RC Car Trend モーター研究室
<その2:タミヤレース用ストックモーター徹底比較>
1発目のレポートを放って落ち着いたところで、「タミヤ専門」を標榜するものとして、
今度は「基本」に立ち戻ってみましょう。まずは、タミヤが発売中のストックモーターの比較調査です。
タミヤが扱っているストックモーター(エンドベル脱着不可の製品)には、
RS-540SH
ジョンソン
RS540スポーツチューン
ダイナラン・レーシングストック
の4種類があります。厳密には、このほかにもボーイズ四駆やかつて5セル・6V時代の標準だったRS-380S、ハイラックス四駆用のRS-550S、
タムテック/QD用のFK-180SH/RK-370SDブラックモーターなどがありますが、これらは別カテゴリーとしてこの場では割愛します。
なお、各モーターの詳細については、こちらをご参照ください。
さて、ストックモーター特有の問題としてしばしばクローズアップされるテーマとしては、
(1)製品のバラつきがどの程度あるのか?
(2)ナラシの効果は? また、最も効果的な方法は?
(3)ストックモーターの寿命はどのくらいあるのか?
といったものが代表的でしょう。
しかし、残念ながら、以上の3点については、
これまで科学的・実証的なデータの蓄積が皆無に等しい状況であり、確証がつかめないまま、このページで
不用意なコメントをするのは不適切と考えますので、今後の研究課題として保留しておきます。
問題を難しくしている最大の要因は、モーターの運転条件がユーザーごとに大きく異なる点です。
どんなナラシをして、どの程度の負荷をかけて、何パックくらい走らせて、その時の外気温と使用アンプの条件はどうで、
メンテはどのくらい、どんな方法で行って・・・というもろもろの条件が、ユーザーごとにあまりに異なりすぎているなかで、
「ユーザーからの聞き取り調査」に頼る従来の調査方法で統計的に有意な結果を導く、というのは無理があります。
私(伊藤)自身、これまでのRC生活**年のなかで、モーターについてはそれなりの知識と経験を積み上げて
きましたが、今もって「これが絶対」と言えるほどの知見とはなり得ていません。Pro Masterを得て、
ようやく諸条件のコントロールの精度が上がりましたので、まともな検証に手がつきはじめました・・・というところです。
テーマによっては膨大な時間やコストもかかりますので、焦らず急がず、十分な考証を経て、目星がついたものから
順次公表していきたいと思います。
というわけで今回は、とりあえず現状認識という意味で、グレード別の性能比較を行ってみました。
これ自体はあまり意味のない調査だと自分でも思いますが、データとして典型的な水準のものを選ぶ
(これ自体、ユーザーレベルで行うことはとても大変なことです)ことにより、
今後、出していくさまざまなレポートに対する、ひとつのベンチマークデータになり得ると思います。
(ご注意)
当ページで公表しているテストデータは、特別に記された場合を除き、通常はすべて7.2V運転時の状態です。
タミヤのモーター性能表示の運転条件も7.2Vですので、カタログデータと実測値として双方を比較可能です。
なお、10〜30Aを放電する実際の使用環境では、バッテリー電圧は通常6.6V〜7.0V程度で推移しますので、
表示データより若干低い性能特性となる点をお含みおきください。
<1>ジョンソン vs RS-540SH
ジョンソンモーターというのは、86年10月にモンスターピックアップ(2駆)シリーズ
として「ブラックフット」を発売するにあたり、従来のマブチRS-540S(6V仕様)ではキャパ不足
と判断され、香港のジョンソン社から供給を受けた、というのがそもそもの経緯のようです。
当時は、「特製モーター付き(RS-540タイプ)」という表現で、当初から型番等は
無視されていました。しかも、当初は「特製」という扱い
だったので、誰も見向かなかったのです。それが、80年代後半のバギーブームのなかで、
通常のキットでもパワー指向が強まり、流れに任せてバギーキットへの同梱が始まってしまったのが、
今日に至るまで尾を引いている「必勝モーター=ジョンソン」のルーツです。実は、いわゆる
「ジョンソン」にも、エンドベルの異なる2タイプ(注1)があるのですが、これの話はまた別の機会に譲りましょう。
(注1:このレポートの後、99年初頭入荷分から仕様変更があり、現在は3種類になっています)
ジョンソンのバギーキットへの同梱がいつから始まったか?という点について、手元の資料で確認できたところでは、
85年10月発売の「フォックス」までは540Sが標準
88年8月発売のグラスホッパー2以降のバギーはジョンソンが標準になった、という事実関係までは突き止めました。
