<その17:2000年型23ターンモーター・ハードチェック> (この内容は、2000年12月現在の状況に基づくものです) <今、23ターンが熱い!> ブラシ交換タイプの23ターン・ストック。各社から2世代目、3世代目モデルが出揃い、 いまや「ストックモーター」の1ジャンルとしてすっかり定着した感があります。 3年くらい前からJRM(日本ラジコン模型工業会:旧JEM) というメーカー側組織もJMRCAとは別に全国的なイベント(JSTC)を始めましたし、2001年度からは 4セル&23Tモーターによるツーリングカーレースの開催など、ますます競技の幅も広がって いきそうです。 折りしも、2000年12月に、タミヤGPでもおなじみの浅草・ROX3にて、東京ではひさびさの JSTCレースが行われることになりました。タミヤGPオンリーのユーザーにはなじみのない23Tだけに、 これはちょうどいい機会だということで、各社のモーターを入手し、比較検討してみることにしました。 ただし今回は、なにぶんにも初めてのことであり、時間的・予算的な制約もあったので、 とりあえず店頭で即、入手可能だったものだけをとりあげています。 また、同様の理由から、サンプルは1個ずつです。 従って、データとしての信頼性はある程度のブレがある点を あらかじめ考慮に入れておかなければなりません。 さて、JSTCレースでは、使用パーツに「公認制度」を採用しており、非公認のモーターは使用できません。 現在の状況はこちらで確認できるはずですが、 本調査を実施した時点では2000年10月12日現在の公認リストが最新でした。その時のリストを参考までに掲載しておきます。 (★:新規公認品) HPIジャパン ★HPIスーパーストック23T 1130 HPI JEMストックモーター23T 1140 ORION 23Tストックモーター ABCホビー ドラドストックS-23 川田模型 MO-23 カワダストックモーター23T M1-231 VストックモーターJEM23T 京商 K-SPEED JEMストック23T K-SPEED JRMストック23T ★エクスピードストックHS23-S クロス アグライアーRXストックモーター23T 進和技術研究所 テクニカルJ タミヤ RS-540スポーツチューンモーター アトラス JEMスプラッシュストック23T スーパーストックJRM23 ★プログレス23T ヨコモ ヨコモJPストック23 ヨコモJSストック23 ヨコモJLストック23 ヨコモJEMストック23T ヨコモJストック23 今回、取り上げたのは、以下の3モデルです。 (1)アトラス「プログレス・ストック23T」(品番MH7-027、2000円)それぞれ、独自の趣向を凝らして個性的なモーターに仕上がっていますが、 果たしてどのくらい性能に差があるものなんでしょうか? <アトラス・プログレス> まず最初は、チームアトラス(ミワホビー)から発売されている「プログレス23T」です。 外観的には、エンドベルの処理、接触面積削減のためのテーパー加工がない軸受けなどに、設計面での古さが目立つのですが、 ブラシはレイダウンのセレートタイプを採用、ローターを貫通する小さい穴によって磁力線を曲げ、 磁気的な進角効果を得る「ホールショット加工」を採用と、押さえるべきツボは キッチリ押さえているあたりはさすがです。また、 「2000円」という、ブラシ交換式ストックモーターとしては圧倒的な低価格も魅力です。 この低価格と性能をどのようにバランスさせているのかが、このモーターの評価の焦点になりそうです。 やっぱり23Tは「回ってナンボ (単純な無負荷回転数のことではありません、念のため)」ですからね。 なお、プログレスにはJRMの認定証がありませんでした。 ギボシも後付けの選択式です。 一応、JRMのサイトで認定モーターに入っていたので、認定証がなくても購入してみました。 それでは、さっそくダイノデータを比較してみましょう。 当初は、23T基準モーターとしてスポーツチューンと比較するつもりでしたが、 「その18」で 紹介したように、いまどきの23Tとは圧倒的に性能差が開いてしまっていますし、データ取りの後、 当ページの執筆がずいぶん遅れたことを考えて、今回は既に公表済みの「その18」のデータから、 当ページで取り上げたモーターの1年後に出てきた新世代の「タミヤ・スーパーストック・タイプT」と比較してみました。 2001年型の最新23Tと2000年型の性能差がどのくらいあるのか? という観点からご覧ください。 (実線はアトラス・プログレス、点線は タミヤ・スーパーストック・タイプT基準データ(その18の計測データを使用)) 従来、標準的な表示法として回転数ベースの表示をしてきましたが、これですと、 「ほとんど同じじゃないか」という解釈になってしまいそうなくらい、拮抗して見えます。 特に最高回転数、トルクはほとんど同等です。