<その4:徹底分析!タミヤ3700HV> <遂にタミヤパックにGPセル採用> タミヤから06年5月24日発送で 「7.2Vアドバンスパック 3700HV」 (Item 55094、本体定価9000円)が 出ていますが、計測データをBBS会員専用ページに アップしていたのをいいことに、ほぼ1年遅れでの正式レポート掲載となってしまいました。どうもすみません。 実のところ、'06年シーズンは、 このレポートを慌ててアップする理由が特になかったので、後回しにしていました。 06年5月の時点で、既にRC3600HVはとっくに生産終了(実際には04年8〜9月生産のIH〜IIロットで打ち止め) していたので、05年春以降に購入されたパックは店頭在庫中に押しなべて過放電の状態になっており、 レース使用に耐えるマトモな状態でなかったものが大半でした。 そうすると、残る現行商品ば2400ザップド以下しかありませんでしたから、3700HVパックの優位性は目をつぶっていても 明らかでした。そもそも、'06年シーズンは、3700が使用できるカテゴリーはTRFチャレンジなど最上級クラスに限定されていましたから、 放っておいても皆さん3700をチョイスするはずで、ここでコメントを提供する意味は乏しかったのでした。 しかし、'07年シーズンからは使用カテゴリーが拡大し、3700HVのアドバンテージについて十分に理解できていない ままレースで悩む方々も増えそうです。3700HVは定価9000円(税別)と結構な値段なので、 必要性が理解できていないと、なかなか購入に踏み切れないでしょう。当ページの情報が判断材料のひとつとして お役に立てばいいなと思います。 さてこの3700HV、RC3600HVまで付いていた「RC」という表記が外れました。クリアパック仕上げなので パッケージを見れば一目瞭然ですが、実はこの3700で採用されているセルは、中国のGP(Goldpeak Power)社製セルになっています。 従来のサンヨー製のRC専用タイプの呼称「RCセル」ではなくなったので「RC」の表記が外れたわけですね。 なのにナゼか、GPセルには使われない「HV(High Voltageの略)」の呼称は残されました。これは謎です。「気分」 の問題でしょうか?まぁどーでもいい話ですけど(笑)。 GP3700というセルは、2003〜4年頃に2回の大きなモデルチェンジを経て一世を風靡した「GP3300」セルが達成した容量拡大を 「追認」して「シュリンクを変えたくらいの違い」という位置づけのセルだそうです。なので、GP3300の最終バージョンと 本質的に大きな違いはありません。GP3300はサンヨーの絶対的優位を崩す「奇策」として、 IFMAR規定で認められている「電池の直径は23mmまで」という表現のスキを突き、シュリンクなしの裸状態で 23mmまで電池缶のサイズを拡大する手法を初めて採用したセルでした。 結果、最終バージョンのトップセルは3700〜3800mAh程度の放電量を獲得していたと聞きます。あえて構造設計から やり直さなくても、「作り込み」で3700を表記できるセルになったのでしょう。 GP3300はサンヨーRC3300HV/3600HVと熾烈な開発競争を繰り広げ、結果的にはサンヨーの「長期覇権」を崩し、 市場撤退を決定付けた傑作セルでした。しかしそれはあくまでも「2004年シーズンまで」の話。 GP社の栄華は意外にあっけなく終わってしまいました。 04年秋に中国インテレクト社が市場に参入し、猛烈な追い上げを食らったためです。05年以降のGP社が、わずか1年間に3回もの 無茶苦茶なモデルチェンジを繰り返したことは、まだ記憶に新しいところです。3700、3900、4300・・・と、05年暮れまでにかけて、 常にインテレクトより100mAh多い表記のセルをリリースし、市場をリードして来たわけですが、 実際に使ってみると、公称容量と実際の放電量の「落差」が大きかったり、 特性的にもインテレクトの競合グレードより負けてたりしました。 それが結果的にワークスドライバーの成績や採用シェアにも表れてきています。 電動RCユーザーが最も注目していた、2006年のISTC世界戦を前にした時点で、GPセルの開発は 完全に頭打ちとなり、GPセルをレースで使うトップドライバーはほとんどいなくなってしまいました。 当然、GP社も商売のやり方を変えなくてはなりません。そこを上手く拾ったのがタミヤだったのかも知れません。 というわけで、タミヤ3700HVは、発売された時点で既に「2世代型落ち」の商品でした。