<その27:Power Maxシルバーブラシの効果はいかに?>
<遂に究極のブラシ登場か?> ドイツCS Electronics社 からリリースされ、(株)ヒット 経由でこの4月上旬から発売開始された 「Power Maxシルバーブラシ」がオープンレースに参加するEXPレーサーの注目を集めています。 このブラシ、何がすごいかって、その「色」を見れば一目瞭然でしょう。 見るからに「銀色」。そう、従来の常識では考えられないほど大量の「銀」を含んだ ブラシなのです。お値段(定価)もビックリ、1組1500円! 銀(Ag)といえば、地球上で最も電気抵抗の低い元素。当然ながら、その含有量が多いブラシ、ということは 導通抵抗が低く、効率の良いモーターへつながる「はず」です。 ここまでは誰でも考えること。 しかし、見た目のイメージと実態が一致しないのもまたRCではありがちな話。 そこで「RCTモーター研」の出番です! ダイノの実測データでこのブラシの効果のほどを徹底的に検証します!! <外観調査> まずは「お約束」の外観調査です。 まず、「銀色」なんですが、実物を見ると、鈍い灰色で、 「セメントか?」(笑)という感じですが、 誰が見ても、明らかに従来のものと「何かが違う」ことは分かります。 ダブルリード線、ハンダ付けによるモーターへの装着(まともな高性能を狙うモディファイドモーターなら 当たり前の処理ですが)を前提としたリード線端子の廃止、ナラシを不要にするコミュ接触面の セレート(くしの歯)加工など、見るからに「高性能」を予感させる作りです。 それと、写真ではちょっと分かりにくいですが、このリード線にもコダわりがあります。 従来の一般的な銀メッキ線とはいささか異なる、新しい「ピンク色」のリード線なのです。 銀メッキ線と銅線を織り交ぜてサーモンピンクっぽい仕上がりにしているようです。 こう書くと、「100%銀メッキじゃなくて大丈夫なの?」という声が聞こえてきそうですが、 性能的には、むしろ従来品以上のものがあるようです(でないと採用する意味ないでしょ?)。 奇遇にも、後でご紹介するTeam Orionの新しいブラシ「スプリントイクイエーター」にも 同じリード線が採用されていました。どちらもヨーロッパ、しかもCSはドイツ、Orionはスイスと 互いに近隣国の会社なので、「あの辺り」での流行り、ということなのでしょうか? でも、作ってるところは*本のハスなんですが・・・。いずれ他のメーカーにも波及するのでしょうか? ブラシのリード線なんて、めったに変わるものではないので、この線が今後の主流になるのかどうか、 楽しみです。 ところで、このブラシ、 輸入元の(株)ヒットさんの説明によると、 「ハイパワーとロングライフを同時に実現するブラシ」 とされています。ライフ表示も「30〜60パック」と、先述のOrion「スプリント・イクイエーター」 が「2〜6パック」としているのに比べて大変ロングライフな表示となっています。 ・・・てことは、もしかしてこのブラシ、 意外にハードなブラシなのかも?というのが、テスト前から予想されました。 従来から、銀混入率が高いブラシは、一般に硬いブラシになりがちです。 銀そのものは、金属の中でも柔らかい部類に属しますが、ブラシを作るための素材で一番柔らかいのは カーボン(黒鉛)です。銀の混入率が上がる、というのはカーボンが減る、ということにつながりやすく、 だから硬くなる、ということでした。 硬いブラシは、一般には減りが遅く、ライフは伸びますし、コミュテーターとの摩擦も少なめで 「転がるモーター」になりやすい、という傾向があります。反面、タイヤと同様、硬いブラシは コミュ表面の凸凹に対応するのが難しく、電気の導通の面では不利です。 銀混入による電気抵抗の改善とブラシの硬さによる導通効率の悪化をどうバランスさせているのか? という点が、実はこのブラシ最大の見所だったりします。 <試験方法とサンプル紹介> 今回、テスト用に使うモーターは、 タミヤ「スーパーモディファイド11T」です。 タミヤモーター史上、5×4mmブラシモーターとしては史上最強スペックを誇るモディファイドモデルを Power Maxシルバーブラシがどこまで回しきれるか、見モノです。 このモーターを選んだ理由は、大電流を流し、回転数も高い極限状態のほうがブラシの性能差が 鮮明になると思ったからです。