最高出力はプログレスのほうが若干良いくらいですが、 常用回転域(10-30Aの消費電流で回す範囲)での出力はタイプTのほうが明らかに良いので、 いったん、走り出してしまえば(ゼロ発進を除けば)、タイプTのほうがパワフルに感じるはずですし、 失速しないよう「転がして走る」限り、燃費もタイプTのほうが良いはずです(常用回転域で約5%効率が良いです)。 とはいえ、プログレスの性能は、2000円という価格、デザイン・素材面での古さということを考えると立派なもので、 カツカツのレース用でもない限り、2年経った今でも十分実用に耐えます。 さて次に、同じデータを別の切り口から見てみましょう。 ヨコ軸を回転数ではなく、「消費電流」で切ってみました。つまり、時間レースなどで、規定時間を走りきれる最大限の 消費電流を与えた時に、どちらがパワフルで燃費(効率)が良くて発熱しにくく、トルクがフラットで走りやすのか?また モーターを換装するにあたって、ギヤ比をどのように設定すべきか?という命題へのヒントにするためです。 (実線はアトラス・プログレス、点線は タミヤ・スーパーストック・タイプT基準データ(その18の計測データを使用)) このグラフから明確に分かることは、プログレスはタイプTよりも「下」のほうで「パワー(出力)」があり、 ギヤを上げ気味にセットしないと本来の性能が生かされない、ということです。 このくらいの差ですと、経験的にはピニオン1枚程度の違いなります。逆に、プログレスからタイプTに 換装する場合には、ピニオンを1〜2枚落としてやるわけです。ピニオンを下げるのには勇気が要りますが、 同様の現象はタイプRとタイプTの間でも確認されており(RをTに換えたらピニオンを1枚落とさないとダメ)、 このギヤ比のチューニングは、トップエンドでギリギリのパワーを競うためには欠かせないポイントです。 <HPI/オリオン・スーパーストック23T> さて次は、HPIスーパーストックです。同モーターは、高性能マッチドバッテリーで知られる Team Orionとの国際共同企画により生まれました。何だかスゴそうですが、模型に使用される小型モーターは、 香港のジョンソン社を除けば、ほとんど日本メーカーしかありません。道楽で作るならともかく、 商売として「オリジナル」を製造販売するには、 モーターカン、エンドベルの金型の償却コストを考えると、数万個というレベルでの生産・販売ができないとダメだからです。 結果として、現在流通しているモーターのほとんどは、マブチ、サガミ、シンナゴヤ(WAVE)のいずれかが製造を担当しています。 作っているのは同じところなのに、発売元と仕様が違う、というのはいわば「異母兄弟」みたいなものですが、 それでも、数少ないパーツの吟味・組み合わせでこんなにも異なるモーターがいくつも生まれるのですから、モーターとは奥深いものです。 ただし、HPI/Orionの場合は、仕様がまったく同じモノを異なるブランドで売っています。 エンドベルの刻印が、Orionのモーターブランド「TOP」となっていることから、 デザインの主導権はパワーソース専業のOrion側にあることが伺われますが、 発売時期は確かほとんど同時だったはずです。「Orionは扱ってないけど、キットメーカーであるHPIなら扱ってる 」という販売店は日本でも欧米でも結構多いので、これは双方にかなりメリットのある提携になっているはずです。 ところで、こういう販売手法は、RCの分野ではタミヤがタイヤ接着治具やダンパーエアリムーバーといったエクイップ物で 4〜5年前から取り組み始めた以外、これまでほとんどみられませんでしたが、家電など商品寿命の短い分野では 一定の販売数量を確保するために20年以上前から常識化していた取り組みです。 ようやくRCの世界も近代化してきた、ということでしょうか。 ホビーストの立場からは、画一化が進むという意味であまり歓迎したくない流れではありますが、 まずは儲かってもらわないとRC業界の明日がなくなってしまうので、ある程度は仕方ないですよね。 さて、このモーターの特徴のひとつは、バランス取りを追求したレース(研磨)仕上げのローターです。 つまり、珪素鋼板を積層しローターを組んだ後に、ローター外周を切削加工し、 ローター直径をサブミクロン単位の精度で仕上げています。このため、ローター表面には金属光沢があります。この加工が、回転バランスの改善に役立っていることは言うまでもありません。 ただ、一方において、これはコストアップ要因になる手間のかかる加工です。HPI/オリオンのコダわりには 敬服します。 分解不可能な23Tだけに、ルックス的にさほどユーザーにアピールする部分ではないうえ、 最近は加工精度も上がり、不必要と考えられがちだったのでしょうか、あまり見ていなかった処理だけに、新鮮に映ります。 レース仕上げそのものは、既に20年以上前のモディファイドモーターで採用実績があるんですけどね。 