んでいます。06年7月には「タイプBZ」が 登場しました。今後も4500〜4600級バッテリーの登場と07年シーズンからのJMRCA規定の改訂でスタンドアップブラシ仕様ストックモーターの 進角設定が自由化されたことに対応したニューモデルが登場することは間違いありません。


ダートチューン ともあれ、「スーパーストック」「GTチューン」「ダートチューン」「ライトチューン」という一連のラインアップの完成により、 タミヤGPで使われるモーターはかなり整理が進みました。キット同梱モーターとしての540SH/540Jは今後も残るでしょうが、 今後しばらくは、これらのモーターがタミヤGPの「コントロールモーター」として大いに活躍しそうです。

タミヤGPのスタンダードモーターとして長期にわたって仕様変更が見込まれない「GTチューン/ダートチューン」系と レースシーンの潮流に合わせて変わっていく「トランスピード」系との 「2極分化」はこれからもますます激しくなっていくでしょう(別に悪いことではありませんが)。 そのすき間を埋める形で、「タミヤGPの中でのハイエンド」としてJMRCAスポーツクラス向けのニーズを意識しながら年々進化する 「スーパーストック23T」系の展開が、今後改めて面白くなってくるような予感がします。既にかつての「アクトパワー2WD」を 超えたパワーは、いったいどこまでアップしていくのでしょうか・・・。そして、エンドベルの進角自由化で実質的に モディファイドモーターとの差がなくなった(軸受け仕様が違うだけ)とき、 どのようなローター仕様のバリエーション展開が出てくるのでしょうか・・・。



(参考文献)
立風書房「タミヤRC四半世紀の記録」ザ・タミヤRCカーズ特別編集、2001年6月)


(おわり)

「モーター研究室」の目次へ戻る


このページは、タミヤRCカー専門サイト「RC_Car_Trend」が提供しています