<その1:詳報!タミヤRC3600HV> <タミヤ全日本大会に向けサンヨーの最新セル緊急リリース!> 04年6月15日、先の静岡ホビーショーでお披露目されたタミヤパック仕様のサンヨーRC3600HVが予定どおり出荷され、翌日には主要都市の店頭に並びました。RCTでも早速テストを開始、先行してデータを公表しています。これまでならば、この後「バッテリー研究室BBS」にて詳細をコメントするのが習わしだったわけですが、今回はちょうどいい機会なので、以前から暖めていた「研究室本編」のオープン企画としてコメントを掲載することにしました。このほうが、図表を交えてよりビジュアルに解説を加えられますからね! さて、このRC3600HVについては、既に03年秋の段階からバッテリー研究室BBSでも話題になっていたものです。RC3000MHがわずか1年でRC3000HVに代替わりした例を除けば、1700SCE以降、「約2年ごとにモデルチェンジ」がサンヨーの「お約束」ですから、当然のタイミングだったわけですが、3300HVが02年10月発売でしたから、思ったより早いモデルチェンジ、という感じです。ただ、04年は最重要大会である第3回ISTC(電動ツーリングカー世界選手権)がありますから、最新ウェポンをそこで使わずしてどうするの?ということなんでしょう。そういった「タミヤGP外の圧力」に押されて早々に出てきたと。ま、いつものことなんですけど。RC用バッテリーのテクノロジードライバーは常にオープンレースでしたから。 アオリを食らったのは我らがタミヤGPフリークで、考えてみると結局タミヤ全日本(世界戦予選)でRC3300HVが使えたのは2003年シーズンぽっきりとなってしまいました。2002年は11月の世界戦以降しか使用できませんでしたし、2004年のGT1/TRFチャレンジクラスはRC3600HV必携になるでしょうからね。発売タイミングのアヤ、と言ってしまえばそれまでなんですが、年1回の大会のためにわざわざタミヤパックを買う地方ユーザーの方々にはいささか酷な気がします。RC3300HV買ってるのがエキスパート連中だけなのがせめてもの救いですが。 そんなタミヤフリークの事情などにお構いなく、「巷」というかオープンレースの世界では、ただでさえ、コスト・性能両面でGP(Goldpeak Power)社製のセルが台頭、既に「主流」としてバカ売れしているわけですし、パナソニックからもセル形状を四角柱に変更した3500セル(HHR350SCP)が03年11月頃にリリースされていただけに、サンヨーの危機感はかなりのものだったのでしょう。今のGP社の勢いはこれまで1400や1700、3000〜3300のときに覇を競った松下電池(パナソニック)とはレベルが違います。なにしろパナソニックとの競争では「価格」は問題になりませんでした。純粋に性能だけの勝負でしたが、GPとの競争では性能が拮抗するなかで大幅に価格が違うんですから。今後「4000」に向けて容量拡大が進んでいくなかで、果たしてサンヨーがこれまでどおり優位性を維持できるのか? これは中長期的にも大注目のテーマです。 そんなわけでRC3600HVは、設計的にもかなり「攻めた」ものになっています。低価格化・高容量化を狙った新開発の水素吸蔵合金の採用こそ次回に見送られたようですが、セル寸法は、ついに+端子よりも端子周囲のほうが盛り上がるに至り、その部分でプラスアルファの体積を稼いでいます。RC3300HVで初めて、+端子と周囲のカンの高さがツライチになったわけですが、3600ではさらに一段進んで、遂に+端子の方がセル缶の内側に潜り込んでしまいました。レギュレーションすれすれですねホントに。セル外径もレギュレーションぎりぎりまで太くなっており、タミヤのRC3600HVの外箱や取り説には「TL-01には使えません」と明記されています。その理由はこちらをどうぞ。 原価低減努力が先送りされたアオリで、残念ながら価格は一段と高くなっています(悲)。タミヤRC3600HVパックの希望小売価格はなんと8900円!「1万円」に限りなく近づきつつあります。ひと昔前の中級のマッチドバッテリー並です。というか、アメリカでは1万円出せばteam specのマッチドバラセルが変えちゃいます。GPセルですけど・・・。そもそも、市販の単三タイプのニッケル水素電池は容量が2倍になっても店頭価格は変わりません。どうしてRC用だけこんなに値上がりするの?なんでだろ〜なんでだろ〜? 