posted on 3/09/99
last updated on 5/29/2003
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RC Car Trend モーター研究室

<その7:第3世代ジョンソン徹底解剖>

今回は、「レギュレーション研究室」BBSでのご質問をテーマに取り上げました。
かなり重いので覚悟してください。


●TAM坂井 題名:マブチ540に若干の変更あり? 投稿日 : 99年2月19日<金>13時24分

先日(2/14),静岡のタミヤGPに参加してきました。
(中略)
一つ,車検時に見かけて気になったことなのですが,N1に参加された方で 540のチェック時に,モーターカン?orコネクタ接続部?が違うらしく staffの方がNGを出していました。 しかし,その人はすべて(3個)タミヤのアフターパーツのみでしか, 購入していないので納得できない!と戦っておりましたが, どうやら,最近,今までの在庫が掃けた?ので変更されたのではないか? と言う結論に達してOKとなりました。車検のstaffは何方も見たことが 無いということでしたが,詳細はよく確認できませんでした (私はスポチュンでしたから)。 何方か,知っている方いましたら,教えて頂ければ幸いです。

<新型ジョンソン?>
なるほど、これは久々に面白そうだ、影響もデカいぞ、ということで早速取り上げることにしました。

お話では、今年2月のレースのために入手なさった方がいて、その時はまだ社内でも(催事部では) 知られていなかったくらい、ということですから、恐らくレースの空白期間だった99年1月頃、タミヤに入荷したものと思われます。 ちなみに、ジョンソンを毎月1カートン程度と比較的大量に販売している渋谷トップサーキットで新型の入荷時期を確かめたところ、 「2月中旬以降くらい」との回答を得ています。今回は、データのバラつきに配慮し、新型を2ロット、旧型を2ロット、 同一ロットで各2個ずつの計8個を新規に購入もちろんポケットマネーですよ! ううう財布がぁ・・・し、 既存のストックと合わせて、ロット別の状況や徹底検証してみました。

<まずは外観調査>
最近、ジョンソンを買ったことがなかったので特に気にも留めていなかったのですが、ここ2、3年は、個別にビニール包装にされた状態で 出荷されているとのことで、かつてのように店頭でコギング(ローターのコリコリ感)を確認して選んで購入する・・・ という技は困難になっています。これはノウハウのない一般ユーザーにも平等に良いモーターが当たる可能性を高める という意味では良いことなのでしょうね。私も、今回はその恩恵をフルに享受したはず。

(注:現在、タミヤレースでは、車検で「コギングの強いモーター=着磁モーター」、としてハネられるようになっています。 これは、実際に自分で着磁加工したか否かにかかわらず、一律に適用されます。 そもそも、純正アフターパーツだって、ジョンソンの工場出荷時に多かれ少なかれ着磁機にかけてるんですから区別のしようがないのです。 判断基準は、「コギングトルク*mgまで」などという定量基準ではなく、あくまで「ドライバーの顔色を窺いながらオフィシャルの独断と偏見で判定する」 という、いかにもタミヤなファジー基準なので厄介です。

例えば、2000年まで毎年、渋谷トップサーキット(2001年5月閉鎖)で行われていたタミヤ全日本(世界戦)関東予選のF1エキスパートクラスでは、 モーターを巡って悲喜こもごものドラマが朝一番の車検から繰りひろげられていました。 すべてアフターで入手したバリバリ純正品でありながら、 EXPクラス参加の本人が車検に持っていくと、手持ちのモーターすべてに「ダメ」が出て、ならばと知り合いのフレッシュマン参加者に 持っていってもらうと、同じオフィシャルから「OK」もらったり、なんて具合です。 その善し悪しはここではコメントしませんが(気に入らなければ参加しなきゃいいのです)、 コギングについてはそういうこともある、ということですので、思わぬところで足をすくわれぬよう、 タミヤレース参加時には気をつけませう。