そういう意味では、無負荷なら5万回転まで回ってしまうという Ni-MHバッテリー対応の8ターンモーターとかのほうがもっと極端ですが、 あくまでタミヤGPを中心と考えてデータ取りを行っているRCTとしては、 現状では無意味なので、あえてそこまではやりません。 タミヤが8ターンを出したら考えますが・・・。 さて、Power Maxシルバーブラシの比較対象として、 独断と偏見で以下のブラシを選定し、合わせて測定しました。 (1)イーグル模型「9%銀入りブラシ」(定価320円、品番744-070)このうち、(2)のOrionスプリントイクイエーターは、このページを執筆途中に急遽「飛び入り参加」させることになった ブラシです。何がそんなに興味あったかって、まずは右の写真をみてください。 まず目につくのは、リード線の色。上のPower Maxシルバーブラシの説明でも書いたように、 従来、高性能ブラシで常識的に使われていた線を捨て、やや銅色がかって 「薄いピンク色」に見えるリード線を採用しています。 実際の性能はともかく(少なくとも既存品より悪くはないでしょう)、 「コダわり」を伝えるメッセージ効果は十分です。 端子の処理にもコダわりが見受けられます。リード線のカシめ方を変え、長細くカシめることで端子との接触を増やそうという 試みです。効果のほどは分かりませんが、「違い」を感じるだけでも十分購買意欲はそそられました。 なお、ブラシのコミュとの接触面中央に、1本太い溝が刻んでありますが(右側写真参照)、 これはブラシの接触面積を減らし、摩擦抵抗を減らす効果と、ブラシカスのセルフクリーニング効果を 付与するための工夫だと思われます。セレート加工の代替だと思われますが、効果はどうなんでしょうか。 ブラシは各メーカーから山のようにリリースされており、本気でやりだすと 膨大な組み合わせ試すハメになってしまいます。 ここでは、タミヤのブラシとの比較をメインに、銀の混入率が「9%」とハッキリしていて、既にかなり以前、少なくとも 2〜3年前から販売されているイーグル製ブラシ、それと新製品のなかでちょっと面白そうだったOrionのブラシを加えてみた、というわけです。 なお、ブラシは、セレートタイプは3.6Vニッカド電源で1分間の無負荷通電ナラシ後、 プレーンタイプ(タミヤおよびOrion)は同5分間のナラシ後で計測しました。 ブラシ以外のパラメーターを統一するため、ブラシスプリングはモーター添付の標準品を使っています。 進角はメーカー推奨の「目盛り4コマ=12.5度」で固定しています。 測定結果のベンチマークとしては、スーパーモデ11Tの販売時にモーター組み込み済みとなっている(4)の 「旧T印ブラシ」のデータを採用し、これとの比較で各ブラシの性能差を評価する形にしています。 <計測結果> 結果の一覧表は以下のとおりです。 (各ブラシデータのファイルネーム表記) CSPMAX**=Power Maxシルバーブラシ EGL9%***=イーグル9%銀入りブラシ ORI-***=Orion スプリントイクイエーター SMOD1NW*=タミヤ「丸T印」 SMOD1OD*=タミヤ旧「T印」 <最大出力の順> <最大効率の順> 今回はサンプルデータの数が多いので、分かりやすいように着目した項目ごとに並べ替えた表も付けてみました。「最高出力の順」の表を見れば分かりますが、最もパワーが出たのは、発売時期として決して新しくない(むしろ、最近はほとんど見かけないのでは?)イーグルの「9%銀入りブラシ」でした。ちなみにこのブラシ、セレートタイプなので付けてすぐにこのパワーを発揮します。また、銀の量が多いにもかかわらず、磨耗は結構早く、かなり柔らかい部類のブラシです。この「柔らかさ」が好結果と関連していることは想像に難くありません。価格も定価で320円とお手頃なので、オープンレース、特にパワーソースに規制がかかるようなクラスでは、意外な「掘り出しモノ」になるかも。 意外かも知れませんが、このテストで大健闘だったのがタミヤの新しい「丸T印」ブラシ。 イーグル9%銀入りに続く出力を記録しました。ただ、この出力は効率の良さで稼いでいる部分が かなりあるようなので(効率の数値が飛び抜けて良い)、ブラシコンディションが悪化すると パワーの落ち込みが大きいかも、ということにも留意が必要です。また、「丸T印」は 最高出力の順番こそ2番になりましたが、3番手のOrionスプリント・イクイエーター、 4番手と意外に振るわなかったように見えるCS Power Maxシルバーブラシとの差はごくわずか。 1〜2Wの違いに過ぎません。このへんは「ひとかたまりでダンゴ状態の争い」と 考えたほうが良いでしょう。