posted on 07/26/2001
last updated on 11/09/2006
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RC Car Trend モーター研究室

<その18:タミヤ・スーパーストックモーターの実力チェック!>


<目次>
タミヤから遂に23Tストック発売!
23Tストックって?
外観調査
タイプTの特徴 (11/9/2006加筆)
タイプRの特徴
性能のバラつきは? (7/7/2002加筆)
タイプTとタイプRを比べると
ダイナラン・ストックとの比較
スポーツチューンとの比較
ダイナラン・スーパーツーリングとの比較

<タミヤから遂に23Tストック発売!>
近年、盛り上がりを見せるツーリングカーレース。そのなかで、カテゴリーとしてすっかり定着した 「23ターン」クラスのレース用モーターとして、ついにタミヤからも専用モーターが発売の運びとなりました。
その名も「タミヤ・スーパーストックモーター」
「タイプR」と「タイプT」の2種類をラインアップしています。 標準小売価格は2500円ですが、量販店での実売価格は1800〜2000円と、23ターン・ストックのなかでは 最安値の部類に属します。これはヘビーユーザーにはウレしいところです。

同モーターは、JMRCA/JRMの公認モーターとなっていますが、それ以上に重要なポイントは、 発売に合わせて、タミヤGPのレギュレーションが改定され、GT1クラスでの使用がOKになった点です。 当面は、従来のダイナラン・ストックの使用も認められていますが、実質的には 新しい「スーパーストック」のワンメイク (2種類あるからツーメイクス?ややこしいな)に移行することになるでしょう。
ダイナランストックとの性能差は?
RとTはどっちがいいのか?
個体差による性能のバラつきは?
他社の23Tとの優劣は?
興味は尽きませんが、あれもこれもいっぺんに盛り込むと大変になるので、 今回はタミヤGPへの参加を前提とした範囲での考察・検証にとどめ、他社製品との比較検討は 「その19」で行うことにします。
<ご注意!>
この考察は、あくまで発売直後時点での同モーターのごく少数の特定サンプルに基づく調査であり、 今後の予告なき改良や生産ロットによる品質の変動、製品の経年変化等については考慮されていません。
また、分析および判断は慎重かつ万全を期していますが、情報の完全性は保証できません。
以上の点、あらかじめ十分ご承知おきください。


<23Tストックって?>
ここで、とりあえずRC入門者を念頭に置いた話として、「23T(ターン)・ストック」についての 超基本的なご紹介をしておきますね。

「23ターン・ストック」とは、文字通り、「ローターコアの3極にそれぞれ巻き線を23回巻きつけたストックモーター」 という意味です。

ローターをよく見ると、みんな押しなべて「シングル巻き」、つまり、1本の線だけを23回、巻いています。 これはJMRCAの規制で「0.8mm線の23ターン以上」とあり、ターン数を増やすと電気抵抗が増えて回転数が上げられないために結果的に最も巻き数が少ない23Tに収束しています。0.8mm線を多重巻きで23Tなんて作れませんから、結局「シングル巻き」が半ば強制されているわけです。

ちなみに、ローターに同じ断面積の銅線を巻く場合、 細い線を使ったトリプル巻き(細めの3本の線を同時に巻く)より ダブル巻き(2本の線を巻く)、 ダブル巻きよりシングル巻き(1本だけ巻く)のほうが コイルとしてのインピーダンス(平たく言えば抵抗ですが、いわゆる直流的な電気抵抗値とは違います)が小さくなるため、その分、ピックアップが鋭く、パワフルで回転数も上がるモーターになります。逆に、「多重巻き」は突然の入力(急なアクセルワークなど)に対してマイルドな反応を示します。

ストックモーターは、通常、もともとのターン数が多く、もったりと回るので、どちらかというとピックアップは良いに越したことはありませんし、回転数も稼ぎたい。だからシングル巻きが多いわけです。 それに、シングル巻きは生産効率の点でも有利です。同じ出力を得ることだけを考えたら、 シングル巻きであろうと多重巻きであろうと、巻き線の断面積を調整すれば、似たような性能は得られるわけですが、 シングル巻きのほうが生産しやすいので、ターン数の多いモーターで敢えて多重巻きを作るケースは稀です。 しかし、モディファイドモーターの場合は、同じような出力でも、トルクのリニア感や吹けあがりの感覚など、 過渡特性をシビアに問われるため、積極的にいろんな多重巻きローターが製作されているのです。

ちなみに、「23Tストックの元祖」である 「タミヤ・540スポーツチューンモーター」(製造は言わずと知れたマブチ)は0.80mm経の線を使用しています。 最新の23TもJMRCAの規定で0.8mm線の使用を義務付けられていますが、同じ23回巻いてあるとはいっても、 明らかにスポーツチューンのほうが「巻きが少なく見える」ので、 厳密には現在の23Tにはもっと太い線が巻かれているかも知れません。
「公差」で認められる範囲の、微妙に太いヤツをね。
もしくは、線を巻きつけるローターコアの根元が太いのかも(そのほうが磁力線が強くなりトルクアップするので)。 ともあれ、いずれもシングル巻きです。

ところで、「ストックモーター」というのは、基本的に「モーターカン(缶)とエンドベル (ブラシなどが備え付けられている側、モーターの「フタ」に相当する部分)がビス留めではなく、 カシメられていて、分解できない構造のモーター」を指します。分解して内部のマグネットやローター、軸受けなどを 交換できないので、「使い捨て」タイプと考えて良いでしょう。本来的には、高性能を追求する種類のモーターではありません。 カリカリの高性能でなければ、本来、寿命は比較的長くなり、部品も安いものを使って安価に供給することができます。