タミヤGPで使える 「最高級バッテリー」である限り、2世代落ちであろうと、RC3600HVより良くなっていればOK、という状況でしたし。 セルの容量がアップすると、価格がどうしても上がってしまうし(電極材料の使用量が増えるため)、 供給量や品質安定性の問題もあるので、いきなり攻めたスペックの3900とか4300に行くのは得策でなかったようです。 タミヤ3700HVの発売時、既に「外界」では4000以上のセルが当たり前の時代。 しかもタミヤ3700HVパックより安いものも少なくありませんでした。 ですから、タミヤ3700HVパックの存在意義は、ズバリ 「タミヤGPにエントリーするためのチケット」というところにしかないような感があります。10年くらい前までなら、 「タミヤパックしか売ってない」という地域もまだ多々残っており、タミヤパックには「最も入手しやすいバッテリー」という 存在価値がありました。いまでも、ブランドとしての「安心感」はまだまだ健在ですが、 いまどき、ネット通販で安くて性能の良いバッテリーが簡単に手に入る時代。 タミヤパックの存在意義が改めて問われる時代になってきています。 タミヤGPへの「参加チケット」が定価9000円(当初、その後07年秋に価格改定されて9800円に)もするというところをどう感じるかは、その人次第です。 ここで良し悪しを言っても仕方がないでしょう。タミヤGPに「参加」すること自体は、別に1300カスタムパックでも OKですから、「ただ出るだけ」ならこんな高いバッテリーを買う必要はないのです。でも、レースというイベントの性質上、 「モノの差で勝負が決する」のはある程度避けられません。バッテリーをケチったばっかりにハンデをレース前からしょい込むのは、かな〜り気分悪いですよね。だから普通は、3700HVが使用OKのクラスに出るなら、 最低1本は買うことになるのでしょう。 確かに、1年に1回しかタミヤGPが開催されない地域でこのような出費を強いられるのは大問題でしょう。 でも一方で、静岡や大都市圏では年に数回、タミヤGPが開催されますので、 さほど問題ではないようです。どのみち予選・決勝でトータル10分しか走らないようなイベントですし、 2年も経てば新型セルに切り替わる商品性なんですから、追い充して使う前提で1本買えば、十分間に合ってしまう、 という考え方もできるでしょう。また近年は地方レースのテコ入れ策として「チャレンジカップ」も盛んですから、 3700HVパックの活躍の場はそれなりにあるはず。結局のところ、「取り組み方」次第で安くもなり、高くもなることなので、 あとは各自の判断の問題ですよね。 <外観調査> 外観的には、セル形状の変更を受けてパックの全長・全幅が若干増えた点とロット表記以外は従来と特に変わった点はありません。 クリアパック仕様になってから、製造時期を示すロット表記が分かりにくくなっています。初のGPセル採用ということで ロット表記のルール自体が違っているようですが、従来同様、シールを剥がすと、一応、ロット表記らしいものは出てきました。 ただし、その記号は「LD」となっていました。発売直後に購入したので、従来のタミヤパックの慣例からみて、 06年春に製造されているハズと考えると、「L」が年号で06年、「D」は月で4月と解釈するのが妥当なのではないかと考えます。 サンヨーの表記ルールだと、「KD」になるんで、紛らわしいですね(笑)。 ちなみにインテレクトにはこのような「月別のロット表記」というのは、これまでのところ、ありません。 最近は文字の色を変えたり、名称を変えたりと細かくバージョン表記を刻んでますので、それでいいんでしょうね。 そうそう、そう言えば、このセルには1つ1つに、「H-MH」という表示が、シュリンクへの印刷ではなく、 黄色いシールが後から貼られています。スペックアップした後期バージョン、ということなのでしょうか? 筆者は、 GPセルのバージョンアップ情報に疎いので、このあたりのことはあまり良く知りませんが・・・。まぁどっちみち 型落ちセルですから、計測結果で明らかになる実質的な性能が重要なのであって、表面的なスペックに踊らされることもないように 思いますが・・・。 <テスト条件> 温度は25度±2度(実際は24〜27度)とRCT標準条件に準拠しています。 冷却ファンは原則として使用していません(35A放電時のみコネクター部のみ冷却)。 インテレクトと同様、GPも内部抵抗が十分に低いので放電時の熱収支はほぼ均衡しており、 充電完了時および放電終了時の表面温度は概ね55度前後(放電開始時温度は40度基準)で、 60度を超えることはありませんでした。