また、ピークパワーから外れた部分での特性については下のグラフを 読み解いてから再検討しなければなりません。 一方、「最大効率の順」に着目すると、Power Maxシルバーブラシのデータのひとつが、 タミヤ「丸T印」と並んで堂々トップの高効率をマークしていたことが分かります。ただ、 他の2本のデータから総合的に判断すると、トップ記録の「78.1%」という数値はやや異常値で、 「75〜76%」というのがこのブラシの本来の実力なのかな、という感じです。 (効率は使用するモーターおよび進角設定により変動しますのでご注意) この結果から分かるのは、Power Maxシルバーブラシはピークパワーを求める 「一発勝負」向けのブラシではなく、コンスタントにそこそこの高性能を求める向きにこそ ふさわしい、ということです。せっかくの高価なブラシなんですが、 必ずしも「最高のパワーを搾り出す夢のアイテム」というわけではなく、性能的には現時点での平均的な 水準を満たしているけれども、「一発狙い」でもっとハイパワーを得るのが目的なら他のものをどうぞ、 というわけです。 むしろ「ロングライフ」に着目した使い方をした方が、このブラシには合っているようですね。 以下に、各ブラシをタミヤ・旧T印ブラシをベンチマークとして比較したグラフを掲げておきましたので ピークパワー以外の領域での特性比較としてご覧ください。2枚1組で掲示してありますが、下側の「消費電流」をヨコ軸に取ったグラフで比較すると分かりやすいでしょう。特に、消費電流が少ない高回転域の差を見比べると、ピークパワーだけでは分からない違いを見ることができそうです。 ここで高回転域の効率差のカギとなっているのが「ブラシの摩擦抵抗」です。軸受けの抵抗と合わせたトータルの抵抗が「Friction」として 各グラフの右下の囲みに表示されています。この数値は実測データから計算された「理論値」なので 誤差が大きく、通常はあまり重視していないのですが、今回のような、ブラシ以外のパラメータがかなり 均一化されているテストでは、注目に値するかなと思ってあえて指摘しておきました。当然ながら、 フリクションの大きさの違いは、ブラシの硬さや材質と直結しているわけです。硬く、出力が低い タミヤ旧T印ブラシのフリクションが小さく、大電流が流れない高回転域で好結果を出しているのに対して、 ピークパワーでは好結果だったイーグル9%銀ブラシがトップエンドで効率悪化に悩む、という 逆転現象が生じています。つまり走るサーキットで「得手/不得手」がありそうだ、ということです。 面白いですね(ややこしくて困りますが・・・)。 Power Maxシルバーブラシのフリクションは、 イーグルやタミヤ「丸T印」よりは低いですが、Orionおよびタミヤ旧T印に比べるとかなり大きいです。 このあたりのデータは、実際にナラシを行った後のブラシの削れ方とも見事に一致しています。 「ロングライフ」をうたっているPower Maxシルバーブラシですが、結構柔らかく、ホントに額面通り 60パックも使ったら、ブラシが1/3くらいなくなっちゃうんじゃないか、と思うくらいです。ま、それでも 当初の性能が維持できてれば「看板に偽りなし」なんですけどね、ブラシテンションが下がりまくってしまうとどうなんだか? このあたりは今後の検討課題ですね。一方、「寿命2〜6パック」という表示で超ソフトなのかな?と思わせるOrionスプリント・イクイエーターブラシですが、実は非常〜に硬かったです。「15パック」の表記間違いじゃないか?と思ったくらいです。こちらも「表記」と「実際」がいささか違うんじゃないの?と いう点ではPower Maxシルバーブラシと似たような心配のタネを抱えています。「心配」の 方向性は180度逆なんですけどね。 (実線はPower Maxシルバーブラシ、点線はタミヤ・旧T印ブラシの基準データ(その25参照)) (実線はPower Maxシルバーブラシ、点線はタミヤ・旧T印ブラシの基準データ(その25参照)) (実線はイーグル模型9%銀入りブラシ、点線はタミヤ・旧T印ブラシの基準データ(その25参照)) (実線はイーグル模型9%銀入りブラシ、点線はタミヤ・旧T印ブラシの基準データ(その25参照)) (実線はOrionスプリントイクエーター 2-6、点線はタミヤ・旧T印ブラシの基準データ(その25参照)) (実線はOrionスプリントイクエーター 2-6、点線はタミヤ・旧T印ブラシの基準データ(その25参照)) (実線はタミヤ「丸T印」ブラシ、点線はタミヤ・旧T印ブラシ基準データ(その25参照)) (実線はタミヤ「丸T印」ブラシ、点線はタミヤ・旧T印ブラシ基準データ(その25参照)) ところで、Power Maxシルバーブラシの話からちょっと離れて、 ちょうどこの上に掲げた「タミヤの新旧ブラシ」の比較についてなんですが、 改めて11Tで計測し直すと、まさに、驚きの違いですね。 