しかし、ここから話がややこしくなります。

ストックモーターは改造が難しいので、レースでイコールコンディションを維持しやすく、 そういう意味ではアマチュアレースに好適な要素を持っています。 そこで、レースでよく利用されているわけですが、 困ったことに、分解整備ができないものですから、 メンテナンスを考えるよりも「使い捨て」のものだと割り切って、 ガンガン買ってガンガン捨てる・・・という考え方になりやすいのです。
考えてみれば当然の話で、結果として、価格が2倍以上する モディファイド・モーター(分解整備可能なタイプ)のほうが、 ランニングコストが安くつく、というような 「ねじれ現象」が生じています。レース用と考えるから生まれた弊害ですね。

また、本来は安いパーツで安価に供給されるはずだったものが、 「レース用」としての高性能を追求するようになって、 部品の高品質化とともにコストがかさむ、という問題をはらみつつあります。

こうしたこともあり、2001年秋から日本でも、「リビルダブル・ストック」すなわち、 「エンドベルが分解可能なストックモーター」なんていう妙チクリンなものが出てきました(第1号はHPI/Orionがリリース)。要するに、 もともとコミュテーターは研磨してるし、ブラシも細工していいんだから分解可能でも問題なし、あとは巻き線やローターコア、マグネット、進角設定に手を入れることができないよう「封印」してあれば、エンドベルが外れたっていいわけでしょ?というロジックです。まさに メーカー的「ご都合主義」の極致のような企画なんですが(もともとはトリニティが1999年初めにアメリカでROAR規定向け27Tリビルダブル・ストック「パラドックス」を発売したのが発端でした)、こうなってくると、もう、ストックとモディファイドの違いは、「ローターの仕様を変更できるかできないか」ということと、「軸受けがプレーンメタルかボールベアリングか」といった違いしかなくなって来ていることも事実です。もはや、そこまでして「ストック」にコダわる理由があるのかなあ?・・・と感じるのは私だけでしょうか?

まあ、今のところは、コストアップを23Tモーターの市場拡大で吸収しているようで、 各メーカーから手ごろな価格で意欲的な新機軸を盛り込んだモーターがいろいろと 出てきているから良いのですが、しょせん、23Tストックというのは日本のローカルルール。 今後、ブームが一巡した後が怖いなあ・・・という気がしないでもありません。

ただ、「スーパーストック」もそうですが、2000年あたりから発売されている最新の 23Tモデルは、ロングライフ化にも十分配慮されるようになってきているようです。
99年くらいまでですと、「下ろしたてが一番良いので、1パックごとに交換」なんて話も あったようです。しかし、最新モデルでは、各社とも「そんなに神経質になる必要はない」というスタンスのようです。

ひとつの理由としては、ブラシが従来より一段と柔らかくなって、常にコミュテーターを「バフがけ」しているような 状態にできるようになったためと思われます。
今の23Tでは、メーカーをして、「ヘタにコミュレーズを使わないほうがいい」と言わしめるまでに コンディションが保てるようになっています。コミュテーターのコンディショニングは、 単純に、3V程度の低電圧で、数分間の空回しをすれば良いと。 その「代償」として、ブラシはセレートタイプで3パック程度、 ノーマルタイプでも10パック程度と一段とライフが短くなりましたが。
そんなわけで、最新の23Tストックでは、ブラシは標準装備のものと同等の最新パーツを使うべきです。 古い、硬いブラシを使うと、コミュのコンディションが維持できなくなる恐れがあります。気をつけましょう。

なお、ブラシのライフが短くなった、ということは、即ち、 ブラシカスがおびただしく出るということです。従来なら10パックくらいは平気だったのが、 5パックくらいで洗浄を要する、と思ったほうが無難でしょう。 少なくとも、ブラシ交換する際には同時にモーター洗浄も行ないたいところです。さもないと、 ブラシ粉による内部ショートがひどくなって、加熱、さらには発火の恐れさえ出てきますので注意したいところです。
(注1)モーター内部では、ブラシが磨耗して粉になれば必ず内部でショートが始まります。 使用時間が短く、粉が溜まってないうちは無視できますが、定期的に洗浄しないと徐々に過熱などの形で表面化します。
ソフトブラシによるコミュのコンディショニング効果は、ダイノテストの結果にも表れています。

例えば、ブラシの面取り(ナラシ)に時間のかかるレイダウンブラシを採用した 「スーパーストック・タイプR」では、 3.6V電源(注2)の無負荷運転でブラシが全アタリ状態になるまで40分もの時間を要しましたが、下のグラフのとおり、 長時間の運転による性能劣化は認められず、むしろ、ブラシのアタリが出るにしたがって性能が向上したくらいです。 (最大トルクは変わりませんが、最高出力で7%前後向上)
(注2)筆者は、6セルのストレートパックをバラし、3セル並列につなぎ換えて使用しています。

(点線は、今回購入した3個のタイプRのうち、3.6V、Ni-cd電源で40分間の無負荷空転ナラシ後に
2番目(真ん中)の性能を示した個体のデータ=タイプRの基準データとして採用

実線は同じモーターを開封直後、ナラシ前の状態で計測した時の参考データ)
ひと口にストックモーターの「ナラシ」といっても、540系のブラシ交換ができないタイプと、 スーパーストックのようなブラシ交換ができるタイプでは、考え方がまるっきり異なります。 ブラシ交換できないタイプのブラシは、基本的に耐久性重視ですが、 ブラシ交換ができるタイプでは、すぐ交換すればいいじゃないか、という考え方なので、 思いっきりソフトなブラシを使い、すぐにアタリが出るようにすることで ブラシ/コミュ回りの損傷を最小限にとどめ、ナラシも不要とする方向にあります。 合わせて、軸受けの方も、加工精度の向上やテーパードメタルなど形状の工夫もあり、ナラシ不要の方向です。 ただし、本当に軸受けのナラシが不要なのかどうかはまだ検証したことがありません。 あまりに微々たる差で意味がないかも、というのが偽らざる直感なのですが、何でも試してみたいのは心情。 今後の課題ですね。とりあえず今回は、軸受けの状態をパラメーターから排除したかったので、 すべてのデータは、開封後、軸受けに一切手を加えていない状態 (他のモーターを接続しての空転ナラシ、脱脂、注油などをしない)で計測しています。
また、前記のとおり、厳密にはモーター性能に影響を与えることがはっきりしている「ブラシの削れ粉」の影響は気にはなったのですが、これまたブラシ&コミュのコンディションを安定させるため、 クリーナーなどによる洗浄も一切行いませんでした。一度洗ってしまうと、コミュテーター表面や軸受けの状態はバラバラになってしまうので、安定したデータ取りが難しくなってしまうのです。