これなら安心してファンを使わずに試験できます。 実走行時にはむしろオーバークールが心配になるでしょう(特に、540SHなど消費電流の小さいモーター使用時)。 同時に同じ店で無作為に購入した3本をサンプルとして、例によって20Aで5回、35Aで1回のデータを取得、 20Aの放電データについては、 一番悪い結果(今回はいずれも1回目の結果)を除いて計12回分の平均値を算出し、グラフ作成用の基準データとしています。 <測定結果と考察> 以下、 「バッテリー研究室BBS」で 「速報」としてご紹介していた内容を基に考察結果をまとめておきます。 1)内部抵抗と耐久性 さすがに定評どおり、GP3700の内部抵抗の低さは際立っています。 サンヨーRC3600HVパックのときは、発売直後に入手したIFロットが平均35.8mΩ、 製造後17ヶ月経過後に入手してセル劣化が進んでいたとみられる最終ロットのII(H)だと平均38.9mΩもありました。 これに対し、3700HVは29mΩ台を記録しています。 劣化についても、概ね定評どおりの良い結果が出ています。 いずれの個体も、テスト中には容量減少や内部抵抗の目だった上昇は見られませんでした。 Ni-Cdの2400SP以降、充放電を繰り返すと劣化でみるみるデータが悪化していくセルをよく見るようになりました。 セルがNi-MHになって、タミヤパックでもザップドセルが当たり前にからは、この傾向がますます酷くなり、 セル間の高精度なマッチングを取っていないパックバッテリーであっても 「新品時の状態がピークで、使い込んで状態が良くなることはない」というのが、もはや通例になっています。 しかし3700HVパックに関しては、少なくとも試験中の6回の充放電の間、放電容量や内部抵抗に目だった変化は認められませんでした。 ただしこの結果は、あくまでも「比較的、初期の落ちが少ない」というだけの話です。 どうやら、パック内のマッチングが取れてくるのをセルの劣化が相殺して、パックとしての見かけ上、 初期の数サイクルは、大きな変動が出ないに過ぎないようです。 サイクル充放電を繰り返すとザップ処理の効果が薄れることもあり、その後、実際のフィールドで 10サイクル、20サイクルと使い込んだところ、容量減少など性能低下に見舞われています。 「大容量バッテリーはできたての新品がベスト」という事実は、GP3700であろうと変わりはありません。 2)容量 バッテリーは「放電してナンボ」のものですから、JIS/ISOでもバッテリー性能の評価基準は「放電量」(放電容量)で 判断しています。それが当然です。よくRCの世界では「容量」を「充電量」と同じと考えている人を見かけますが、 「充電量」は「発熱などバッテリーの外に放出されるエネルギーを含む」値ですから、バッテリーにどれだけのエネルギーが 蓄えられているかは分からないのです。セルのコンディションに確信が持てて、どの程度の充電量が損失として見込めるか 分かっている限りにおいて、簡便法としておおよその放電量を推定することができる、という話はアリですが。 GP3700の計測結果は上掲の表のとおり、基準としている20A放電で平均3,345mAhと、定格には全然達していません。あれ〜? 充電も3700を過ぎたところで止まってしまいます。これでは3700mAhも放電できるはずがありません。 発売当初のRC3600HV(平均3,453mAh)や インテレクト3600(平均3,423mAh)よりもむしろ悪いくらいです。内部抵抗が29.6mΩ(平均)とズバ抜けて低く、 走行中のパンチの点ではサンヨーやインテレクトより明らかに優位性があり、その点は放電グラフにも表れています。 それはいいんですが、容量面の伸び悩みには正直ガッカリです。 3700以降、GPセルの人気が急低下した理由も分かろうというものです。GP3700が出た時には既にインテレクトは 3600を捨てて3800→4200に移行しつつありましたからね。 でも、まぁ、タミヤGPで使う限りでは、現状、これより優れたセルはないので、 やはりレースで優位を確保しようと思ったら3700HVを使わないとダメなんですよね。 これほど「消極的理由」で選ばれる商品もいまどき珍しいかもしれません(苦笑)。 放電容量が少ないのは、セルのバラつきが大きくて、 容量の小さいセルに全体の性能が引っ張られているせいもあるのかなぁと当初は考えましたが、 実際に使用をしていくなかで、セルの劣化に伴って容量は減少する一方なので、そういう話はなさそうです。 