もうひとつの特徴は、エンドベル埋め込み式の超小型コンデンサです。 ユーザーのメリットはほとんどないのですが、たぶん、このほうが手作業によるハンダ付けより 生産性が高くなるのと、携帯電話などの普及でこういうタイプのコンデンサのコストが 安くなってきたために、デザイン的な新鮮味と相まってメーカー側の採用意欲をそそったのだろうと思われます。 このほかの主要なスペックとしては、セレート形状のレイダウンブラシ、 リーフスプリング式の新形状ブラシダンパー、軸受けの接触を「面接触」でなく「点接触」に近づけることを狙った、 「テーパー加工」の軸受け、既存のマグネットに比べ、より強力な「G9マグネット」の採用、などです。 まあマグネットに関しては、同世代のモデルならどのモーターでも同じモノを使ってるので、 (実際問題として、TDK製以外ほとんど選ぶ余地がないので、あとは発売時期による新旧の性能差しかない) とりたててどうのこうの言う要素ではありませんが・・・。 それでは、いよいよダイノデータを見てみましょう。 (実線はHPI・スーパーストック23T、点線はタミヤ・タイプT基準データ) 実質的には「回転型」と考えられるタミヤ「タイプT」 (詳しくはその18を参照) と比べているので、性格の違いがプログレス以上に鮮明です。何しろ無負荷の回転数が2200回転とおよそ1割も違います。 最大トルクは17%もの差があります。とても同じ23Tとは思えません。 しかし、下の電流値ベースのグラフで見てみると、起動時こそ両者は大違いですが、 最高回転に近づく、すなわち負荷が小さくなっていくにしたがって同じような水準に収束しています。 ターン数やマグネットが根本的に異なるモーターですと、こうはいきませんから、やはり同じ23Tなんだなあと 何だか安心してしまいました。 (実線はHPI・スーパーストック23T、点線はタミヤ・タイプT基準データ) 要するに、HPIスーパーストックは、かなりのトルク型だ、ということなのですが、 そこで次に気になったのが、実質トルク型のタミヤ「タイプR」との違いです。比べてみましたので見てください。 (実線はHPI・スーパーストック23T、点線はタミヤ・タイプR基準データ(その18参照)) 非常に近似したデータになりましたが、ひとつ違いがありました。 それは、「中間トルクの厚み」です。明らかにHPIのほうがトルクがあります。 しかし、それ以上に回転数の落ち込みが大きいので、出力的にはタイプRよりもごくわずか低くなっています。 実質的には、ほとんどどっこいどっこいと考えてもいいでしょう。 ただ、トルク特性がフラットで中域の回転数が高めのタイプRのほうが、 中域のレスポンスは良いはずです。ともあれ、HPIスーパーストックはタミヤより1年以上前に出てきていたわけですから、 それを考えるとなかなかに良くできた先進的なモーターだったといえます。 実際、私がJSTCの決勝に投入を決めたのもこのモーターでした。ただ惜しむらくは、その時点ではまだ、 データを十分理解できていなかったことです。ひと口に23Tといっても、こんなに個性豊かだなんて思いもしませんでした。 レース当日は、現場で知り合いの速いドライバーからギヤ比を聞いて合わせてましたが、準備不足&経験不足につき、 お互いのモーターの違いまで考慮し切れていませんでした。結果は予選Bメイン2位、決勝同6位(くらいだと思う) に沈んでしまったのですが、もしかしたら、まだまだピニオン上げても良かったのかも・・・と思うと、 せっかくのチャンスをツブし、もったいないことをしたと思います。反省。 <京商・エクスピードストックHS23S> 最後はエクスピードです。 オフホワイトのカンに躍動感あふれる赤のロゴ、さらにベージュ/金メッキのエンドベルと、 デザイン的、カラーリング的には従来のモーターの常識を覆す革新的なアプローチを取っていますが、個人的には 非常にセンスの良さを感じるモーターです。 技術的にもかなり意欲的で、磁気的な進角を得られるローターコアのホールショット加工やセレートブラシの採用に加え、 レイダウンブラシにビッグコミュを組み合わせているところが特徴的です。マグネットの位置決め突起も兼ねた、 モーターカン胴部の冷却穴のプレスも凝ってます。軸受けはテーパー加工済みです。 レイダウン(5×4mmブラシ)+ビッグコミュという組み合わせは、日本のストックモーター独自の進化形です。アメリカROARルールでは コミュ径が規定されているので採用できません。この組み合わせを最初に採用したのはヨコモで、確か96年頃でしたが、 それも1代限りで終わってしまい、その後は、私の知る限りニューモデルはなかったように思います。 レイダウン+ビッグコミュのメリットは、コミュ直径の拡大により、スモール(ノーマル)コミュに レイダウンブラシを組みあわせたときに起きる「コミュ3極同時ショート→燃費悪化・電気ノイズ増加」という現象を 回避できる点にあります。