posted on 04/12/2002
last updated on 05/07/2002
タミヤRC製品・即買いカタログ
<モバイル版>
<PC版>
powered by Amazon
RC Car Trend モーター研究室
<その21:スポチュンを極めろ!〜その2>
バラつきってどうよ?
<当たり外れの謎>
スポチュンのみならず、エンドベルがカシメてあって分解整備ができない、 いわゆる「ストックモーター」の宿命のひとつに、「個体差のバラツキ」 があります。これは工業製品なら何にでもあるものですが、 ことRC用モーター、しかもレース用、というモノに関しては、かなりシビアに 問われることも確かです。
もちろん、人情としては、規定で使用モーターが銘柄指定されていても、そのなかで 「パワフルで回転も伸びる個体」が使えればウレしいわけです。 しかしながら、タミヤGPでは、オフィシャルが触って
「感覚的にモーターの使用可否を判断」
しているので、非常にに飛び抜けて良い「当たりモーター」がたまたま手に入ったとしても、 逆に車検でハジかれる可能性が出てきます。そこで、今回の調査では、
「どの程度だったら許容範囲なのか?」
という点に焦点を当てようと当初は思ったのですが、 これではダイノを持っていない大多数のRCユーザーにとって、 自分で見当をつける術がないので何の意味もありません。
そこで、もうすこし一般的に理解可能な分析方法として、
「実際にどのくらいバラツキがあるんだろうか?」
という切り口で検討してみました。
<仕様変更の謎>
ところで、今回、手元にあるスポチュンのサンプルをかき集めたところ、面白い発見がありました。
右の写真は、下がLMシリーズの第1弾「トヨタTS020」発売時の初回ロットにキットに同梱されていた モーター
(便宜的に、入手時期で分かるよう「
9812A
」という呼称を付けます)
、上がタミヤ世界戦予選のラリークラスに出るつもりで2001年10月に購入、ストックしてあった「リテール (店売り)品」です
(こちらは3つあり「
0110A〜C
」と命名)
。 よく見ると、「0110」のほうは、端子の+側にヒシチューブが付属しています。自分が現物を見るのは 初めてなんですが、そう言えば、「モーター研BBS」のほうに、最近、
540の仕様変更?
についてカキコがあり、注意していたところ、 スポチュンでも同様の変更があることに気がついたわけです。 ただし、いずれも
モーターシャフトが従来より短い新仕様
です(今さら「新仕様」というのも妙ですが)。
+端子のヒシチューブ処理なんですが、これ、ちょうど2年くらい前から始まっていますよね。 どうやらこれ、99年12月のTB-01発売を機に変更されたようです。
というのも、 最近、自分でTB-01バスタブを組んだ際に分かったんですが、TBのモーターマウント周辺は非常にタイトで モーターコード端子はそのままだとバスタブの補強リブに当たってしまい、 モーターマウントに付きません。どうしても端子を折り曲げないといけない構造になっています。
こんなのは私の知る限り、タミヤのRCモデルでは初めてのことです。
F-101〜103でも、モーターマウントに落とし込むのに端子を折り曲げたほうがやりやすくて好んで 曲げてはいましたが、説明書で指定するほどの必要性はありませんでした。 ところが、TB-01では「端子折り曲げ必須」ですから。
端子を折り曲げると、当然ながら、人によっては曲げ過ぎたり不注意でショートさせてしまう 恐れがあります。PL法が施行されて昔よりいろんな配慮が必要になってきているので、 ショートで発火やアンプ破損などの事故を起こされないよう、モーター端子の片方に ヒシチューブをつけて絶縁するようになった
、ということのようです。 TB-01以外のキットではまるで意味のないことなんですが、どのキットにどのモーターが入るか、 なんてことまで配慮するのもメンドウでしょうし、アフターパーツはどのキットに使われるか分かりませんからね。「全部のモーターにヒシチューブ処理してしまえ」というのは当然の帰結でしょう。 その分、以前より手間賃かかってるわけですが、「事故起こされるよりマシ」ということなのでしょう。
さて、この2つのモーター、細かく比べてみると、BBSで指摘されていた540の仕様変更と同様、 ローターのバランス取り方法が従来の「コアを削り取る方式」から、両方とも「エポキシパテ盛り方式」に 変更されていました。また、0110A〜Cに限り、ギボシコネクタを付けているモーターコードが「銀メッキ線」になっていました。ちなみに9812Aでは普通の銅線です。
モーターコードの違いは「リテール品」と「キット同梱品」の仕様の差のようです。今回購入したリテール品と発売時期が前後する タイレルP34復刻版(00年12月発売)やフェラーリF2001の1回目発送分(02年3月発売)に 同梱されていたスポチュンは、従来通り「ただの銅線」になっていましたから。
つまり、リテール品は銀メッキ線で、キット同梱品は 少しでもコストを下げるために「普通の銅線」になっているのでしょう。 マブチでは、540でも、同じ型番でリテール品とOEM品を作り分け、モーター型番の色が違うラベルを 貼っていますからね
(OEM品は540SHの型番が黒で印刷されていますが、リテール品は赤字で印刷されています)。
タミヤGPでは、アンプからのコード直付けが認められています。何かの理由がない限り、 「ギボシ」という大きな抵抗になる端子をわざわざ使う必要もないので、当研究室のデータは 「リード線はモーター端子に直結」を基準としています。このため、リード線が仕様変更されても、 計測データへの影響はないという建前です。