思うに、最先端のセルを要求するハイエンドRCユーザーにとって価格弾力性など無きに等しい、と足元を見てるのでしょう(「タミヤが」ではなくて「サンヨーが」です)。「勝負バッテリー」というのは、とにかくほんのわずかでも性能が良いモノが喜ばれる、という商品特性です。でもねぇ・・・隣に性能がほとんど変わらないGP3300がRC3600HVの半値で売られてたら、タミヤGP以外ならそっち使えばいいじゃん、となるので結局はミドルクラスユーザーの敬遠という形でシワ寄せ来ちゃいますよね・・・。実際、店頭でも反応悪いそうです。それに、タミヤGPではどんなに頑張っても練習、予選2回、決勝と計4回しか走らないわけですから、最大でも4本あれば足りるし、練習と予選は2分しか走らないから、大してバッテリーに負荷がかかるわけでもなく、追い充して使い回しても問題はまったくない、と言っていいくらいです(理想的ではないかも知れませんが)。したがって実際には2〜3本あれば十分ですし、タミヤGPでハイエンドバッテリーが使えるのは、2003年〜現時点(2004年シーズン)までのところは「GT1&TRFチャレンジクラスのみ」ということですから、売れる本数には自ずと限界があります。練習には安くて発熱も少ないGP3300を使えばいいと(タミヤGPでも練習走行には他社製バッテリー使っても問題ないです。あくまで「練習」なんですから。ただし理想はやっぱり「本番と同じ条件で練習する」であることに変わりはありません)。 <テスト対象と計測条件> 今回、計測対象としてサンプリングしたのは、入荷初日の初期ロット(パック打刻は「IF(=04年6月)」となっていました<右写真参照>)から無差別に抽出した3本です。仮にA、B、Cとします。重量についてはA:381g、B:380g、C:380g、となっており、RC3300HVのときと同様、非常に高い精度で揃っていました。RC3300HVのときにもBBSに書きましたけれども、ニッカドパックでは考えられなかったレベルです。よほどセル単位での品質が揃っているんだな、ということを伺わせます。これは、このパックに使われているセルがザッッピング処理済み(ザップドセル)であることと無関係ではないでしょう。ザッピング処理をしてある、ということは、その後にセルが生きているかどうかちゃんとチェックしているハズです。だからこそ、大きな「ハズレ」がなくなり、結果的に相当のレベルで均一な品質が得られたのでしょう。でなければ、タミヤパックとして初めてザップドセルを採用したRC3300HV以来の「パック品質のバラつきの劇的な縮小」は説明がつきません。ニッカドパック時代は、検証したことはありませんけれども、「重いほうが容量が大きい」なんてな風説もありました。実際には「重い理由」が筋違いであれば、軽くても容量が大きいことだってあり得るんですが、まぁそれはさておき、ここまで重量差が小さいと、どれを選んでもまったく同じですね。 ヨコモの広坂パパさんがYMPの掲示板に書かれていた先行テストの情報を先に読んでいたので、RC3600HVは相変わらず内部抵抗が大きめで発熱しやすいセルであること、したがって熱(温度)の管理には十分に注意しなければならないことが実験前から既に分かっていました。また、「4.5Aを超える電流で充電しても意味がない」といった話もあったので、とりあえずは素直にこのアドバイスに従うことにしました。4.5A、というと、3600にとってはたったの「1.25C(放電容量の1.25倍の電流値)」にしかならないんですが、充電に伴なう発熱が増えるのは厄介なので、やたらと増やすわけにもいきません。では、マッチドセルメーカーはどうしてるんだい?・・・と思って、リーディング企業のひとつ、アメリカ・Trinity社の対応をみると、業界標準のCE社製「TurboMatcher」を使って「5A充電、30A放電」を基準にしているそうです。ですから、充電器にもよりますが、まぁ5Aかましても差し支えはないのかなと。TurboMatcherの充電プログラムはNi-Cd時代のものを引きずっているはずで、決してNi-MHセルに最適ではないはずですからね。ともあれ、0.5A程度の違いなら充電結果、特に充電量や充電終了時のセル温度にほとんど差はないです。 内部抵抗が大きいと、大電流を流す放電の際にも気をつけなければいけません。最初からいきなり100度とかのメチャクチャな高温にさらしてセルをパァにしてもマズいですから、放電時はファン送風による冷却も欠かせません。これに対し、充電時はデルタピークが出にくくなって過充電のモトになりますから冷却はやりません。