<その24:スポチュンを極めろ!〜おまけ> <「支給モーター」という神秘> 今回のテーマは、ズバリ、「タミヤ・ワールドチャンピオン決定戦(タミヤ世界戦)」で 支給モーターとなっているスポチュンについての考察です。 タミヤがスポーツチューンを支給モーターに採用したのは、 1999年、会場がツインメッセ静岡になってからのことです。比較的歴史は浅いんです。 それまでは、ツーリングGT1など上級クラスではターン数無制限といったりしたクラスも ありましたが、基本的には全クラス「540/ジョンソン」で統一されてました。 しかし、ツインメッセのコースは、インドアといえ、通常のタミヤGPの 3倍くらい広くなったため、540/ジョンソンではいかにも貧弱、 かといってブラシ交換式モーターではまたいろいろと怪しいコトが横行しそうだし・・・ ということでスポチュンが選定されたのでしょう。賢明な選択といえます。 ところで、スポチュンはブラシが柔らかいので、いわゆる「おいしい部分」が非常に短い モーターとして知られています。ブラシがなくなるまで使う「お遊び用」なら、 100パック使っても全然OKですが、本当にピークパワーを発揮するのは、経験的には 無ナラシで使い始めて最初の2パック目〜4パック目あたりまでのようです。 しかも、タミヤ世界戦で各選手に支給されるモーターはわずか2個! これを予選・決勝合わせて7回の走行でうまく使っていかなければなりません。 世界戦での予選ヒートは1回で5分間もあり、レイアウトも高速でギヤ比は上限いっぱい、 モーターには大変な負荷がかかるので、7ヒートすべてを1個のモーターで走るのは不可能です。 そこで、毎年、世界戦に参加した各選手は、めいめい、モーター戦略に悩むわけです。 あらかじめ、TRFのスタッフがダイノテストでチェックし、個体差をそろえてあるにもかかわらず、 ほんのわずかな差を求めて、 「どっちのモーターがより良い(と思われる)か?」と、それぞれの持つノウハウのなかであれこれ考えます。 もちろん、走行中も、モーターに熱を加えないように配慮しながらタイムを出さなければなりません。 言ってみれば、世界最高の「スポチュンを使い切るノウハウ」が結集するわけですが、 残念ながら、参加者各自のテクニックとノウハウを比較するには、「使用前/使用後」のデータが必要で、 そんなこと、RCTができるはずもありません。 しかし! 幸運はやってくるもので、2001年度の世界戦の後、GTクラス予選2位の好成績をあげた チームR.T.M.のさつきさんから「これ、測ってもらえませんか?」と2個の「世界戦スポチュン」をお貸しいただく機会に恵まれました。感謝!! で、早速計測したかったのですが、あいにくProMasterが01年8月以来、ヒットさん&Robitronic社へ 「長期療養」の旅に出てしまっていまして、02年3月に晴れて「帰還」を果たしたので(死ぬまで帰ってこないかと思った・・・<爆>)ここにきてようやく企画が実現した、というわけです。 <さっそく測ってみました> 今回計測したモーターは、同一人物に支給された2基で、基本的には同等の性能を発揮することが期待されています。ここでは便宜的に、「0111A」「0111B」の名称を与えました。 参考までに、「その21」で掲載した「新品スポチュン(ナラシ済み)」のデータを再度示します。 こちらはあくまでも「新品」のデータですので、上の2基のスポチュン「使用後」のデータと同一基準で評価しないように くれぐれも気をつけてください。 このうち、0110Cについてはその22に示したとおり、 予選・決勝合わせてトータル12分程度走行したタミヤGPのレース後に、「最大トルクが使用前175.3Nmm→使用後 173.5Nmm、ピークパワーは大電流域での効率悪化に伴い5.1%低下(96.4W→91.5W)したけれども 常用回転域(10〜30A)でのパワーは75.9W→75.3Wとほとんど変わらず、無負荷回転数はわずかに伸びた (20,790rpm→21,440rpm)」となっていましたね。ご参考まで。 「2001世界戦スポチュン」の 0111Aはさつきさんが予選から使用したモーターで、0111Bが「こっちのほうが最初に回した時は調子良さそうだったんで」ということで、決勝用に残されていたモーターだったのだそうです。