ただ、ローカルレースの特別ルールで、「標準添付のギボシコードを無交換で使用」という場合には リテール品が有利になる可能性はありますね。後述するとおり、リテール品もOEM品も モーター自体の性能は特筆するような違いはないようですから、それならばコードはやはり 電気抵抗の面で有利な銀メッキを使ったほうが、トータル性能は上がりますから。
ついでだから書いておきますが、あえてギボシコードを使う なら、絶対に金メッキ品を使うべきです。 タミヤGPでは、モーター側のギボシは改造できませんのでアルミ製のギボシを使わなければいけませんが、 「アンプ側ギボシだけ」の金メッキでも「両側とも金メッキ」と比べて 抵抗はほとんど変わらない、ということがダイノでの計測結果で判明しています (これについてはもっと検証を重ねたうえで別途公表したいと思っています)。
ところで、このたび「フェラーリF2001」が発売され、このキットにもスポチュンが同梱されることになったわけですが、 ややこしいことに、また仕様が若干変わっています。
端子のヒシチューブ処理は同じですが、バランス取りの方法が変わりました。 ・・・といいますか、「パテ盛り」から「コア削り式」に再び「戻っています」。 削り方は、モーターシャフトの前後方向にえぐる方式だけでなく、ローターコア表面を薄くそぐ方法も 併用していることを確認しています。
どうして戻したんでしょうね?
「どっちでもいいじゃん」
という意思表示なのか? ジョンソンもそうですが、一定期間を置いてバランス取りの方法がコロコロ変わるのはユーザー的には非常に謎なところです。 どうでもいいとは思いながらも気になりますよね。。。
<今回の実測値>
さて、今回の検証に使用したサンプルは以下の6基です。
4ケタの番号は「購入年月」を、アルファベットは同時購入の場合の通し番号です。
ちなみにこの表記基準は他のページのモーターも同様です。
<9812A>
トヨタTS020初回発送分に同梱されていたOEM品で、RCTで
スポチュンの基準データ
を取ったモーター(シャフト長が
短くなり、エポキシパテでバランス取りした現行仕様の最も古いもの
)
<0012A>
タイレルP34復刻版の店売り用初回出荷分に同梱のOEM品
<0110A>
リテール品(その1)
<0110B>
リテール品(その2)
<0110C>
リテール品(その3)
<0203A>
フェラーリF2001(F201)初回発送分に同梱のOEM品(バランス取りが削り式に戻った)
では早速、実際のダイノデータを見てみましよう。
下の表は、3.6V・5分間の空転ナラシ後(9812Aは
いつもの基準データ
)に計測したデータを「最高出力」の高い順に並べ替えたものです。
「9812A」のデータが2本ありますが、ファイルネーム「9812A003」は今回
<その20>
で紹介した再計測データ(追加ナラシ前)、 「9812A002」は
<その2>
以来使っている スポチュン用のRCT基準データです。
今回は、9812aの基準データをレファレンスデータとして、「消費電流」をヨコ軸にして グラフを描いてみました。特に、グラフ下の表中の「10-30A」の平均出力と効率の数値に 注目してください。
(実線は0203a(ナラシ済み)、点線はスポチュン基準データ=9812a(
その2
参照))
(実線は0110b(ナラシ済み)、点線はスポチュン基準データ=9812a(
その2
参照))
(実線は0110a(ナラシ済み)、点線はスポチュン基準データ=9812a(
その2
参照))
(実線は0110c(ナラシ済み)、点線はスポチュン基準データ=9812a(
その2
参照))
(実線は0012a(ナラシ済み)、点線はスポチュン基準データ=9812a(
その2
参照))
<考察>
上の表
を見れば一目瞭然なんですが、 最新仕様?の0203Aは、一連のモーターのなかで最も古い9812Aと 比べると、最大出力で実に10.5%、「10-30A」の平均出力でも8.8%の差があります。 ほとんど同じ条件でブラシのアタリを出し、測定したにしては、あまりに差がありすぎます。 最大トルクも5.0%の差があります。
このくらい違うと、実走で確実にパワー差を感じることができます。
無負荷時回転数は200rpmしか違わず、トルク差も5%(もある?しかない?)、ということは、 あとは「効率の差」ということになります。確かに、「9812A」の最高効率68.6%、10-30Aでの平均61.8% に対して、「0203A」はそれぞれ74.4%、67.0%ととんでもなく効率がアップしています。でも、これはちょっとデキ過ぎでしょう。
0203Aは、見るからに、いかにも「できたてのホヤホヤ」というピカピカのコミュだったので、 これが高効率に寄与したのかも知れません。あるいは、ローターのバランスが良かったのかも。
こういう場合ありがちなのは、使用したとたんにドンと効率が落ちるというケース。 それにしても、やはり多少は標準的な個体よりも性能は良さそうです。
0012A以降の個体と9812Aとの出力の差も結構目立ちます。
以上をグルーピングすると、
(1)
最大出力100W以上
:0203A
(2)
最大出力95〜97W
:0012A〜0110A/B/C
(3)
最大出力90W前後
:9812A
というふうに大きくに分けることができそうです。
ここでは最大出力で分類しましたが、グラフ中の表から分かるとおり、10-30A平均でみても この序列に変化はありません。
結果を単純化して述べると、「新しいモーターのほうがパワーがある」 ということになりそうですが、果たしてそうなのでしょうか? また、それはナゼ??
