「第3回ミニッツCUPファイナルチャンピオンシップ」DVDのご案内
<その3:ミニッツ用単四バッテリー・ハードチェック!> <各社単四バッテリーの実力は?> サブCセルを皮切りにRC用バッテリー分野の新境地を切り拓きはじめた中国のインテレクト社ですが、次に出てきたのはなんと! 「RC専用」の単四バッテリーです。事実上ミニッツレーサーをターゲットにしたこのバッテリー、なんともユニークな存在です。だってこれまで単四(AAA)セルといえば汎用品しかなかったわけですから。性能アップは単純に容量アップ競争に伴う電圧上昇によって達成されていたわけですが、後でデータでお見せするとおり、既存のセルはいずれも内部抵抗の改善は後回し、むしろ容量拡大を優先して内部抵抗の改善は容量拡大のペースより遅れているくらいで、「ダラダラ長時間走っても意味がない」というRCユーザーにとっては、どうにもサブCに比べて取り扱いが面倒だし、無理して使うので寿命も短いし、と多々不満があったわけです。 そこをうまく突いてきたのがインテレクト750です。公称容量は750mAしかありません。輸入発売元の(株)セイキによれば、「容量は2の次にして、ひたすら高電圧と大放電特性を追求した」のだそうです。かつてサンヨーが、1700SCEから1700SCRへ進化するツナギとして、容量を犠牲にした1400SCRを出したのと同じパターンです。 Intellect 750に関しては、当初、「なんだ750か」と表向きのスペックだけで見向きもされない方が多かったそうで残念です。そういう保守的な姿勢というのは「コンペティション」の世界では最も危険な態度です。技術革新の波に乗り遅れるだけですから。「RC専用」を謳うからには、メーカーにもそれだけの「自信」があってのことでしょう。一体どんなものか、さっそく「お手並み拝見」といきましょう。 今回はRCTとして初めての単四セルのテストなので、手元にあった旧型のセルに加えて、各社の最新スペックセルを調達してみました。ただし、パナソニックは早晩新型セルに切り替わるか、さもなくばこのまま市場から消えてしまいそうな勢いなので、今回はあえてテスト銘柄に入れていません。使っている人の話では、現状ではむしろサンヨー900より良いくらいのようなんですけどね。ていうかサンヨー900が思いのほかヒドいんでコレを評価基準にしてはイケナイようなんですが(苦笑)。 <テスト条件> 今回、初めての単四セルのテストということで、条件設定にはいつもに増して神経を使いました。比較可能性を確保する意味から将来もある程度継続して使える設定にしたいですし、かといって現行の容量の少ないセルに酷な設定ではテストが成立しません。東芝の680セルを使って何度か試行錯誤した結果、「1.5A充電、4A放電」で行うことに決定。これはイメージ的にはサブCセルに置き換えると「5A充電、30A放電」くらいの負荷に相当します。 また、JISで定められたニッケル水素電池の定格容量の計測条件は「20℃±5℃」とあきれるほど大ざっぱです。15℃と25℃で性能が変わらない電池なんて、あり得ません。だいたいメーカーはメいっぱいの性能を測定するために上限の25℃で計測していることがミエミエです。そこでRCTでは独自に「20℃±2℃」と基準を定め、実際には19〜20℃とさらに精度を高めて計測を行いました。一般の単四バッテリーの性能評価は基本的にJIS基準に基いているわけですから、JISに準拠しておいたほうが何かと都合が良いかな、と考えました。通常RCTがサブCセルの計測条件としている「25℃±2℃」よりも5℃低い設定になるわけですが、RC用のサブCについてはもともと春〜秋にかけての環境を想定して決めていたものです。これに対して、今回の単四セルは、ミニッツ用として、空調の効いた屋内、しかも冬場の使用を想定した、と考えていただければいいと思います。 冷却ファンも使わず、できる限りセル温度が外部条件に左右されない環境作りに努めています。そのうえで、セルの発熱は、「それ自体がひとつの性能」という考え方に基づいて、充電・放電ともに特に対策はしていません。ただし実際には、サブCと比べ単四のほうがセルの容積に対して表面積が大きく放熱しやすいため、内部抵抗が特に大きかったGP系の2タイプを除けば、いずれのセルも60度を越えることはありませんでした。 