「その18」で取り上げたスーパーストック23Tでも同じ結論でしたが、 タミヤGPで、GT1クラスなど23Tを使うワンメイクレースで「旧Tブラシ」を使ってたら、 まるで勝負にならないことが分かります。 モディファイドモーターなら、パワーだけの勝負ではない(それよりも腕!)ので、 ターン数の低いローターにわざと「旧T」を組み合わせてパワーを抑えて使う、というヒネりもあり得ますが、 一般には「丸T」必須でしょう。 しかし、困ったことに、02年4月末現在、流通在庫からまだまだ全然、旧Tブラシが掃ける兆しがみられません。 いま、店頭で入手できるのは旧Tブラシのみ、ということです。アフターでも丸Tは扱ってくれないようです。 流通在庫が掃けるのをジッと待って、丸Tに切り替わるのを待つしかありません。 しばらくは、自己防衛として、スーパーストック系の新品モーターを買ったら、付属ブラシは使わず大切にとっておきまょう。 ちなみに、タミヤが初めての5×4mmブラシ採用モーターとして、「アクトパワー・オフローダー2WD(op.122)」の発売と 同時に「アクトパワー2WDモーター・ブラシセット(op.123、400円)」を出したのが92年11月。 その後、より高性能なMaxtec流れの「M印」ブラシをコッソリと採用した、 ミニシャーシ専用の「アクトチューンMスペシャルモーター(op.251)」が95年12月に発売されましたが、 この「Mブラシ」、当初はバラ売りされず、 ようやく97年10月になって、「タミヤレーシングモーターブラシ(op.307、300円)」として発売されたのでした。 その後、98年の秋口頃、ちょうど「ダイナラン・ストック」発売1年を経たあたりから、 ブラシの素材はそのままに、刻印だけ「旧Tマーク」にマイナーチェンジされたのですが、 既にMマークのブラシが相当数出荷されていたため、流通在庫が完全に切り替わるまで2〜3年かかったようです。 この「刻印変更」は、単なる「予告なき仕様変更」だったため、商品番号に変更はありません。このため、 変更時期の特定が難しいんですが、この頃は自分もダイナランストック仕様の GT1クラスでかなりやり込んでいて、相当数のダイナランストックやMチューンを逐次購入していたので、 それらの購入時期や各製品の発売日時を考慮しておおよその時期を推測しています。念のため。 ただ、今回の「丸T」は、従来の「旧T」とは明らかに飛躍的な性能差があるので、 別の商品番号で併売してもいいんじゃないかなあ?、と個人的には感じています。 それをしない(できない?)のは、「丸T」を出したとたんに「旧T」が売れなくなっちゃうからなんでしょうが、 それならモーターに組み込むのは「旧T」にして、少なくともタミヤ社内の在庫くらいはさっさと掃かしちゃえば? って思うんですよね。 まあ、それを実行したのが「スーパーモデ11T」だったわけで、多少は在庫処分も進展しているようですが・・・。 「スーパーストック・タイプT」を買ってしまったユーザーには、ツラい日々がもうしばらく続きそうです。 あ、でも、来る02年6月から、リビルダブルタイプの「スーパーストック・タイプS」が出ると、 スタンドアップブラシの利用者が増えるから、そこでイッキに「旧T」の流通在庫が掃けるカモね! 期待しましょう。 <考察> モディファイドモーターの性能を左右する大きなファクターとして「効率」の問題があり、 その「効率」を大きく左右するパーツは「ブラシ」であることが改めて分かりました。 もちろん、進角も効率を左右するファクターではありますが、 「その16」で明らかなとおり、実際には3%程度の違いしか生じません。 多めに見ても5%程度。・・・いうことは、ブラシを換えたほうが、効率の差ははるかに大きく表れるわけです。さあ、これからアナタはどのブラシを使いますか?? え、私ですか? とりあえずパワー競争する場もないので、いっぱいストックが残ってる「旧T印」を遊び用に使って「丸T印」が流通に出てくるまで待ってようかなあ・・・。え、全然積極的な選択じゃないって? こりゃ失礼。 (おわり) |