posted on 7/2/2007
last updated on 7/5/2007
タミヤRC製品・即買いカタログ
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RC Car Trend モーター研究室

<その49:ブラシスプリングを替えたら>



<どのくらい違うのか?>

今回は「その48」で分析した「ライトチューン」モーターを題材に、 ブラシスプリングのテンション(バネ圧)の違いがどのようにモーター性能に影響するのかを探ってみます。

現在販売されているタミヤの5x4mmブラシ用スプリングは3種類あります。最もポピュラーなのは、 ダートチューンを除くスタンドアップブラシ仕様共通の180g品 (部品番号7405079、線径0.49mmの6回1/3巻き)ですが、このほかに レイダウンモーターのタイプRZ/RRだけに使われている 210g品(部品番号不明、線径0.50mmの5回1/3巻き)、 そしてダートチューン専用の280g品(部品番号7405092、線径0.54mmの6回1/3巻き)があります。 右の写真は、左が7405079、右がダートチューン専用(現時点では)の7405092です。

タミヤGPのみならずJMRCAスポーツクラスでも、ホモロゲーション済みモーターの部品を勝手に交換して仕様変更することは 明らかな改造に当たるわけで、「失格」につながる行為なわけですが、 このブラシバネの違いは、分かってないと、一瞥で見分けるのはかなり困難です。何しろ色が同じですからね。 JMRCAでは、そもそも「タミヤ印」のモーターを使うのか?(使わんだろフツーは)・・・という話がありますが、 ソレは置いとくとしても、モノの性能差を出す余地が乏しいタミヤGPにおいて、 ブラシスプリングを換えて、モーターの性能が変わるとしたら、大問題ですよね。従来なら、180gと210gですから 計測しても誤差程度の違いしか認められなかったのでRCTとしても「放置」してあったんですが、さすがに ダートチューンの7405092スプリングの「280g」というのにはたまげました(苦笑)。ライトチューンのバネをコレに換えて 良くも悪しくも「性能が変わらない」ハズはありません。悪くなるならいいんですが、一般に、ブラシバネ圧のアップは ブラシの接触・導通を改善して、摩擦増加による損失をカバーしてパワーアップにつながるもの、とされているので、 気にならないハズがありません。これまでRCTでは、機会がなかったので厳密な検証をしたことがありませんでしたが、 今回、ようやく重い腰を上げて「試してみようか」となった次第です。


<計測方法>

RCTの公称温度条件は25度±2度ですが、今回の実測値は一連の計測を通じて26.5〜27.0度でした。 電源(12V-19Aカーバッテリー)やダイノ駆動用FETの温度上昇抑制(空冷して室温に極力近づけ、計測結果のバラつきを排除する) などの条件は従来どおりです。

計測に際してはいつものようにブラシのアタリを取った後、各個体につき5回ずつデータを取得、 出力(W)のメジアン(中央値)に最も近いデータを代表値としました。なお、今回は、 既に「その48」でライトチューンの標準的な結果を示す個体が分かっているので、 当該個体1個に計測対象を絞り、ブラシバネのみを7405092(280g品)に交換して結果を見てみました。 また、今回は特別に、「その46」で計測に用いた「ダートチューン」に 「ライトチューン」の計測で使った 7405079バネ(180g品)を取り付けて、特性の変化を比較検証してみました。もしライトチューンに 280gバネを付けて何らかの変化があるなら、ダートチューンに180gバネを付けたらそれとは対称的な結果が出る はず、と考えたからです。もし、非対称な結果になるなら、何か計測に問題がある可能性が考えられるので、 測定結果の妥当性を検証するのに役立つだろうと考えた次第です。



<計測結果>

<ライトチューン+280gバネ(7405092)>

(表1:計測結果の生データ@7.2V&5.0V<出力の大きい順>)


以下、
「その48」の標準データと比較します。

<7.2V運転時の測定結果>


<ヨコ軸:回転数で表示>
(ライトチューン:実線はダートチューン用280gバネ、点線は標準の180gバネ)



<ヨコ軸:トルクで表示>
(ライトチューン:実線はダートチューン用280gバネ、点線は標準の180gバネ)



<ヨコ軸:消費電流で表示>
(ライトチューン:実線はダートチューン用280gバネ、点線は標準の180gバネ)


<5.0V運転時の測定結果>


<ヨコ軸:回転数で表示>
(ライトチューン:実線はダートチューン用280gバネ、点線は標準の180gバネ)



<ヨコ軸:トルクで表示>
(ライトチューン:実線はダートチューン用280gバネ、点線は標準の180gバネ)



<ヨコ軸:消費電流で表示>
(ライトチューン:実線はダートチューン用280gバネ、点線は標準の180gバネ)


<参考:ダートチューン+180gバネ(7405079)>

(表2:計測結果の生データ@7.2V<出力の大きい順>)



<ヨコ軸:回転数で表示>
(ダートチューン:実線はライトチューン付属180gバネ、点線は標準の280gバネ)



<ヨコ軸:トルクで表示>
(ダートチューン:実線はライトチューン付属180gバネ、点線は標準の280gバネ)



<ヨコ軸:消費電流で表示>
(ダートチューン:実線はライトチューン付属180gバネ、点線は標準の280gバネ)