反面、直径の大きいビッグコミュは、角速度がアップしてしまいますので、 コミュとブラシの摩擦抵抗や、これに伴う発熱の面では不利な要素を持っています。要するにコミュが焼けやすいのです。 どっちみちスモールコミュでも、ショートによるスパークでコミュ焼けまくり「どっちもどっち」なんですけどね。 以上のことから、常識的には、ビッグコミュでは回転数は抑えて、トルクで稼ぐモーターに仕上げるのが、 熱ダレ対策や長寿命化という観点から見た場合のモーターチューンのセオリーになるのですが・・・実際はどうなんでしょうか? (実線は京商・エクスピード、点線はタミヤ・タイプT基準データ) (実線は京商・エクスピード、点線はタミヤ・タイプT基準データ) タミヤ・タイプTとの比較で分かるように、かなり回転型に寄った特性になっています。 これは意外でした。常用域の特性はほとんどタイプTと近似、と言えるでしょう。 ただし、低回転・高消費電力域では、エクスピードのほうが好結果を得ています。 ビッグコミュの恩恵なんでしょうか、それともローター設計かブラシか何かの 違いなんでしょうか。良く分かりませんが、トルクが若干、細くなる分以上に回転数でカバーし、 総合的には低回転域での高出力を実現しているわけです。ストップ&ゴーでありながら高速レイアウト、 実車でいえば今のホッケンハイムのようなサーキットにジャストフィットしそうです。 タイプTとの比較では、消費電流が40Aを超えるあたりから、特性差が鮮明になっています。 <ギボシの影響は?> さて、一応データが出揃ったところでお断りしておきますが、 以上のデータは、すべてギボシを介さない「直結状態」でのデータです。 (ダイノのモーターケーブルからブラシのリード線に直接接続・給電) しかし、JSTCでは、アンプとモーターの接続にギボシコネクターの使用を義務付けています。 これは結構、厄介なパラメーターで、ギボシの種類、ケーブルの長さなどによってとんでもない性能差を引き起こします。 このため、上記のダイノデータとは別に、各モーターに標準装備のギボシにダイノの接点を接続し、実稼動の状況を再現したデータを取りました。 アトラス・プログレス (実線はギボシつき、点線はギボシなし) 最高出力で11.8%のダウン、常用回転域(10-30A)で6.1%ダウンになりました。 HPI・スーパーストック23T (実線はギボシつき、点線はギボシなし) 最高出力で4.9%のダウン、常用回転域(10-30A)で0.9%ダウンになりました。 京商・エクスピードHS (実線はギボシつき、点線はギボシなし) 最高出力で5.4%のダウン、常用回転域(10-30A)で1.7%ダウンになりました。 以上を総合すると、ギボシの有無に関わらず、常用回転域での出力・効率ともHPIが抜きん出ているという結論に至りました。 (あくまでも3種比較の結果で、もっと良いものがあるかも知れませんが) 3者のなかで、ギボシ付きのアトラス・プログレスの落ち込みが際立って大きくなっていますが、これは、 モーターに付属のギボシコネクターつきコードが、ハンダ付けではなく、 圧着式のアルミ製端子を介してモーターに接続するようになっているためです。 機械接触のみのアルミ端子が、いかに電気抵抗が大きいか分かります。 加えて、コード長も、他2者のほぼ2倍の長さがあり、これも抵抗増加の一因となっていることを付け加えておきます。 10cmのコードは、ほぼアンプ1個分の抵抗に匹敵するとも言われていますから、無視できません。 さて次に、HPIスーパーストックとエクスピードで最高出力を比べると、ギボシ使用前で5.7W、使用時では6Wに広がりました。 これはエクスピードの出力を100とすると、HPIは5%ほど最高出力が高い計算になります。 5%のパワー差は、ストッククラスにあってはかなり大きな差ではないでしょうか。 もちろん、最終的なパワーソースの性能は、バッテリーやアンプなどと合わせて考えなくてはなりませんが。 このデータを見てしまうと、ギボシも含めて、間違ってもアルミ製の圧着式コネクターなんて使いたくなくなってしまいますね。 抵抗がある、ということは、間違いなくそこで熱が発生しているわけですから、条件が悪いと、 コネクター溶融とか、いろいろトラブルも出てきます。モーターコードもギリギリまで短くしないと、つまらないところで ハンデを負ってしまいますよね。 <おわりに> 既にほとんど型落ち扱いの23Tモーターを今さら取り上げて・・・という気もしないではありませんでしたが、 タミヤ・スーパーストックの研究で得た最新の分析ノウハウをフィードバックできたので、研究としての内容は かなり充実したものになったのではないかと自負しています。 今回の「その17」、タミヤ23Tを取り上げた「その18」に続き、 「その19」ではいよいよ各社の2001年23Tモデルの分析に取り組みます。乞うご期待! (おわり) |