この時期、オフロードモデルではベーシックキットの標準モーターはジョンソンで統一状態になり、
レースでもオフロードレースがメインだったので大きな支障はなかったのですが、
一方でオンロードモデルのほうは混迷を極めた時期でした。
キット標準モーターはモデルによって540S(6V仕様)から540ブラック・スプリント/エンデュランス、
果てはジョンソンと、てんでバラバラ。90年の第3世代F1(F101シャシー)
発売以降、540SHまたはジョンソンをランダムに同梱するスタイルがようやく
定着し、現在に至っています。
どうしてこんなことになったかというと、
(1)80年代には第2次オイルショックの影響でモデル化の対象となる魅力的なオンロード・レーシングカーが
なかなか見当たらなかった、(2)オンロード・レースが先鋭化し過ぎてオフロード
へユーザーの目が向いた、といった時代背景のなかで、オンロードモデルの製品化ペースが
極端にスローダウン、合わせてオンロードレースの世界では、「6Vから7.2Vへ」、
「2分程度の周回レースから8分レースへ」という大きな変化がたて続けに起こったため、
その都度商品企画も大幅に変更された、といった要因が指摘できます。
ともあれ、一連のゴタゴタのなかで、80年代後半から90年代の初めにかけて、
ジョンソンモーターはマブチRS-540Sが7.2V対応型のRS-540SHに切り替わる
間のツナギ役を見事に演じただけにとどまらず、「アフターサービス専売品」という特異な形態で、
タミヤモーターにおける現在の独特の評価と位置づけを確立してしまったのです。
今では、「540タイプモーター」で争われるタミヤレースでは、
「ジョンソンを使わなければ勝てない」というのが半ば常識と化しています。
では、その差はどのくらいあるのでしょう?
(実線はジョンソン、点線はRS-540SH)
ざっとこんなものです。比較モーターでは、平均出力(power)にして約5%(2.6W)
の差が出ています。回転数の伸びも、明らかに差があります。トルクも太いです。
以前、ラジコンマガジン(RCM)誌で分解比較を行ったことがありましたが、その時の記事では、
ジョンソンの方が1ミリ程度、ローターコアが長い、という点が指摘されていました。
もちろんそれがすべてではありませんが、ターン数や巻線の太さに微妙な影響を
与えていることは間違いないわけで、結果的にRS-540SHとは異なる仕様になっているわけです。
ブラシも、RS-540SHより柔らかいため、パワー的には有利な仕様となっています。
反面、ジョンソンは寿命が短い(とはいっても100パックは優に走れる)うえ、
クラッシュに弱い(ローターコアの接着が弱く、すぐ芯ズレによるガタつきが起きる)、
といった難点があります。パワーは魅力ですが、そういうことがあるので、
人によっては「レース用」と割り切って使った方が良いかも知れませんね。
(11/7/06update)
ここでのコメントの前提となっている「2穴カン」のジョンソン(第2世代品)は、
第3世代品がop.689「540-Jモーター」として正式にカタログ商品となったことに伴い、
2004年シーズン以降のタミヤGPでは使用が禁止されています。
<2>スポーツチューン vs RS-540SH
「スポチュン」は0.80mmシングル23ターンローター、進角12度のスペックを持つモーターで、
ブラシの仕様が異なってはいますが、出力などから判断すると
80年代のピュア1/12レーサーシリーズ「レーシングマスター」
に同梱された「RS-540ブラック・スプリント」(電動RC初期のニッカド1200SCセルだと走行時間2〜3分!)の
ボールベアリングをプレーンメタルにスペックダウンしたものと考えて良いと思います。
基本的にマブチは部品を増やさないことを金科玉条としている会社
なので、極力、既存の部品を流用しているはずです。
エンドベルは同時期の540SからSHへの仕様変更に合わせ、樹脂製から金属製に変更されています。
なお当研究室では、便宜上、スポチュンの基本スペックを当ページ掲載のモーターにしばらく固定し議論します。
<その4>で紹介しているとおり、このモーターは、新発売の「トヨタTS020」(もちろん初期ロット)
に同梱されていた「新型?」のシャフトが短いタイプのスポチュンです。
スポチュンはさすがに進角付き+ソフトブラシ採用なので、ジョンソンと
比較しても明らかにトルクも回転数も伸びています。ベースのRS-540SHとの比較では、
平均出力で22%のアップです。また、「下」のトルクが意外に細い点も注目されます。最大トルク
(発進時)は540SHとほとんど変わらないレベルです。それでも、