なお、充放電ならびに計測条件はRCTが定めている標準条件に準拠しています。 1回目の充放電はどのみち「起こし」ですから、放電データとしては参考にならないのですが、4.5A充電による各パックのピーク温度が52度(3パックとも揃いました)であること、充電容量が3000mAhを超えたあたり(電圧にして9.10V超えたあたり)からイッキに10度も上昇することが分かりました。3000mAhを超えるまではほぼ40度前後(気温25±2度)で安定しているので、コレは満充電の時期が分かりやすいです。しかしニッケル水素電池は温度上昇が電圧変化に及ぼす影響が小さいので、デルタピークとして表面化しにくく、下ろしたての状態のパックでは、セルの劣化がない状態ゆえ充電中の電圧上昇が緩やかで、最後の10度の上昇中にわずか0.20V程度しか電圧が変化しません。 RCTの標準充電条件で「カットオフ-0.02V」と決めてますけれども、今回のケースでは、10度上昇して0.20V上昇したあと、0.02Vドロップしてカットオフ、ということになってます。非常に微妙かつ繊細な変化です。絶対に充電終盤にファン冷却などはしてはいけません。セルが強制的に冷やされると、ピークが正しく検出できず、過充電〜ブローの原因になりかねません。もちろん、こんなわずかな電圧変化なのですから、デルタピークの検出を例えば「-0.10V」なんてな大甘に設定するのは非常に危険です。カツカツな充電のために過充電を承知でトコトン詰め込みたければ、一度9.10V程度でカットして、十分冷ました後でどうぞ。 これが例えば30パック使用後だったりすると、最後のデルタピークで0.40〜0.60Vくらい上昇するようになるでしょうから分かりやすくなるでしょう。ただし劣化による内部抵抗上昇がその原因ですから歓迎すべき話ではありません。ピーク電圧は低いに越したことはないのです。ともあれ、既に十分言われていることですが、くれぐれもニッケル水素電池の充電では、温度センサーを併用して温度カットできるようにしておいてくださいネ。デルタピークカットだけに頼っていると非常に危険です。 放電に関しても、さすがに超大容量のセルだけあって、20A放電後のセル温度がファンを併用しても60度近くにまで上昇することが分かりました。35A放電では69度! まぁRC3300HVでもファンで冷却してないと限りなく100度近くまで上がってましたから、3600ならこのくらいまで熱くなって当然ですけど・・・。放電では発熱量がおびただしく、あまりに危険なので、充電とは逆にファン使用が不可欠です。RC3300HVよりも容量が増えてるわけですけれども、内部抵抗があまり変わらないだけに、その分、発熱量は増えて当然でしょう。 <測定結果と考察> 今回は都合上、1回目の充放電から1日置いた2回目の充放電で先に35A放電のデータを取ってしまい、それからさらに中2日置いた3回目の充電で標準の20A放電のデータを取りました。いずれの測定も、事前にタミヤ・オートディスチャージャー(定格0.4A)でコンディショニング放電を行っています。今回は計測対象がちょうど3本だったので、2本並列接続できる7.2Vコネクタを2個組み合わせ、3本同時に同じディスチャージャーに接続して放電終止電圧の均一化に配慮しています。 Turbo35が示した3本のパックの個別の放電結果は下記のとおりです。 今回は時間の都合上、わずか3回分のサンプルデータしか取得していないので、平均を取っても統計的にはほとんど意味がないですが、グラフも書くので便宜上計算しておきました。今後提供するデータすべてに言えますが、バッテリーの放電データに関しては、実際の値に近いのは平均よりも中央値(メジアン)のほうだと思いますので念のため。ともあれ、RC3300HV以降のパック品質の均質化は目を見張るものがあり、統計処理の必要性を補って余りある粒の揃ったデータが取れていますので、あまり不満はないでしょう。 さすがに今回は、RC3300HVのときのように「まったく同容量」というパックはありませんでしたが(何しろ3本ですから)、3400mAhあまりを搾り出してその差がわずか±40mAh以内、というのは驚異的です。わずか1%程度の差なんて、バッテリーの放電開始温度が5度も違えば余裕でズレてくるほどの差でしかありません。まさしく計測誤差の範囲です。ちなみにバッテリー温度は、放熱が悪いゆえ最も温度が高くなるパック中央部のセルの温度で代表していますが、これまたいずれもほぼ同じ温度を指しました。