しかし、実際に搭載し、走ってみると、これがとんでもない「外れ」だったことが分かり、1回使用したきりで、残る決勝2ヒートは再び0111Aに戻す、という苦しい戦いを強いられる結果となりました。(ま、それもレースってもんで、負荷をかけた後の性能低下の個体差までオフィシャルが予見するのは無理。オフィシャルを責める気はさつきさんもRCTも全くありません。くれぐれも誤解なきようお願いします) 上の表を見ると、0111A/Bは2本ずつデータがありますが、 ファイルネームの末尾が「001」のほうは、 メンテナンスを全くやらないで、預かった時(=レース終了直後)の状態を再現したものです。 しかし、計測前に包みを解いて見たモーターは、オイルやブラシカスでグチャグチャの状態。 タミヤ世界戦では、タミヤ製クリーナー以外のケミカルの使用を禁じられており、 このモーターについても「コミュドロップ等は一切使用していない」とのことでした。 軸受けにオイルを注すのは私も見たし、タミヤのクリーナーは使った、とのことなので、 その影響だと思いますが、 とにかくベトベト。うっわ〜汚たな〜〜〜(笑)。 「0111B」に至っては、計測時にノッキングまで起こしてデータ取りすら難しい状態。 そこで、Orionのモータークリーナーでモーター内部を洗浄し、改めて計測し直したものが 末尾「002」のデータ、というわけです。 やはり、洗浄するとモーターの性能はそれなりにリフレッシュされます。 (と言いますか、 レース中にモーター洗浄してなかったことはないハズなので、たった1レースの中でもこれだけ 性能低下するんですねえ、ということを端的にうかがい知れるわけですが) (0111A=実線は洗浄後、点線は洗浄前=レース終了後に預かったままの状態) (0111B=実線は洗浄後、点線は洗浄前=レース終了後に預かったままの状態) 0111Bのグラフは特徴的です。ちょうど15000rpmを過ぎたあたりから、変なカーブを描いています。 これが「計測ミス」でなく「個体のクセ」であることは、「洗浄前(点線)」と「洗浄後(実線)」 で、全く同じようなカーブをトレースしていることから間違いありません。 しかし、なんでこんな妙なクセがついたのか・・・。これは今の私の知識では残念ながら分かりません。 今、思いつく可能性としては、ローターのバランスが悪くてこのあたりの周波数で 共振を起こしているのかも知れません。 データで見る限り、ピークパワーは、むしろ0111Bのほうがあるんですけどね・・・。 (0111A=実線は洗浄後、点線は洗浄前=レース終了後に預かったままの状態) (0111B=実線は洗浄後、点線は洗浄前=レース終了後に預かったままの状態) <ナゾ解明のカギは「常用回転域」の「効率」にあり!> 回転数ベースのグラフでは分かりにくい点を明らかにするため、「消費電流」をヨコ軸にとり、 で「洗浄前」と「洗浄後」をプロットしてみたのが上の2つのグラフです。 これを見ると、0111Bでは、通常の傾向と大きく異なり、「回転のトップエンドでかなりの 回転の乱れと効率低下が見られる」ことが分かります。また、低回転域では、 エンジンのノッキングに似た現象(グラフが大きく乱れている部位)が目立ちます。 いずれも、コミュとブラシの接触がうまくいっていない場合に起きる現象です。 ということは、ブラシないしコミュの加工精度に問題があったのかも知れません。 ここで、ハタと気がつきました。 「モーター研究室」のほかのページのグラフをご覧いただければ分かりますが、 一般には、ピークパワーが高い個体は、常用回転域(10-30A消費電流域)の平均出力も高い、 という傾向があります。また、同一銘柄間の性能差は、「効率」や「無負荷最高回転数」に顕著に表れます。 要するに、コミュとブラシの接触が良かったり、回転のバランスがいいと、まんべんなくパワーが出る、 というわけです。当たり前か。 一般的にはそうなんですが、 この「世界戦スポチュン」0111Bの場合は、不運にも高回転域での効率が異様に悪く、常用回転域での パワーがピークパワーに見合った水準に達しなかったため、実走行でのパフォーマンスの低さに つながってしまった、と理解することができそうです。 