さて、いよいよ「新型」ジョンソンとのご対面です。
ををっ! 噂には聞いていましたが、ホントにまんま540SHそっくり! ただし、エンドベルやモーターカンにはジョンソンの刻印があったり、エンドベル形状がマブチと大幅に異なっている(旧型とも異なる)うえ、 モーターカンの穴のサイズも似ているけど、540とは微妙に異なる。おまけにモーターシャフトもほんのわずか(右の写真ではチト分かりずらい) ですが、新型ジョンソンのほうが長い。また、ブラシも、新型ジョンソンは旧タイプと同じU字型で、マブチ540のW型とは異なっています。

論より証拠、下の写真をご確認ください。

 

(新型ジョンソン)


 

 

 

 

(従来型ジョンソン)


 

 

 

 

(マブチRS-540SH)


 

 

 

 

さらに子細にながめていると、同じ新型なのに、今回購入した2つのロットでは、ロット番号の字体やバランス取りの仕方が異なっていることも発見。 95年以降に製造されたジョンソンには、2段組のコード番号(1段目がモーター型番<62200>、2段目が6桁のロット番号)が打刻されていますが、 最も新しいロットでは、写真左下のようにコード番号がヨコ2倍角の字体になりました。工場が替わったのかも知れませんね。

また、ちょっと見にくいですが、下中央の写真は、ローターの上端を回転方向に薄くそぐ格好でバランス取りをしています。これは珍しい。
これに対して、写真下右の別のロットでは、ローターの軸方向にノミのようなものでえぐり取ってバランス調整しています。
このほか、ドリルで垂直方向に穴を開けていた例もありました。こういうのは従来からよくありましたが、カンの穴が小さかったので、なかなか気がつきませんでした。
ジョンソンのローターのバランス取りに関しては、大昔のロット(90年代初め)では、トリニティのモディファイドモーターと同様のポリパテ盛り (手間がかかるが磁力線がキレイに出て有利)だったのですが、今ではお目にかかれません。

 

 

 

 

 

大昔のロット、と書きましたが、ひと口に「ジョンソン」と言っても、私の知る限りにおいても、 大きく分けて3つの世代があるのです。第1世代は、私自身は見たことはないのですが、 92年頃、当時ヨコモのサポートドライバーだった海野幸次郎クン(2001年にHPIとプロ契約、2002年よりテックに移籍)が教えてくれた、「エンドベルの白いバージョン」。これは、もしかしたら樹脂エンドベルなのかも。 今となっては確認のしようもありませんが、パワーは第2世代より若干強かったそうで、「テレビ東京の『タミヤRCカーグランプリ』で「白ジョンソンを探せ!」なんてやってみたら面白そうだね」なんて話をしていたので、覚えているのです。 海野君はタミヤのバギー全盛期に育った人ですし、ジョンソンが登場したのは1986年10月以降のようですから、これが初期バージョンに相当することはまず間違いないでしょう。
(9/20/99追加)当レポートの後、ある方から、ひょんなことでこの「白ジョンソン」が入手されたと聞きつけ、無理を承知で譲っていただくことができました。果たして「伝説」は本当だったのか!? 詳しいレポートはこちら

第2世代は、1990年5月の「第3世代」F1シリーズ(フェラーリF189以降)発売前後からキット同梱が始まったとみられる(あくまで推測ですが) バージョンで、本研究室で「旧型」と呼んでいるもの。厳密には、上述のとおり、ロットによってパテ盛りでローターのバランス取りをしている型と、 コアの削り取りで対応している型とに分かれますが、時期的な前後関係はあまりないようで、基本的な構造も全く同じ。振り返れば、もう10年近くも生産を続けていたわけで、 モデルチェンジの潮時だったのかも知れませんね。

・・・ということで、今度の新型ジョンソンは第3世代なわけです。カンもエンドベルも新設計ですからね。

<初期状態で回してみよう>
それでは、いよいよデータ編です。まずは購入直後の状態を記録するため、無ナラシでのデータ取得を試みました。
しかし、これが意外に大変。無理もありません。ブラシのアタリがまるでないですから、起動時の瞬間80Aなんて電流すら 十分に流すことができないで、モーターダイノが異常終了してしまうというトラブルが頻発。一時は電源(12V−19Ah)を疑いましたが、 再充電後も状況に変化なし、起動時に3倍程度の大電流を要するTRFチューンで試したところ、何の問題もなく一発で データが取れたので、機器に問題はなし、ということで、ブラシのアタリに問題があることが明確になりました。