実際の使用時には、常用回転数が上がるため、スロットルブレーキが強めになります。コーナリング時にスロットルを
完全にオフにするドライビングスタイルの場合、フロントサスのスプリング
やフロントタイヤを若干ハードにしないと、オーバーステアが強くなるので
注意しましょう。これを和らげるには、ごくわずか、スロットルを開けた状態
でワイドなラインを取りながらコーナーに進入するのですが、掛川ならともかく、
通常のコースではオーバースピードになりやすいので、あまり現実的ではないかも知れません。
(実線はRS-540スポーツチューン、点線はRS-540SH)
<3>ダイナランストック vs RS-540SH
いわゆる「当たりモーター問題」の手打ちとして、シンナゴヤが
タミヤに供給することになった「Mチューン」「ダイナラン・スーパーツーリング」
に続く3作目のモーターが「ダイナランストック」です。シンナゴヤの展開するモーター理論に
基き、ショートスタック、ファン付きという仕様を持つほか、ブラシは汎用4x5mmサイズ
の交換式となり、過去のタミヤモーターで不満のタネだった「専用ブラシ使用」
の呪縛からは解かれた格好となっています。カタログスペック上は、
スポーツチューンとほぼ同等、となっているのですが、実際のベンチテストでは、
実走行で感じられるとおり、スポーツチューンを大幅にしのぐ数字が出ます。
ショートスタックのコアだけあって、さすがに、トップエンドの伸びは素晴らしいものがあります。
また、パワー特性もかなりフラットです。なお、ピーク出力は、RS-540SHの41%増しとなっています。
(実線はダイナラン・レーシングストック、点線はRS-540SH)
(番外編)トリニティX-Star vs ダイナランストック
ついでに、RC2000バッテリー対応(大消費電流)型ストックモーターとして
アメリカのストッククラス・レースで現在主流のモーターのひとつである
トリニティのX-Star(最近、ニューモデルが出て陳腐化してしまいましたが)
にご登場願いました(笑)。
(実線はトリニティ X-Star、点線はダイナランストック)
結果はご覧のとおり。ほとんどダイナランストックと変わりません。中低速で
ダイナランのほうが効率が良いのは、X-Starがレイダウンブラシを採用しているためです。
ただし高速側では、低抵抗・コミュとの長時間接触というレイダウンのメリットが
フルに発揮され、X-Starの効率はダイナランに迫る水準に改善されています。面白いですね。
さらにいえば、パワー特性も、X-Starのほうがダイナランストック以上に
「全域フラット」の仕上がりになっており、まさに「どこからでも胸のすくパワー感」
といった感覚が得られるようになっています。X-Starと比較すると、ダイナランストックは
まだ低域重視の感じです。このへんの味付けの違いが、トルク的に不利なショートスタック
でありながら「ツーリングにも使えますよ」というダイナランストックの
「売り」になってるわけですね。
ただ、1/12レーシングのように、コーナー、直線を問わず常に一定以上のスピードを
キープして走り続けるカテゴリーでは、間違いなくX-Starのほうがフィットするでしょう。
ま、そもそも、そういう狙いで作ってあるわけですが・・・。
トリニティはもともとROAR(アメリカのJMRCAみたいなところ)ストックレース規定の抜け穴を突き、
ローターコア中心部を抜いて軽量化・レスポンスを改善した「分割(スロッテッド)コア」を
90年代初頭に開発したメーカーで、シンナゴヤの
ショートスタック・ローターやマッドマックスのストックモーター開発にも
少なからぬ影響を与えた張本人です。
タミヤレースでのダイナランストック採用もそうですが、近年、
JEMなどの開催により、日本のストックモーターも少しずつ「安かろう悪かろうモーター」
の域を脱する兆しがみえてきたので、参考になるのでは、と思い、
今回出してみました。
実車レースでもそうですが、アメリカでは、「ストック」もひとつの立派なカテゴリーであり、
それはそれなりにカネと手間がかかりますし、奥の深い部分もあります。例えば、
モーター開発においても、「8分ちょうどでバッテリーを使い切る」という点においては
モディファイドと全く同じ観点から開発が行われ(したがって、RC2000用のX-Starと
1700SCRCを組み合わせて全開走行すると、最後の20秒でタレます。筆者もそれで1回、
米国でのローカルレースで勝たせてもらいました)、毎年のようにニューモデルが登場しているのです。
決して格下のレースなんかではありません。
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