ちなみに、通常のスタンドアップブラシを採用した「タイプT」の場合は、
下のグラフの通り、開封時の無ナラシ状態が最も好成績でした。


(点線は、今回購入した3個のタイプTのうち、3.6V、Ni-cd電源で4分間の無負荷空転ナラシ後に
2番目(真ん中)の性能を示した個体のデータ=タイプTの基準データとして採用

実線は同じモーターを開封直後、ナラシ前の状態で計測した時の参考データ)


しかし、これは単におろしたてのブラシが「点接触」の状態であることに伴う 未ナラシ独特の「瞬間性能」に過ぎません。1分も回せば、アタリが出て失われてしまう程度のアドバンテージですし、 「性能悪化」といっても、絶対的な「落ち込み」は言うほどのものではなく、 ほとんど無視できる程度の変動しかありません。
事実上、「性能劣化はない」と言って構わない程度の変化と解釈して良さそうです。
エコーの「アルティメイトTS」と標準装備のセレートブラシ(スタンドアップタイプ)
スタンドアップブラシのモーターについて、最近は各メーカーでも「ナラシは基本的に不要です」と 言っていますが、これは額面通り受け取って良いと思います(当たり前か)。
特に、エコーの「アルティメイトTS」(右写真、その19で紹介予定)のように セレートブラシを採用している場合は、ヘタにナラシをかけるとセレート加工がなくなってしまいます。 むしろ意識して「ナラシはしない」ほうが良いでしょう。

これに対して、レイダウンブラシの場合は、先にも触れたとおり、 ブラシが全あたりするまでにかなり長時間のナラシ運転を要求されます。 3.6Vの無負荷回転で40分もかかったのです。ちなみに20分だと、無ナラシと大して性能変わりません。 まさかこれほどまで時間がかかると思ってなかった、というのが正直な感想で、 10年前のモーターかと思ったくらいです。
なお、この傾向は特にタミヤに限った話、というわけではなく、 ブラシの素材・形状が異なるヨコモT-MAXでも同様だったことを付け加えておきます。

<外観調査>
いつものように、回す前に外観調査です。
ブラシは、導通抵抗から完全に見直された新世代超ソフトブラシを採用。
スタンドアップブラシは従来販売されている古いバージョンを使うと明らかな性能低下を引き起こしますので要注意。
必ず、従来の大きな「T」刻印ではなく、小さな「丸の中にT」刻印であることを確認しましょう。
スタンドアップブラシは従来と同じ品番で順次在庫がなくなり次第新型に入れ替わっていくもようです
ざっと見ただけでもすぐ気がつくのは、
(1)ブラシはT、Rとも形状加工のないノーマルタイプ(見りゃ分かる)
   セレート(くしの歯)加工はないけど、
   マークも「丸T」印に刷新された、新しい素材の超ソフトブラシ!
(2)ローターに「磁気進角」を付けるための穴(ホールショット加工)がある!
    <参考>
   「磁気進角」を最初に採用したのは、米リーディー社の
    99年ROAR公認27Tストック「Rage」のようです (記事参照
(3)軸受けメタルがROARストックばりのテーパードタイプになっている
(4)コンデンサがプリント基盤の差し込みタイプになっている(日本では初ですが、アメリカでは既にPeakかどこかで前例あり。まあ出元は一緒なんですが)
・・・といったところです。
カンの厚みは、最新のモディファイドモーターでは1.4t(1.4mm厚)が主流ですが、 このスーパーストック系は従来どおりの1.3tです。
カン外側でのマグネット磁力は比較的弱く、モーター同士が強くくっつくことは ないように感じました(それだけ磁束漏れが少ない、ってこと)

エンドベルの外観上の特徴になっている「基板コンデンサ」ですが、 生産性を考慮してこうなったんだと思われます。
プリント基板で大量に一括生産→切り分け→ハメコミ組み立て、のほうが、 いちいちコンデンサをモーターカンにハンダ付けするより生産性が高いのかも。
コンデンサの組み立て効率でそんなに生産性変わるのかー?と言われれば、真相は不明ですが、 もともと薄利多売の商品、1000個作れる時間で1100個作れたら大違いです。

あと、エンドベルの色分けはナイスですね〜。これで極性を間違える人はいないでしょう。
ローターコアに開けられた「穴」に注目!(左側スリットのいちばん下)これが磁力線を曲げ、進角効果を生み出すのです また、ブラシホルダーには、サガミ系モーターで昨年から出てきたピンばね式のブラシダンパーが採用されているほか、 タミヤでは確か初めてになると思いますが、ブラシスプリングホルダーが六角ネジ止め式になり、 分解可能となりました。そう、コミュテーターをレーズ(研磨機)で研磨できるようになったのです! 嬉しいような、一段とタミヤGPが面倒くさくなったような・・・。まさかタミヤからコミュレーズが出てくるなんてこと、ありませんよね・・・(^_^;

なお、進角を調べてみると、タイプT、タイプRともに同じ「20度」でした。 <その19>で取り上げる予定のヨコモ・T−Maxはレイダウンタイプとスタンドアップタイプで進角を約3度程度 ズラしています。それに比べると、配慮が足りないのか、それとも、生産性を考慮してのことなのか・・・。 真相は分かりませんが、事実は事実として受け止めておきましょう。性能がよければいいのです。T−Maxと比べてどうかは、 タミヤGPではそもそも関係ありませんし。