なお、計測にあたっては、実際の使用環境にできるだけ近づけたいということから、あえて単セルでの計測は行わず、パックで売られている4セルを無作為に直列に接続して、その平均値を1セル当たりの値に換算して表示しています。使用した電池ボックスも、ミニッツレーサー015シャシー用のoptとして販売されている金メッキ端子つきのタイプとして、入手のしやすさと再現性に加え、計測にまつわる余計な電気抵抗を増やさない配慮をしています。 単四セルは同一銘柄でもセル毎の性能のバラツキがサブCよりはるかに大きい、とされています。今回は時間の都合でそこまで踏み込んだ検証は行っていません。バラツキが大きい銘柄を組み電池パックにした場合は、パック全体の性能が悪いセルに引っ張られてしまいますから、結果的に平均電圧や放電容量の低下として表面化します。「品質」としてはバラツキも重要な要素ですので今回はこれでいいと考えています。そもそも、大ざっぱに捉えて「どれが良さげなのか?」というのが今回のテストの趣旨ですから。バラつきの多い銘柄であればあるほど、セルを選別しバラつきを抑えた「マッチドパック」を作れば、4本セットとしての性能はもっとアップする可能性はあるわけですが、もともとダメなものをいくら頑張ったって「ダメはダメ」なんですから、「基本的にいいもの」を見出すのが先決だ、というわけです。 なお今回は、この計測のために、MuchMoreがリリースしている最新鋭の充放電器「セルマスター」もわざわざ新たに購入しました。というのも、いつも使っているTurbo35では10A未満の放電レートが設定できないからです。03年秋頃に発売された最新モデルの「Turbo35 GFX」からようやく最小0.1Aからの放電設定が可能になりましたが、実売8万円前後もするので、おいそれとは買えません。どうせこれから買うならフタバCDR-5000のほうがいいですが、アレも実売で4万円以上します。ところがセルマスターは量販店の店頭でわずか18,000円ちょっとで売っていました。しかもCDR-5000では別売、Turbo35にはそもそも付けられない「温度センサー」も標準装備です。「これで買わないほうがおかしい」と言っていいくらいのお値打ち品です。 セルマスターの唯一の難点は、コンパクトな筐体ゆえ放電レートの上限が10Aに制限されている点ですが、ミニッツ用として考えればまったく問題になりません。サブC用としても現場でのコンディショニング用途には十分すぎるくらいです。どっちみちサブCの本格的な計測には皆さんTurobo30/35やストレート社製「Fortress」などを標準的に使用してるわけですしね。 ちなみに、セルマスターの購入やテスト用サンプルの購入代金の一部は、RCTのDVDやオンライン頒布による収益金で賄われています。この場をお借りして、ご援助いただいた皆様にお礼申し上げます。 <測定結果と考察> グラフをご覧いただくと、線が130秒目で終わってしまっている銘柄が多数見受けられます。これは、グラフを描くために放電器とは別途装着しているテスターが、単セルあたり0.01Vという設定値を割り込み自動終了してしまったことを意味しています。 今回計測に使ったMuchMoreのセルマスターやいつものTurbo35では、内部抵抗計測のため、130秒目に近いところでほんの一瞬、設定値よりもはるかに大きなレートでパルス放電を実行するようになっています。ちなみにこのパルス放電は、計測タイミングのスキ間を突いて実行されるのでグラフ上には現れません。このとき、電極の反応速度が遅く大電流性能が劣るセルだと、要求された電流値に対して起電力がなくなってしまい、限りなく「0V」近くになってしまうことがあるわけです。 今回、計測が130秒で終わってしまったセルというのは、まさしくこの現象に見舞われたセルです。サブCならこのようなことはまず起こらないのですが、放電特性の悪いセルだと単セルで0.5Vを切る程度まで下がることはあります。単四だと、さすがに電極の表面積がサブCよりかなり狭いだけに、大電流を要求すると限りなく0Vまで落ちてしまうわけです。と同時に、このテストをクリアできないセルというのは、その時点でもはやRC用途しての適性に疑問符が付くことにつながります。とは言っても、グラフの推移を比較してみると、同じようなカーブを描いているセルがあるのに一方はちゃんと最後まで放電できていたりするので、Rickberry900やNexell900などについてはそんなに悪いセルとは思えません。 