3700HVと同時期に発表され、「その6」でも紹介しているタミヤ1600SPのように、以前のタミヤGPで使われていたノンザップのニッカドパックでは、セルの劣化ペースが遅かったので、充放電を繰り返すとバランスが取れて、ある程度、パックとしての性能が改善する傾向がありました。しかし、今は事前にある程度チェックされているザップドセルを組んでいるわけですし、使用に伴うセルの劣化が早いニッケル水素セルなので、 2400や3300、3600と同様、パックを「育てる」という発想は成立しないようです。 3)大放電特性 RCTの性能評価は、安全性を考慮し、RC業界内で伝統的に使われてきたレートでもある「20A」を基準にしていますが、 近年の大容量バッテリーと、これを前提としたハイパワーモーターにとっては、「甘い」レートになりつつあることも事実です。 実際の走行場面でも、モディファイドモーターのゼロ発進時の瞬間消費電流は80A前後に達していると推定される状況ですし、 アクセル開度60%で4000mAhを8分で消費するとしたら、平均消費レートは4(A)×0.6(率)×60/8(時間)=18Aになります。 立ち上がりなど負荷の高い部分での「パンチ力」を見るには、20Aより大きいレートでの状況を知る必要があります。 そこで2400ザップド以降、35A放電データも取るようにしており、今回もサンプルデータを取得してみました。 これを見ると、20A放電時よりも、バッテリー容量や内部抵抗などの差による電圧差が鮮明化しています。 放電レートが大きいほど、GP3700の優位性が際立つ格好ですので、23Tストックやモディファイドモーターでは 3700HVを使わないと勝負にならないでしょう。逆に、20A未満の放電レートでは、3300HVと3600HVの時のような 大差は見られませんので、540レースなどでは、程度の良い3600HVなら遜色ない走りができるはずです。特に、初期電圧は サンヨー3600のほうに分があるようですから、タミヤGPの540クラスでは、程度の良い3600HVをお持ちなら、そのほうが良い 可能性があります。まぁ通常は、既に劣化していて使い物にならないはずですが・・・。 また、GP3700を使う時は、従来よりも負荷を増やして使う方が、より性能を引き出しやすいことが分かります。 ギヤ比を高めに取って、モーター回転を少なめにして、 積極的に「トルクで速度を稼ぐ」ような使い方がいいわけです。 となるとモーターも「最高出力が同じならば」マグネットの強いトルク型モーターのほうがいいでしょう。 タミヤGPではギヤ比制限もありますしモーターも指定ですが、 ギヤ比自由なら従来よりピニオン1〜2枚上げて使うべきだし、モーターが23Tなら トルクが最も強いタイプRZが良さそうです(従来から主流ですけどね)。 もうひとつ指摘しておきたいのは、走行中の「オーバークール」の問題です。 35A放電のグラフを見ると、従来のサンヨーセルでは、 「内部抵抗による発熱」が「放電反応による熱吸収+パック表面からの熱放射」の量を上回る影響で、 セルの急激な温度上昇とともに放電電圧が途中で上昇する現象が見られます。 このため、実走行に際しては、 走行中のアンプやモーターの発熱による電気抵抗の増加をバッテリーの電圧上昇が補償する形となり、 走行中盤まで安定した性能を出していました。その代わり、いったん電圧が落ちだすとガクっと来ますが・・・。 これに対して3700HVパックは、内部抵抗が28〜30ミリオームと3600HVより10〜15%も低いので発熱量がその分減りますが、 熱の「消費量」は、容量見合いと考えれば、ほぼ変わらないこともあり、 放電電圧が途中で盛り上がるほどの加熱を示しません。グラフは一貫してダラ〜っと下がっていきます。 こういう特性だと、走行中の「タレ感」としては、3600HVよりは緩やかに感じるはずなので扱いやすいとは思います。 しかし、ファン冷却を一切しない状態で温度上昇が15〜20度程度しかないので、 実走行の状況では、走行中の風による冷却で走行中にバッテリー性能が落ちてしまうでしょう。 シビアに性能確保を考える場合は、アルミシートや発泡素材などによる「保温」を 考える必要があります。 保温素材としては、ピクニック用のアルミ保温バッグや台所用のアルミ粘着テープが安い・軽い・簡単で良いでしょう。 バッテリー温度が外気温より高い状況であれば放熱は起こるわけですから、冬だけではなくて夏でもこの問題は考慮する必要があります。 タミヤGPはスプリントレースなので、バッテリーを2分〜6分の間にフルに使いこなすには、JMRCAの8分レースとは全く違う考え方が必要でしょう。 (おわり) |