実は、日本の23Tストックが規範としているJMRCAのルールブックでは、「進角は20度以下」となっています。 この「以下」というのがミソで、アメリカのように数値固定ではないため、 各社が効率とパワーのバランスを競ってさまざまなアプローチを取る余地があるわけです。
ちなみに、アメリカで発売されているモーターの圧倒的多数が 準拠している「ROAR規定」の27Tストックの進角は「24度」と厳格に規定されています (ちなみに、NORCCA規定は30度・・・やみくもに度を越してる、というのが人気薄の背景かも)。 ですから、その網をくぐり抜けるためのさまざまな手法(レイダウンブラシなど)が 定着しているのですが、日本ではもともと「スポーツチューン」という全国に普及していた23Tモーターがあり、 このモーターの進角は12度ですから、 これじゃあチョットね・・・(本当は最も効率は良いのですが)。ということで、幅広い進角が認められ、 だからレイダウンに固執する必要もなく、アメリカのストックモーターとは違う方向性で、 効率と性能をもっと高次元でバランスさせたモーターの開発が進んだ、ということなのでしょう。
コンポーネンツは同じなのに、 組み合わせやチューニングの違いでまるっきり別物になってる、という意味では、 ちょうど、国際F3000とフォーミュラ・ニッポンの違いみたいな感じでしょうか。

<タイプTの特徴>
さて、次に個別に見ていきましょう。まずタイプTです。

タイプTは、タミヤのカタログスペックでは、 「7.2V運転時の最高効率時の回転数22,500rpm、最高効率時の最大トルク230g・cm(=22.6Nmm) (注3) の「トルク型モーター」(注4)とされています。 「トルク型だからT」ということなのでしょう。ホントにトルク型なのかどうかはともかくとして・・・。
(注3)
供給電力などの条件が厳密には一致しないので、同じ「7.2V運転」とはいっても、 RCTのダイノテストとメーカーテストでは計測データに一定の開きが発生します。また、 計測データはブラシとコミュテータのコンディションでかなり変動します。 RCTでは開封時点からのナラシ時間を厳密に規定してデータを計測していますが、 カタログデータはどの程度ブラシとコミュのアタリが取れた条件で計測しているのか分からないので (恐らくブラシ全面アタリを前提にしているはずなんですが)、 スペックデータがどの程度信頼できるかは、機種にもよりますが多分に未知数な部分があります。 だからこそ、このようなテストをやっているわけですが・・・。

(注4)
「トルク型」というのは、あくまでも相対的なものであって、 少なくとも同じマグネットを使っていることが大前提です。同じ部品を使っていても、エアギャップ (マグネットとローターのすき間距離)や進角タイミング、コミュテーターの大きさ、ブラシの使い方、などによって 味付けが施された結果として、「最高出力、最高効率が比較的低い回転域で得られる」のものを「トルク型」といい、 高回転域で得られるものを「回転型」と呼ぶ、そのように捉えるべきでしょう。 メーカー間の比較でも、基本的に同じ時期に販売されている、使用素材の世代が同一のもので比較すべきでしょう。 世代の異なるモーターを比較しても、もともと比較の土俵が違い過ぎて、 単に「どちらがパワフルか?」という比較にしかならないことが多いです。 基本的に、「パワフルなモーター」というのは、回転数もトルクも勝りがちですからね。
タイプT固有の最大の特徴は、ブラシにスタンドアップタイプを使用していることです。
「スタンドアップ(stand-up=起立)」というと何か特別な感じがしますが、もともと「540互換サイズの ブラシ交換式モーター」としてサガミモーター等のモーター専業メーカーが製造を始めた時から存在する、 「標準タイプ」のことを指しています。後述する「レイダウンタイプ」と区別するためにこう呼ぶことがある、ということです。

ところで、右上の写真を見ると、タミヤ用の新しいブラシであることを示す「丸のなかに小さいTの文字」 というマークが刻印されているのが見えますが、 分かりますか?

このブラシ、「スーパーストック」系が出た当初は、「op.307 レーシングモーターブラシセットと同等品」 という扱いで、入手するにはカスタマーサービスから直接取り寄せるしかなく、明確に区別するような注文を出さないと 従来のop.307が送られてきてしまうような按配で(だって取り説ではop.307が指定ですから)、ユーザー側では かなり混乱したのではないかと思います。回せばすぐに分かるくらいハッキリとした別物だったので、 op.307の在庫が吐けたらいずれ出てくるだろう、とは思っていたのですが、果たせるかな、 2002年12月にop.581「レーシングモーターブラシ (スタンダードタイプ)」としてようやく出てきました。 実に2シーズンも待たされた格好で、その後1年近く品薄状態が続きましたよね。

今回、調査の一環としてこの新型ブラシについても調べてみたところ、下のグラフに示すような違いが出てきました。


(点線は、3.6V、Ni-cd電源で4分間の無負荷空転ナラシ後のタイプT・No.1(下の表参照)、
実線は同じモーターに従来のop.307ブラシを装着、4分間ナラシ後に計測した参考データ)


(点線は、3.6V、Ni-cd電源で4分間の無負荷空転ナラシ後のタイプT・No.1(下の表参照)、
実線は同じモーターに従来のop.307ブラシを装着、4分間ナラシ後に計測した参考データ)


この結果の意味するところは、「ブラシは丸T印(op.581)を使うべし」ということに他なりません。 安易にブラシを旧バージョン(大きなTマークのもの、op.307)に換えると、同じモーターとは思えないほど、性能が大幅に悪化する、 ということです。この測定データからは、op.581ブラシはop.307を基準として14%もの出力アップを果たしています。

なお、このテーマに関連するコメントは、 こちらにも掲載しています。 また、「その25」「その28」「その45」でも改めて検証していますので合わせてご参照ください。