気になる内部抵抗はメジアンで36.3mΩ、平均35.8mΩでしたが、これはRC3300HVの中央値が37mΩ付近だったのと比べて、確かに容量が増えたにしてはほとんど変わっていませんね。ちなみにRC2400SPザップドパックの内部抵抗は逆にもっと低くて35mΩ前後でした。ノンザップのRC2400SPパック(青パック)は39〜40mΩでしたけど・・・。 なお、既存のタミヤパックとの比較データは下のとおりです。いずれも20A放電時のデータです。 さてここまでは、従来のパックとの比較可能性を重視した標準条件での放電特性データですが、近年はモーターの性能も飛躍的に向上し、大電流の放電を要求するようになってきています。20Aの放電データでカバーできるのは23ターン・ストックくらいまでで、13ターン未満のモディファイドモーターでの使用環境を考えるときにはもっと大きな電流を流した際の特性変化も見ないと、セルの優劣が判断できません。そこで、2400RC(タミヤRC2400SP)以降のタミヤパックについては35A放電のデータも取得しているのですが、とりあえずここでは、RC3300HVとの比較においてどのように放電特性が変化するのかを公開しておきます。 一見してすぐ気が付くのは、放電温度が大きく上がっていること、それと、意外に放電容量が変わっていないことです。特に「パックA」は偶然とはいえ、20A放電時と全く同じ値でした。コレにはびっくりです。通常はどうしても放電容量が減るのが従来の経験則です。なぜこんな数値になったかは今後さらに考察の余地があります。 RCTの標準計測条件である「放電開始温度40度」の設定では、初期の温度が十分に高いので、20A放電程度の発熱レートでは、放電中の発熱による内部反応の速度アップ(活性化)の影響は表面化しません。しかし、さすがに35A放電ともなると、ファンによる冷却が追いつかないほど極めて急激にセルが加熱するので(かといってファンの風量を増やすとデータがブレるのであまり変えたくもない)、放電中のセル温度が相当に上昇し、内部反応の速度が更にアップ、それが内部抵抗の低下や放電途中の放電電圧の「回復(=盛り上がり)現象」として表面化しています。大電流放電なので放電時間が短くなり、放電電圧も下がっているのは仕方ありません。放電時間と電圧の積である「放電電力量(W)」も大きく下がっています。 放電特性の優劣を考えるうえで大事なことは「どのくらい下がるか」というドロップ率なんですが、やはりといいますか、放電レートが大きくなると、容量の大きな3600HVのほうが余計に有利な結果になっています。例えば100秒経過後のデータで比較すると、20A→35Aの電圧変化が3300HVでは6.93V→6.15V(-11.3%)なのに対し、3600HVでは7.09V→6.51V(-9.18%)にとどまっています。また、同一放電レートにおける電圧差に注目すると、20A放電での3300と3600の電圧差はほぼ0.2Vで推移していますが、35A放電になると0.4V近い差になってきます。しかも、見過ごしてはいけないのは、35A放電の方が放電中の電圧そのものが低くなるだけに、相対的なドロップ率は一段と拡大する点です。つまり、20A放電の際の0.2Vのドロップというのは、3600の電圧(@260秒経過後=7.0V)を基準にすると、(6.8V/7.0V)-1×100=-2.9%なんですが、35A放電の0.4Vのドロップというのは、-2.9%×2=-5.8%じゃなくて、25A/35A×260sec=186sec付近の電圧を基準に(6.0/6.4)-1×100=-6.3%にも達するわけです。6%も出力に差が出たら、端的に言ってローターが1〜2ターン違うくらいのパワー差です。常にその差が出るわけではなく、あくまで大電流が消費される低速コーナーからの立ち上がりの局面だけの話ですが、立ち上がり加速の差が積もり積もって最高速の違いにもつながってきますから、やはりこの差を背負って3300で3600に対抗するのはかなり無理がある、というのが率直なところでしょう。 <まとめ> 非常に月並みな結論ですが、RC3600HVはRC3300HVとは勝負になりません。使っていいなら素直に使いましょう。モデルチェンジが早めに行われた分、RC3600HVは比較的長期間(少なくとも2005年シーズンまで、うまくいけば2006年シーズンも)現役で使える可能性が高いと思われます。そういう意味ではむしろ「安心して買えるバッテリー」なのかも知れません。ともあれ、2004年のタミヤGP(使用可能クラスに注意)では必携でしょう。まだ持ってない人はお店に急げ!! (おわり) |