従来、このようなパワー差は 単なる経時変化(磁力抜け)なんじゃないの?ということで片付けられてしまいがちでしたが、 どうもこの考えは正しくないようです。
<その20>
ではこの9812Aの基準データの 測定に何らかの問題があった可能性をみるため、3年ぶりに再度測定&追加ナラシを行い、検討を加えました。
その結果、
同じ個体を3年ぶりに再計測したデータ
は、 当時の計測結果とほとんど変わらないことが分かりました。
(最高出力は1%程度アップしましたが、無負荷時回転数は0.2%とごくわずか低下)
そもそも、この「9812A」自体、
シャフトが長い「旧型スポチュン」
と比べてトルクが大幅にアップしています。
「その4」
で紹介している「旧型」のトルクは158.1Nmmしかなく、 「9812A」の基準データ170.8Nmmと比べると7.4%も低い数値です。 これに対し、「最新」の「0203A」のトルクは179.4Nmmあり、「9812A」に対し、5.0%のトルクアップと なっています。
逆の見方をすれば、「新型」同士で比べると、「新型」と「旧型」との差ほど大きなトルク差はない、とも言えそうです
。
それにしても、同じ型番のモーターでありながら、わずかこの3〜4年の間に10〜15%もトルクアップする なんて、通常では考えられません。 ・・・となると、やはりこのトルクの差は「経時変化」というような生半可なものではなく、 加工精度や素材品質を含めて、
モーターの仕様そのものが年々グレードアップされてる
、と考えるのが自然ではないでしょうか。
サンプル数が不十分なので、100%確証を得るまでにはいきませんが、
「スポチュンを使うときにはなるべく新しいものがいい」という可能性がある
ことに 気付いたのは、大きな発見だと思います。
もともと、今回は、個体別の性能の「バラつき」を調べようとしていたわけですが、 同じ型番のモーターを時系列で並べた時に、これだけの差が出るとは思ってもみませんでした。 通常の「定番モーター」では、長期間にわたって性能を一定範囲に抑えるのもひとつの「品質」なわけで、 年々性能がアップしてるとしたら、それは「スポチュン」というRC専用モーターならではの 話なのかも知れません。
結局、今回「バラつき」のサンプルとして使えそうなのは、3つを同時にまとめ買いしたサンプル、 「0110A〜C」しかなくなってしまいました。これでは、ホントにおおざっぱな傾向しか掴めませんが、 筆者としてはいずれにしろタミヤGPで使用するモーターを選ばなければなりません。参考までにその時の 選別のプロセスをご披露しておきます。
この3基についても
上の表
に数字が出ています。これを見ると、 無負荷回転数にはややバラつきがみられますが、最大出力は96.4W〜97.7Wと、非常に揃っています。 この3つのうち、「0110B」は回転数、出力とも3基のなかでは一頭抜けているので、 この3つのサンプルのなかでは「良いモーター」と考えていいと思いました。
悩ましいのは、残り2つですが、「どっちがいいのか?」ということについては、 筆者もまだまだ経験不足で、実際に負荷をかけてみないとなんとも言えません。 結局、02年3月24日開催のタミヤGPイン東京(ROX3)ラリークラスに使用するモーターとしては、 決勝用に「0110B」を用意し、練習〜予選には「0110C」(無負荷20122rpm、最高出力96.4Wとちょい低め)を 使うことに決めました。しかし実際には、予選でTQを取るなど、0110Cで十分戦える状況だったので、 0110Bは次回以降の使用に持ち越し、決勝でも0110Cを使用しています(バンド変更で電波トラブルに見舞われ、リザルトはメタメタでしたが<笑>)。
なお、この0110Cが「使用後」にどんな変化をみせたかについては、
「その22」
でご紹介します。
(おわり)
「モーター研究室」の目次へ戻る