<タイプRの特徴>

さて次に、タイプRをみてみましょう。
タイプRのカタログスペックは、 「7.2V運転時の最高効率時の回転数22,000rpm、最高効率時の最大トルク225g・cm(=22.1Nmm) (注3) となっており、性格としては「回転型モーター」とされています。 「回転(revolution)型だからR」ということなのでしょう。

外観上の最大の特徴は、レイダウンブラシの採用にあります。 右側の写真を見てください。タイプTのブラシホルダーと見比べると、 ブラシのタテヨコが入れ替わっていることが分かります。 これが、レイダウン(lay-down=寝かせた、という意味)ということです。 ここの写真に映っているブラシにも「丸T」マークが打刻されているのが分かります。 これは、全く同じブラシがスペアパーツとして同時発売済み (op.483 レーシングモーターブラシ(レイダウンタイプ)、300円)ですので、安心して交換できます。
(タテヨコのサイズは同じ5×4mmですが、コミュと接触する曲面の取り方が 90度違うのでレイダウンブラシとスタンドアップブラシは互換性はありません。念のため)

さて、わざわざレイダウンブラシなんてモノを採用したのには、もちろん理由があります。
ブラシを単純に90度倒しただけじゃないか、ということなんですが、 レイダウンにすると、 回転方向に対してコミュテーターと接触する距離が伸びるわけですから、 通電時間を長く取ることができます。 つまり、ローターがどんどん回転していっても 通電状態を長くキープできる一方、次に回ってくる電極にもブラシが早くリーチするので、 エンドベルで物理的に設定された進角以上に早いタイミングで 次のコアに電流を流せることになります。タミヤ・スーパーストックシリーズのように、 スタンドアップ(タイプT)と同じエンドベルの進角が与えられている場合は、スタンドアップよりも 実質的な進角が強くなる(おおよそ3度くらい)わけです。

つまり、通電時間の延長=消費電流の増加によるトルクアップ、ならびに進角の増強による 回転数のアップという2つの効果が期待できるのがレイダウンブラシなのです。

M-03シャシーでモーターマウントが溶けちゃった例 しかしながら、レイダウンにはデメリットもあります。
まず、もともと通電タイミングを最適に設計した結果として存在していた標準のスタンドアップブラシを 無理やりヨコに寝かしたわけですから、電気を動力に変換する装置としてのモーターの「効率」は悪化します。
コミュテーターサイズが540互換タイプの標準的なサイズである直径7.5mm前後である限り、 スタンドアップブラシならば発生しない「3極同時通電」が必ず発生するからです。 これは寸法上、避けられない問題で、解決策としてはコミュ径のサイズアップという手法がありますが、そうすると今度はコミュの外径が大きくなり、ブラシとの接触速度が上がるので磨耗が早くなったり、加熱の原因になります。まさに、痛し痒しです。

また、出力はより高く、効率はより悪い、ということは、それだけ発熱することを意味します。トルクが大きいことをいいことに ギヤ比を上げたり、より出力を上げようとブラシテンションを強めた場合は、この傾向にさらに拍車がかかります。 場合によっては熱対策を講じないと、とんでもないことになります。特にタミヤ車の場合はモーターマウントにプラスチックを 使っている場合が多いので、いい気になってギヤ比を上げすぎると、マウントが溶けて駆動系がメチャクチャ→ バルクヘッド丸ごと交換、ということにもになりかねません。
また、3極同時通電」している、ということは、即ち電極がショートしていることに他なりません。
このことも燃費悪化に影響しますし、何よりもすさまじい電気ノイズを発生します。 レイダウンブラシのモーターを使用する場合は、入念にノイズ対策をしないと、ノーコンの嵐に見舞われる場合があります。 特にカーボンシャシーのクルマの場合は要注意です。

もともと、レイダウンの起源はアメリカのROAR規定27Tストック。 「ブラシのサイズ5×4mm、エンドベル進角24度固定」という規定のなかで、 いかにパワーを搾り出すか?という工夫の結果として出てきたものであり、効率はハナから無視されていました。 ROAR規定の27Tストックレースでは、1700mAhバッテリーでもバッテリーがタレることはなかったので、 モーターはひたすら「パワー至上」だったのです。

ちなみに、アメリカのストックモーターが27Tなのは、モディファイドモーターの起源となったマブチRS-540Sが27ターンだった(今もですが・・・)からに他なりません。実に30年近くの歴史を背負っているわけです。スゲェですな。これに対し、上述のとおり、日本の23Tストックは、つい最近(96年頃から)始まったものなので、80年代終盤に発売された「スポチュン」を範としています。まあ、「国際F3000じゃ性能的につまんないから日本は独自規定のFニッポンだー!」というのと似たような論理で、今さら27Tストックを日本でやってもパワーがイマイチで商品性低い(=楽しくない)よネ、ということが、「23T」を選んだメーカー団体の論理のようです。スピード出るようにしておけばマシンの破損や消耗も激しいからパーツで儲かる・・・なんてことまでメーカーが意図してた?・・・というのはちょっと考えすぎでしょうかね(笑)。

こんな条件のもとで生み出されたアイデアを、進角の規定もターン数も異なる日本の23Tストックの規定のなかに当てはめても、 必ずしも最適とはならない可能性があることは容易に想像がつきます。事実、日本の23Tストックでは、 レイダウンの採用は一時期よりも減りました。今ではスタンドアップタイプと併売するケースが目立ちます。 タミヤだけでなく、ヨコモ、アトラス、エコー、カワダ、ミラージュ・・・みんなそうです。HPIもかな? (HPI/オリオンはスタンドアップタイプのみしか見てませんが)

特に、2001年からスポーツクラスの走行時間が5分から8分に延長されたため、JMRCA規定によるレースで レイダウンのモーターを使用することはしばらくなくなりそうです。Ni-MHバッテリーが2003年あたりから 4000mAhくらいにスペックアップしてくれば、また復活するかも知れませんが、その頃にはマグネットも一段と進化して、スタンドアップブラシのままでも8分で4000mAhを食い尽くしてしまうかも(^_^;。