とはいえ、ナラシをしてしまっては意味がない、ということで、四苦八苦しながらテスト対象10基の初期データを入手。
スペック的には上から下まで1割以上のパワー差(最大出力を比較)が生じました。しかし、何度テストを重ねても、モーター間の序列(パワー差) はほとんど変わらなかったので、「こんなに個体差あるのかなー、本当に」と訝りつつも、データ取得を終了させました。
ここでは、そのなかから典型的な例をご紹介します。


(実線は今回購入した新型の例、点線はいつもの基準ジョンソン、いずれもナラシ前)

まずは、「モーター研究室その2」以来、基準データとして使用している旧型ジョンソン(未ナラシ)と新型ジョンソンの標準的なスペックの比較。
回転数とトルクは逆相関の関係にあり、個別の最高値に注目してもあまり意味がないので、判断基準としては最高出力に注目したところ、旧型のほうが新型より5%もハイパワー? という結果が出てしまいました。 しかも、回転数も伸びている。これじゃあ、旧型のほうが良さそう・・・。

<同時期に販売されていた旧型との違いは?>


(実線は旧型の例、点線はいつもの基準ジョンソン、いずれもナラシ前)

こんなこともあろうかと、今後入手が途絶える旧型を買い込んでおいたのですが、 意外なことに、これはこれで基準モーターには及びません。先の新型のデータと比べても7%ものパワーダウン(最高出力ベース)を喫しています。 ただ、グラフの形からすると、ナラシを入れれば「上」が伸びることは見当がつきますから、 特に目くじらを立てるほどの違いではないのかも知れません。でも、新型とのグラフの形の違いが気になる・・・。

<(参考)ナラシ前段階の新旧モデルの典型例データ比較>


(実線は新型、点線は旧型、いずれもナラシ前)

ちなみに、ナラシ前の状態で新旧モデルを比較すると、こんなに違います。

<(参考)新型の特性はマブチ540に近似?>


(実線は新型ジョンソン、点線はいつもの基準マブチ540SH、いずれもナラシ前)

どうやら、新型ジョンソンは形だけでなく、出力特性もマブチ540に似せたんじゃ なかろうか? という疑問がにわかにもたげてきました。少なくとも、ナラシ前データの比較では、そう読めます。

<ナラシをしてみよう!>
ナラシ前データのバラつきはあまりにひどく、モーターの真の優劣をこの段階で論じるのは危険と判断しました。
バラつきの最大の要因は、ブラシのコンディション(通電キャパ不足)にあることは明白でしたので、 十分なナラシ前データを取得した後、実際にナラシ運転を行い、再度データを取得しました。

ところで、540やジョンソンのナラシについては、決定的な手法が確立されておらず、各自が手探りで最善の方法を模索しているのが実状です。 540モーターが使われるようになってもう20年を越すにもかかわらず、です。
このあたり、従来は、厳密な測定器がないなかで場当たり的に再現性のないナラシを行っていたので、仕方ないでしょうね。
本研究室では、時間とカネの折り合いをつけながら、順を追ってこのあたりのノウハウにもメスを入れていきますので、お楽しみに。

今回はとりあえず、以下の手順でナラシを行ってみました。
(1)ケミカル剤を使用し、ブラシの摩耗を促進させながら20分間の通電ナラシ
時間短縮とコミュテーターの保護を両立させるため、シンワ・モーターチェッカーでバッテリー出力を60%程度に絞って空転させました。通電電流は1A強です。

使用ケミカル剤は写真左から、
トリニティ・ブッシングバスター(これは軸受けにオイルの代わりに注すのです)
トリニティ・ブレークインドロップ(コミュに塗布)
クレCRC6-66「マリンフォーミュラ」(コミュに塗布)です。

なお、ブッシングバスターは「ジフ」等のクリームクレンザーで代用できます。数分間以内に使用をやめ、クリーナースプレーできれいに流しておくのを忘れずに。 また、ブレークインドロップは大して特別なものではなく、コミュドロップでもほとんど同じことです。