<考察>

「ライトチューン+280gバネ」のケースでも「ダートチューン+180gバネ」のケースでも、 最高出力に着目すると、「どちらも悪化する」という結果が出たことは意外でした。 ノーマル仕様と比較してブラシバネ圧が大幅に下がったダートチューン+180gバネの結果は順当なところですが、 ライトチューンの結果も、意外に伸びませんでした。少なくとも俗説で言うところの「出力アップ」という結果には ならなかったと。理由としては、280gというブラシバネ圧と最高出力が出る モーター回転数とのミスマッチがあるのではないかと考えます。いずれのモーターも、 「(マグネットやローター設計の妙で得た非常識なくらいの)ビッグトルクを利して非常に低い回転数で最高出力を得る」 というコンセプトですから、280gものバネ圧をかけなくても、最高出力時の給電は十分に行われていて、 むしろバネ圧が過大な分、効率で損をしていると。 損失と給電効率のバランス、という意味では、現行のop.581レーシングモーターブラシ (丸T印)の硬さ・摩擦力には180g前後のスプリングがベストなのでしょう。

ちなみに、旧タイプのop.307(M印または旧T印) を採用していたダイナラン・スーパーツーリングやダイナラン・レーシングストックを調べてみたら、 いずれも共通で235g前後のバネ(黒色で形状も現行品とは異なります)を採用していました。 当時のブラシは今よりもかなり硬く、バネ圧を上げても摩擦熱の問題が少なかったほか、ブラシの接触を良くするためにも高めの 圧力を要したのでしょう。柔らかく、接触は良くなったけれど摩擦係数は上がっている現行のブラシでは、以前よりもバネ圧を落として 釣り合う、という感じなのでしょうね。ブラシバネの強さばかりに目が向いてしまいますが、「全体のパッケージング」として モーター性能を評価する際には、「ブラシの摩擦力や硬さ(接触しやすさ)」とブラシバネ圧の「バランス」を無視してたら、 ダメなわけです。

ところで、グラフを眺めていると、「バネ圧の変更に伴う変化」が最も顕著だったのは、 高回転域での効率と摩擦量であることに気付きます。 「ライトチューン+280gバネ」のケース、「ダートチューン+180gバネ」のケースで、それぞれ予想どおりの対称的な結果が 出ています。バネ圧を増やしたライトチューンは高回転域の摩擦が増え、効率が悪化。最高回転数も150±30rpmくらい 落ちています。逆に、バネ圧を落としたダートチューンは高回転域の効率が改善し、最高回転数も100rpmくらい伸びました。

大きめのギヤ比が指定され、モーター負荷が軽いタミヤGPでは、 コースレイアウトによって着目すべきポイントが変わります。 仮設コースに多い、直線距離が20m未満と短いコースでは、最高出力が立ち上がり加速に大きく影響します。一方、 アクセル全開率の高い高速コースで重視すべきなのは、低負荷領域での効率や摩擦ロス、端的に言えば「回転数の伸び」です。 例えば静岡や掛川サーキットでは、「最後のひと伸び」は致命的な差につながることもあり、 「たかが100rpm」などとは言っていられません。絶対値としてはわずか0.5〜1%の差なんですが、 直線が長いほど、差は顕著に出てきます。 高速コースでは、負荷の軽い領域で摩擦ロスが少なく、良く吹け上がるほうが望ましいので、 ヘタにダートチューンやタイプRR/RZの220gバネなど、セット標準バネよりも重いバネを付けても、 計測結果を見る限りでは「不利になるだけ」ですから、あんまり心配はなさそうですね。

むしろ高速コースでは、 ブラシをあらかじめ使い込むなどして減らしておいて実質的なバネ圧を落とす、といった「最高出力よりも回転数重視」の チューニングが有効な「気がします」(まだ未検証なので断定はしません)。コレはバネに妙な細工なんてする必要はなくて、 ただ単にブラシを減らせば実現してしまいますから タミヤGPでも当然に「合法」です。 まだダイノテストで実験したことがないので、 どの程度減らすのが最適なのかはアドバイスできませんが、たぶん2mm以上は減らし過ぎで、バネ圧が下がり過ぎてダメではないかと思います。 逆に、ROX3のような直線の短いコースでは、MAXパワー重視でなるべく新品に近いブラシが良いと思いますが。

筆者は普段、ROX3でのタミグラに出ることが多いですし、タミヤ世界戦でも、06年からは、コミュ研磨機は持ち込み自体がNGに、さらに ブラシセッターの使用すら禁止になってしまったので(面取りくらいさせてくれたってイイんじゃない? とは思いますが、 ムーンカット等の細工をされると指摘が困難なので仕方ないでしょう)、 「回転数重視」のチューニングはあまり追及する理由がなく、これまであまり着目していませんでした。 ただ、「ブラシ長の変化は実質的なブラシバネ圧とモーター性能にどの程度影響するの?」というテーマは、 日頃、ブラシ交換せずにガンガン遊びまくっている「まったり系ユーザー」にとっても関心あるはずなので、 「宿題」として、後日、改めて検証してみたいと思います。

(おわり)



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