日本の23Tストックモーターとしては、レイダウンは必ずしもベストとは言えず、 レース規定もいろいろ見直されている過渡期にあるため、各社ともレイダウンとスタンドアップを併売している、ということのようです。日本でも俄然注目を集めだしたばかりなのに、あっという間に消え去りそうな勢いのレイダウンストックは、JMRCAスポーツクラス規定に翻弄されたアダ花となるのか・・・?
もっとも、タミヤの「タイプR」は、「タミヤGP」における超スプリント2分間予選などの存在もあって、当分の間現役で活躍できそうな、レイダウン23Tストックとしては稀な存在となりそうです。

<性能のバラつきは?>
さて、ストックモーターでいつも気にかかるのが、個体差のバラ付き加減です。
今回は、都合により、統計的に意味のあるサンプル数を揃えることは無理でしたが、 とりあえず「中間的なデータ」を探るため、3個ずつ計6個を購入し、テストしました。 テスト条件はいつもRCTで採用している標準的な条件です。
(12V・19Aシールドバッテリーを親電源に使用し、ダイノ側からの出力は7.2Vに設定、気温25度前後<今回は26度>、湿度約50%)

今回は同じショップでまとめ買いしたため、基本的に特定のロットの、 ほぼ連続して生産された個体を比べたこともあり、安定したデータを取りやすい「ナラシ後」の数字で見ると、 特にタイプTのバラつきの少なさが目につきます。(最大トルク、最高出力に着目)。タイプRはややバラけていますが、 これは40分もナラシ運転させた後の数字なので、その割にはまとまっているのかも(自画自賛?)。 マグネット温度による性能への影響には十分配慮し、室温に戻るのを待って計測していたのですが、若干、 マグネット温度のバラつきが残り、データに影響した可能性がないとはいえません。 もちろん、その他にもブラシコンディションなどの要素もありますので、要因の特定は難しいですが。

RCTで「常用回転域」と仮定している「消費電流10-30A周辺の平均出力」に目を向けると、 割合、バラけますが、これがどんな理由によるものなのかは残念ながらまだ検証できていません(今後の宿題)。 同じモーターでブラシを交換した場合に、どの程度計測データが変動するのか、というテーマについては、 機会を改めて調べてみたいと思います。

<結果>(モーター名をクリックするとグラフと個別の計測データが見られます)

<ナラシ後のデータ>      
10-30A域の平均出力 10-30A域の平均効率 最大トルク 最高出力 最高効率
タイプT-No.01 83.9W 68.7% 184.0Nmm 120.8W@12,292rpm 71.9%@18,668rpm@19.0A
タイプT-No.02 86.2W 70.6% 183.0Nmm 123.6W@12,330rpm 74.1%@19,018rpm@18.8A
タイプT-No.03 89.2W 73.4% 184.9Nmm 127.8W@12,713rpm 77.1%@20,129rpm@17.2A
タイプR-No.01 84.3W 67.9% 202.6Nmm 127.6W@11,952rpm 73.1%@18,131rpm@21.0A
タイプR-No.02 88.9W 73.0% 206.9Nmm 130.2W@12,123rpm 76.4%@18,864rpm@17.4A
タイプR-No.03 89.1W 72.8% 206.3Nmm 123.0W@11,287rpm 76.0%@18,238rpm@17.6A
10-30A域の平均出力 10-30A域の平均効率 最大トルク 最高出力 最高効率
タイプT平均 86.4W 70.9% 184.0Nmm 124.1W@12,445rpm 74.4%@19,272rpm@18.3A
タイプR平均 87.4W 71.2% 205.3Nmm 126.9W@11,787rpm 75.2%@18,411rpm@18.7A


<(参考)開封直後のナラシ前データ>
  
10-30A域の平均出力 10-30A域の平均効率 最大トルク 最高出力 最高効率
タイプT-No.01 84.9W 70.1% 182.1Nmm 128.6W@12,937rpm 74.4%@18,546rpm@21.0A
タイプT-No.02 85.6W 70.1% 187.7Nmm 131.1W@12,641rpm 74.8%@19,082rpm@20.6A
タイプT-No.03 88.7W 72.3% 186.6Nmm 130.1W@12,534rpm 76.1%@19,616rpm@18.8A
タイプR-No.01 87.4W 72.5% 200.9Nmm 119.7W@11,226rpm 75.5%@18,652rpm@16.0A
タイプR-No.02 88.3W 72.3% 202.2Nmm 116.8W@11,501rpm 75.9%@17,921rpm@15.4A
タイプR-No.03 85.6W 70.7% 201.7Nmm 116.8W@11,186rpm 74.1%@17,316rpm@17.0A
(注5)1Nmm=10.19676g・cm(「g・cm」表記は廃止方向にあり、既に同表記のみの測定機の販売は禁止されているそうですが、 タミヤモーターの表記基準として昔からなじみ深い単位ではあります)
(注6)最大トルクは計測データから回帰分析された推定値、平均出力、最高出力および最高効率は実測値
(注7)計測の結果、最高出力に着目して(これには議論の余地がありますが、便宜的に) 「タイプT」からはNo.02を、 「タイプR」からはNo.01を「基準データ」として採用