まあ、今回ご紹介のケースは、本当に「たまたま」不運にもこういうモノに当たってしまった、 ということで、100名あまりの世界戦参加者のなかで、1人いるかいないか、という確率でしょう。 当たってしまったら「これもレース」と割り切るよりほかありません。 なお、この0111B、ピークパワーは優れていても高回転域での効率が悪い、という兆候は 実は「無負荷回転数の低さ」からある程度察しがついていました。実際に回した時にも、ものすごく 回転バランスの悪そうな音を出していましたので「いかにもヤバそう」という感じはありましたしね。 本ページ冒頭のさつきさんのコメントは、ダイノ計測後にもらったもので、計測時点では 0111A、0111Bの優劣判断はまったくデータのみから判定せざるを得なかったのですが、 計測結果どおり、「0111Aのほうが良かった」というコメントを頂けたのでホッとした次第です。 今回の結果は、ある程度、「現場で良いモーターを選ぶ基準」を示唆しているように思います。 つまり、 「無負荷で通電して、音のいいほう、よく回っているほうを選ぶ」 という、経験的なノウハウがあながち間違っていないことの間接的な裏付けになったのではないかと。 ただし、このノウハウは、「新品同士を比べる場合」にのみ有効です。 新品と、コミュが荒れ磁気飛びした中古を「音」だけで比較するのは 意味がありませんから要注意です。 それにしても、こんなヒドいモーター、オフィシャルはなんで発見できなかったんでしょう? さつきさんによれば、0111Bは「1レースでダメになった」とのこと。 となると、「オフィシャルのダイノテストではまだアタリが出ていなくて欠陥に気付かなかったのが、 レース前のナラシでアタリが出てしまい、ガタガタになったのでは?」という仮説が成り立ちます。 「その21」のとおり、 「スポチュンでは3.6V電源で5分程度でアタリが出てしまうらしい」、ということからも、 十分あり得るのではないでしょうか。あんまりこういうのに「当たり」たくはありませんけどね(苦笑) もうひとつの可能性としては、「クラッシュの影響」もあり得ます。世界戦クラスになると、 あからさまな大クラッシュ、というのは基本的にないので、当初、頭になかったのですが、 非常に高速なので、いつもなら気にもならないようなフェンスとの接触とかで、いとも簡単にシャフトが曲がる、 といったことがツインメッセの世界戦では起こります。だから、本人も気付かないような何かの衝撃で ローターにダメージを受けた可能性は十分にあり得ます。クラッシュのせいなら、たとえ1周でダメになってもおかしくありません。 もうひとつ、今回の計測結果から、 「世界戦スポチュンといえども、特にパワーがあるヤツを選んで、とかいうのではなく、 「ごくごくフツーのスポチュン」であることが確認できました。 具体的な数字を挙げておきましょう。 「常用回転域」(10-30A平均)での平均出力を比較すると、モーター洗浄後の0111Aの値は75.3W、 0111Bは73.6Wでした。これに対し、 「その21」に掲載の他の新品スポチュンの計測データは、 73.0W〜79.4Wの範囲に収まっています。 同一個体の「レース使用前」と「使用後」の変化を比較した 「その22」の結果を踏まえて、コミュの荒れによる「使用後」の効率低下を1〜3%と見込むと、 「その21」の一連の新品スポチュンと「2001年度世界戦用スポチュン」の性能は ほぼ同じ、と考えていいのではないでしょうか。 なお、「その21」掲載の6基の試験個体については、 ピーク出力の序列と「常用回転域」の平均出力の序列がぴったり一致していたことを 指摘しておきます(詳しくはご自身でグラフとデータを見てご確認ください)。 「普通はそうなんですヨ」ということで。 最後になりましたが、ご参考までに、 「洗浄後」の0111Aと0111Bのデータを直接比較したグラフを3種類、 下に掲示しておきます。これは各自の自由研究課題! じっくり検討してみてください。 (おわり) (実線は0111A、点線は0111B、いずれも洗浄後のデータ) (実線は0111A、点線は0111B、いずれも洗浄後のデータ) (実線は0111A、点線は0111B、いずれも洗浄後のデータ) |