CRC6-66は、5-56や2-26、タミヤオイルスプレーで代用できますが、ニオイや特性が若干異なります。5セル6V時代から広く知られた 古典的なナラシ用ケミカル剤ですが、現在の7.2Vの使用条件では初心者にはお薦めできません。6Vから7.2Vに電圧・電流がアップしたのに伴い、 モーターのスパークで発火(瞬間的に)しやすくなったためです。コミュに塗布したまま何もせず回し続けていると、モーターが焼き付いてパーになってしまいます。 回転数や電圧にもよりますが、塗布後、コミュがカーボン粉で真っ黒になったら、直ちに6-66を追い差しするか、クリーナーで洗い流すようにします。 電源電圧は、できるだけ7.2Vは避け、4.8V以下で回すようにすれば、トラブルを防げるはずです。 これさえ守れば、他のどんなケミカルより、早くキレイにブラシを摩滅させることができます。

このほか、ヨコモやタミヤのモータークリーナースプレーも適時併用します。クリーナーは様々なものが販売されていますが、大きく分けてタミヤに代表されるアルコール系と、 ヨコモに代表される四塩化炭素(テトラクロロエチレン)/トリクロロエチレン系があります。 私は通常ヨコモを使っています。安くてサイズも手ごろ、乾燥が速くてモーター冷却用としても使えるからです。 溶剤の成分自体は、基盤洗浄用スプレーとしてもごく一般的に販売されているものですが、基盤用は一般に価格がバカ高いです。

ちなみに、クリーナーについては、モーター回転中の吹き付けを避けるEXPが多いですが、 私は回転中もかまわずじゃんじゃんクリーナーかけてしまいます。だって、そのほうが汚れが良く落ちるんですもの。もともと、プリント基板など 電子回路をドブンと浸して洗浄するための溶剤なんですから、モーターにぶっかけたって、別に構やしないじゃないですか! 止まってればよくて、回転してたらまずい、というのは妄想です。メタルの油切れを気にする向きもありますが、 それがもとで焼き付いたなんてこと、今まで一度もありません。むしろコミュに付着した油で焼き付く方が恐いです。 そもそも軸受けは「オイルレスメタル」で磨耗とともに内部の微細空孔から油が浸出してくるのですから、外からオイル差す必要なんてあまりないのです。

(2)水中ナラシ20分間
急いでナラシを行うと、どうしてもコミュの焼けがついてしまうので、 後半の20分は水中ナラシ(文字通りの方法。モーターを水中にて回す)で仕上げてあります。通電電流は2Aです。
水中ナラシをしたモーターは、よく乾燥させ、軸受けに「バナナルーブ」(写真右)など、 低粘度のモーター用オイルを差しておきましょう。

以上の作業で、ちょうど1700mAh1パック分程度のナラシになりました。
なお、最後になりましたが、以上のナラシはすべて「正回転」です。
「え〜、逆転ぢゃないの?」と思われた方も多いかと思います。 でも、私の経験では、ジョンソンは逆転ナラシすると遅くなるのです。 理屈はしょせん後講釈ですから、ここでは経験値を優先しました。せっかくの新品をツブすのは惜しいので。

<ナラシ前と後の旧型>


(実線はナラシ後、点線はナラシ前)

<ナラシ前と後の新型>


(実線はナラシ後、点線はナラシ前)

<ナラシ後の新旧比較>


(実線は新型、点線は旧型)

ナラシでブラシのアタリが取れたことにより、測定値の安定性・信頼性は目にみえて向上し、 何回テストしても出力的にプラスマイナス1W程度に収束するほどになりました。 したがって、ここに示すナラシ後のデータは、かなり信頼性が高いものですが、 ナラシ前の同一モーターのデータと比較しても、新型と旧型の差がより明確になっています。

結論としては、ナラシ前段階で推察されたのとは逆に、「新型のほうが旧型よりも全体的にパワーが向上している」との印象を受けました。 たぶん、こちらが正しいです。 また、今更ながら、実際に、最高出力(トルク×回転数)を基に比較すると、ナラシの前後で一貫して、旧型より新型の方が パワフルであることにも気がつきました。以上をまとめると、「レースで使うならぜひ新型ジョンソン!」ということになります。入手はお早めに!

(この項おわり)

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