<タイプTとタイプRを比べると>

さて、皆さんの興味は、「結局のところ、タイプTとRは、どっちがいいの?」ということに尽きると思いますので そろそろ結論をまとめてみましょう。実は、既に前項の表を見れば結論は出てしまっているのですが、
(1)総合的に見て最高性能を計測したのは、「無ナラシのタイプT」である
(2)ただし無ナラシ状態は不安定な瞬間性能なので、一般的には「ナラシ後のタイプR」がベストと考える
(3)タイプRはブラシのナラシに膨大な時間がかかる。タイプTはナラシ不要、むしろやらないのがベスト
(4)タイプRはタイプTよりもトルクが明らかに太い
(5)メーカー側で「高回転型」とされているタイプRよりも、「トルク型」と説明されているタイプTのほうが、むしろ 実測値としては上まで回り、最高効率時の回転数も高い「真の回転型」であることが判明した
(6)一般にレイダウンブラシは効率が悪いとされるなかで、タイプRはタイプTとほぼ同等の効率を確保している
(7)タイプRはEMF値がタイプTより大きい。・・・ということは「トルクが厚い」ということを示している。 反面、スロットルオフ時の転がりが悪く、ハーフスロットルでのコントロール技術が必要になることが予想される
(8)タイプRはタイプTよりもトルクがある反面、回転が伸びないのでギヤ比的にはピニオンを1枚程度上げてやる必要がある。 逆に言えば、出力的に同等であるという前提において、タイプTはタイプRより1枚ピニオンを落としてやらないと 本来の性能が発揮されないことが予想される
(実際、RCT協力者による掛川サーキットでの走行テストでは、TA-04を使用し、04モジュールでタイプRのベストよりピニオン1枚落とした状態で、 無ナラシのタイプTを使った時に総合的なベストタイムが出ました)
ざっとこんな感じでしょうか。

同じく「タイプR」に付属のレイダウンブラシ(標準ブラシを90度「倒した」形状)。これは8分間のナラシ後の状態。
(4分でナラシを終わらせたタイプTの2倍の時間という位置付け)まだほとんど中央部しかアタリが出ておらず、
レイダウンの本来の特徴である「回転方向に長くコミュと接触できる」という点が生かされていない状態。
回転摩擦に伴う「偏心」で、ブラシの摩滅ポイントが微妙に中心線からズレて、若干の進角がついている点にも注目
(この状態のブラシではもともと絶対性能が低く、進角の効果は認められませんでしたが)。
このあと、全アタリが出るのに結局トータル40分以上かかることが判明(3.6V無負荷空転ナラシの場合。
冷却しないとメチャクチャ熱くなるので注意!) タミヤ「スーパーストック・タイプT」に付属のスタンドアップ(標準)タイプのブラシ。完全にアタリが出ると、
面積の1/3くらい(写真では上側)に瞬間的なショートに伴うスパーク荒れができますが、どんどん削れていくので、
特に問題はありません 「タイプTでは無ナラシが良いのに、どうしてタイプRはナラシたほうが良いの?」という疑問がありますが、 これは、ひとつにはブラシの磨耗初期に特有の、コミュテーターとの回転摩擦による「偏磨耗」の影響があると思われます。

どういうことかというと、ブラシホルダーには必ずある程度のすき間があり、ガタが発生しますから、 モーターが回転すると、摩擦によってブラシがほんのわずか傾き、回転方向とは逆のサイドが先に削れていきます。 つまり、ブラシはほんのわずかですが「斜めに削れていく」のです。
そうすると、結果的に、ブラシが「全アタリ」、即ち「ナラシが完了」した状態になるまで、 ブラシは本来の設定よりも若干(最大、3度くらいでしょうか)進角がついた状態になっているのです。

ところが、上の写真右側の「タイプR」のナラシ途中の写真を見ていただくと分かりやすのですが、
回転方向の幅が少ないスタンドアップブラシならともかく、回転方向に長いタイプR= レイダウンブラシの場合、もともとブラシが全アタリになってはじめて本来の(電気的な)進角が得られるわけで、 写真のように、中途半端なアタリの状態では、むしろ設計上の進角に対して、「逆進角」になってしまっている わけです。電気はブラシ接点の端から真っ先に流れ出すわけで、写真の状態では、 本来、設計上期待されている極性スイッチング(コミュの極性切り替え)のタイミングからはるか遅れたところで、 ようやく電気を流しているわけですからね。写真の状態では、スタンドアップブラシを使っているのと同じ状態ですから、 もともとタイプRのブラシスプリングのテンションがタイプTより弱い(下記参照)ことを考慮すると、 ブラシのアタリが出てないタイプRは、タイプTより低い性能しか出なくて当然なわけです。 タイプRは、ブラシが全アタリでない限り、本来の性能が発揮されないのです。

ヨコから見るとまるっきり違う!右側の、厚みのないタイプR用のほうがテンションが低く設定されており、
転がり感の改善に寄与しています(巻きが少ない方が、線径が同じならテンション高くなるはずなんですが、
巻き数とテンションの相関が逆になってるので微妙に線径も違うようです)。
逆にいえば、テンションの高いタイプTのスプリングをタイプRに使って、パワーをもうひと稼ぎする裏技もできるかも。
ただし燃費・発熱ともに不利に働くうえ、スロットル操作が一段と難しくなるので超EXP限定の技です 一見すると、同じように見えるスプリングですが・・・ ところで、既に述べてしまいましたが、実は、タイプTとタイプRは、ブラシスプリングのテンションが違います。 バネの角度は同じですが、明らかに巻き数が異なる2種類のバネを 使い分けています。タイプTがハード、Rはソフトめのブラシテンションになっていて、この部分が転がり(失速)感の チューニングのひとつのキモになっていますが、そのバランスはかなり絶妙で、ブラシの異なる2種類のモーターから うまく同等に近い性能を引き出すことに成功しています。
ですから、むやみに変更すると、かえって失速が強まったり、パワーダウンしたりという問題が発生する場合が多いです。 注意しましょう。

タイプTとタイプRの違いが実際にどのくらいなのかは、ここにそれぞれの基準データで描いたグラフを掲げましたので 各自で検討してみてください。上のグラフは回転数、中段はトルク、下のグラフは消費電流をヨコ軸にしています。
同じギヤ比での吹けあがりの違いはトルクをヨコ軸に、燃費や最大トルクの比較検討をする場合は電流値をヨコ軸にして見るといいでしょう。