一方、Orion(GPのOEM)の700セルは「問題外」というくらいの酷い性能です。そもそもこのセルは、今回設定した1.5Aという充電条件をマトモに受け入れることができず、テストサンプル中唯一、充電にピークロック設定を必要としたセルです。こんな状況なので、当然ながら充電終了温度もとび抜けて高くなってしまいましたし、放電においても、あっという間に放電終了してしまいました。このセルの充電は、通常は1A以下にしておかないと危険です。放電においても、アルカリ電池と同程度の性能しか期待できません。ただ、ここまでヒドいと、この特性を逆手に取って、ミニッツカップを本気で狙う選手にとっては、Orion700は「アルカリ電池のシミュレーション用」として最適というふうに考えることもできるでしょう。実際のアルカリ電池はもっとヒドいんですけどね。一般のニッケル水素でもアルカリ電池よりははるかにパワフルで、これに合わせてセット出ししてしまうとアンダー傾向が強くなってしまいます。アルカリ電池を支給されるミニッツカップではパワーが全然出ないしクルマも曲がんなくて調子狂ってしまいますから、Orion700とか同等品のGP700(←あきばお〜2号店で扱ってます)とかであらかじめ調整、というのはなかなかいい方法だと思いますよ。 グラフでは表し切れない各種の補足データをまとめたのが下の表です。こちらの放電データはCellMasterの測定値で、放電完了まできちんと計測・算出されたものです。尚、セルの購入場所は、Orion700と京商900がチャンプ秋葉原店、東芝・サンヨーおよびアルカリ電池はヨドバシカメラ新宿店、GP、Nexell、Rickberryの各種は秋葉原「あきばお〜2号店」、IntellectはRCTオンライン頒布です。いずれも当日店頭に並んでいた商品からの無作為抽出です。サンプル数を各4セル入り1パックに限定したので、測定データの統計的な信頼性にはやや欠ける可能性はありますが、もともとメーカー出荷時の性能の幅はいくら何でも普通は5%以内くらいには収まってるハズですから、今回の試験結果が覆るほどの極端な「当たり外れ」はあり得ないでしょう。 最後になりますが、意外に知られていないようなのでひと言。 ニッケル水素電池については、かつては次世代の有望2次電池として様々なメーカーが開発に取り組んでいましたが、それは1990年代半ばまでの話で、日本国内では1996年頃から相次いで事業の統合が行われました。東芝がサンヨーにニッケル水素関係の技術と事業を譲渡しサンヨーからのOEMに切り替えたのはその象徴的な事例です。ついでに言うと、サンヨーが現在切り替えを進めている次世代の水素吸蔵合金「超格子合金」はもともと東芝電池の技術でした。そういう話を知ると、東芝の680が容量の割に意外に性能が良かったことにも合点がいきます。 目下、中国では雨後のタケノコのように電池メーカーが増えていますが、技術力が評価されているメーカーはまだまだ少ないです。それでも、一般的な用途のセルは価格勝負ですから、日本メーカーは価格面で対抗できずジリ貧の一途です。時代の流れなのでしょうがないですが、では日本メーカーはどうしているかというと、単三や単四のように「ブランド」が重要な日本国内の家電向けに逃げ込んでいます。で、国内家電市場では事実上「サンヨーvsパナソニック(松下電池)」という構図になっているわけです。さらに言うと、パナソニックはOEMに消極的なため、市場に出回っているのはほとんどサンヨーのOEMになっているのが現状です。東芝、ソニー、富士フィルム、日立マクセル、オリンパスなどなど、みんなサンヨーのOEMです。電池の−局側をみると、いずれも「HR」のプレス刻印があります。サンヨーが業務提携している中国の大手家電メーカー、ハイアールが受託生産したものであることを示しているわけです。もちろんサンヨーのセルも共通です。非常にバラツキが少ないのでどこのブランドで買おうと同じ性能だということは京商の900とサンヨーの900の計測結果からも明らかです。つまり、同じサンヨーOEM品のなかで優劣を比較するのは意味がないわけです。だから今回のテストでは、現行の東芝のニッケル水素やソニー、富士といった家電店でよく見かけるブランドをあえて測定対象から除外しました。また、パナソニックは製品サイクル的にサンヨーより古いので、性能面でズバ抜けて良いなどということは考えにくく、ムダを省く意味で次の新製品で試験しようと思っています。 (おわり) |