(実線はタイプR・基準データ、点線はタイプT・基準データ)



(実線はタイプR・基準データ、点線はタイプT・基準データ)



(実線はタイプR・基準データ、点線はタイプT・基準データ)


<ダイナラン・ストックとの比較>
参考までに、従来、GT−1クラスで使用されてきたダイナラン・ストックとタイプTを比べてみました。


(実線はタイプT・基準データ、
点線はダイナラン・ストック(その10の計測データを使用))


実回転数ベースで表示すると、タイプTは上まで良く伸びますが、起動トルクの面では意外にも ダイナラン・ストックのほうがかなり強いことが分かります。ただ、実用域および絶対的な最高効率は タイプTのほうが良いため、その分、出力的にはタイプTのほうが良くなっています。

トルクといえば、ダイナラン・ストックのEMF値が280と異様に高いのですが、 (下記のダイナラン・スーパーツーリングよりも飛び抜けて強い数字)
マグネット的には世代が古いはずですから、これって、もしかするとエアギャップが極端に 狭いのかも知れません。ノギスで測れば一発なんですが、あいにく、まだ分解したことがなくて・・・。

ちなみに、計測に使用したダイナラン・ストックは、 99年に進角を18度→14度(実測値なので設計上の設定と誤差がある可能性はあります) に減らすマイナーチェンジを施された後の「現行モデル」です。 性能的には、マイナーチェンジ前とほぼ同等(わずかに改善?)、また外観的にも ブラシの刻印が「タミヤ」のTマークに変わったけれども内容的に同等、ということで、 一般にはほとんど話題にもなりませんでしたが、進角は間違いなく減ったので、 何が変わったのかな〜、と不思議に思っていたのです。

あくまで推測ですが、もしかすると、「ローターをいじると大変なので、 マグネット回りの形状変更でエアギャップを縮めた」とかいうことなのかも。 これは本来、<その10>で取り上げるべき事なんですが、 今回の「新発見」なので、こちらに書いておきますね。

なお、「同じ消費電流をかけた場合の性能差」が見やすい「消費電流ベース」で表示したグラフは 下のとおりとなります。同じ消費電流で見た場合、トルクは全般的にダイナランストックのほうが大きいのですが、 効率、回転数の点で圧倒的にタイプTに分があるため、総合的な「出力(Power)」ではタイプTがダイナランストックを 上回っていることがよく分かります。

ただ、12〜3A以下の消費電流域では、ダイナランストックのほうが 効率、出力とも有利になってきますから、全開での直線走行が長いコース(オーバルなど)では ダイナランストックのほうが有利になる、という珍しいパターンもないとは言えません。 まあ、絶対的なパワー差があり過ぎて話にならないとは思いますけどね。


(実線はタイプT・基準データ、
点線はダイナラン・ストック(その10の計測データを使用))


<スポーツチューンとの比較>
次に、GT−2クラスや近年の世界戦本戦で使用されるスポーツチューンとタイプTではどうでしょう?


(実線はスポーツチューン、点線はタイプT・基準データ)



(実線はスポーツチューン、点線はタイプT・基準データ)

これが23ターン・ストックのこの10年間の進化の結果です。
これでJRMという同じレースを走れ、というのがどうにかしているのですが(笑)、
それはともかく、
ただただ、その圧倒的なパワー差には驚かされます。
これはやはり、マグネットとブラシの進歩によるところが大きいでしょう。ほかにも、カン厚増加による磁束漏れ現象や 軸受け、ローターの改良など、細かい改善が積み重ねられて今の23ターン・ストックがあるわけです。


<ダイナラン・スーパーツーリングとの比較>
最後にもうひとつ、タイプTとダイナラン・スーパーツーリングの比較です。


(実線はダイナラン・スーパーツーリング・進角15度(その16の計測データを使用)、 点線はタイプT・基準データ)


ボールベアリング装備のダイナラン・スーパーツーリングとの比較では、無負荷の回転数を比べるのはナンセンスですが、 スーパーツーリング(ショートスタック15T)は標準ローターの13Tモーター程度の出力、とされていますから、 さすがに最新の23Tと比べても、出力レベルは全然比較になりません。
最高出力はタイプTの3割増しとなっています。

面白いのは、EMF値と最大トルクの「ねじれ現象」です。
EMF値(マグネットの磁力の指標と思ってください)でみる限り、ダイナラン・スーパーツーリングは、 世代的に古い組成のマグネットということもあるのでしょう、 タイプTより1割以上低いEMF値となっています。しかし、ターン数の少ないローターで大電流を流し、 ローターの磁場を強めることによって、最大トルクは結果的にスーパーストック(T、Rとも)より1割以上高くなっている ことが分かります。起動時の最大消費電流は、スーパーストックの81Aに対して、 ダイナラン・スーパーツーリングでは110Aに達しています。ちょうど約2割、消費電流がアップしているわけです。

ところで、スーパーツーリングとスーパーストックでは、あまりに回転数が違いすぎるので、 通常用いている「回転数(実数)」ベースの比較では、トルク特性や効率分布の違いを相対的に比べるのが困難です。 そこで、回転数を%表示で示した「相対比較」のグラフで同じデータを表示し直してみました。


(実線はダイナラン・スーパーツーリング・進角15度(その16参照)、 点線はタイプT・基準データ)

こうして見てみると、低域はやや差がありますが(Sツーリングの方が効率がいい)、効率の良い範囲は、 非常に似通っていることが分かります。最高効率はなんとどちらも全く同じ74.1%です (個体の実測値なので偶然に過ぎませんが)。出力特性は非常に似通っていて、 ダイナラン・スーパーツーリングは「ややパワフルなタイプT」と言ってもいいくらいです (もちろん、もともとは全然関係ありませんが)。
だから何なんだ?」と言われればそれまでなんですが、まあ、一応、ご参考ということで!

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