posted on Jan 4, 2004
last updated on Nov 30, 2006
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RC Car Trend モーター研究室

<その39:マブチ540SHに亜種発生!?>



<何だ、この540SHは!?>
先般「レギュレーション研究室BBS」に、スーラジ特売ジョンソンと540-J 2003/12/24 (Wed) 21:11:40 [投稿者: ふぇら〜り伊藤] (ジョンソンじゃなくて正しくは540SH)というスレッドが立ちました。
実は、RCTとしても、1ヶ月あまり前に件のモーターを入手していたのですが、机の上に置いたまま、たなざらしになっていました。今回、ちょっと話題になったのは、あろうことか、タミヤのグランプリ係のほうから、04年2月開催の「フレッシュマンミーティング」申し込み用紙の「モーター」の覧に、わざわざ「モーターの軸にピニオン取付用のDカットがないものは使えません」なる異例の「ご法度」が出されたことがきっかけでした。「一体、何なのよ?」と。

世間の圧倒的大多数の人は、この注意書きが何のモーターを意識してのものだったなのか、分からなかったはずです。しかし、分かる人にはすぐにピンと来る「効果的な規制」であったことも確かです。RCTではまだテストすらしてなかったわけですが、主催者に異例の注意書きを急遽入れる対応を取らせるほどこのモーターのインパクトは大きかったんだな、と感じ、いてもたってもいられなくなってしまいました。

マグネットの磁力やローターの電気抵抗が思いのほか温度に敏感であるということを認識して以来、計測時の温度には非常に気を使い、結果として安定した計測結果を得られるようになってきているのですが、実はこの時期、基準室温である「室温25度」の環境を作るのは面倒だし家族の猛反発も食らう(電気代がー!)ので、ホントは暖かくなるまでテストしたくなかったのです。今回は、影響度の大きさに配慮して、急遽予定を変更しての出血大サービス(?)です。


<テストの前に>
最初にお断りしておきますが、「540」というのは、あくまでマブチモーター社内で使う(結果的に世界標準の規格になってる)「サイズとローター溝数の呼称(50.0×35.8mm寸で3極)」、「SH」というのは「マブチ社内用のブラシタイプおよびその他の仕様表記」であって、この表記だけでは基本的な外寸とブラシがカーボンブラシであるということしか分かりません。マグネットの種類やカンの厚み、エンドベルの仕様、進角、軸受けの仕様、巻き線、ローター、ノイズキラーコンデンサのグレードなど、すべての細かな仕様はあくまで社内で分かればいいということでロット番号(ラベルの写真参照)ごとに記録しているようです。マブチは、産業用ミニチュアモーターの世界最大手として、同じサイズのモーターを非常にたくさんの仕向け先に販売していますからね。

ただ、RC用の540SH(RS-540SH-6527)は仕様が決まっているので、あえて社内用のロット番号は振られていません。あるのはモーターラベルに打刻された2ケタの「AO」とか「3K」とかいった製造時期(といっても部外者には不明ですが)を記録したコード番号のみです。なお、模型店向けの一般小売用とタミヤなどへのOEM(業者向け直売)用ではノイズキラーの取り付け方がエンドベル外側/内側と異なるせいか、ラベルの文字色を違えて(小売用は赤、OEMは黒)区別していますが、モーターの性能に影響する部分の仕様は同じです。
なお、マブチの機種表示ルールについてはこちらで確認できますので向学心のある方はどうぞ。

もともと、540というのは非常に手頃な価格、サイズ、性能なので、ポータブル掃除機などの家電品や自動車などにも多用されています。マブチのウェブサイトで製品カタログを見ると、ターン数の異なるタイプが複数、列挙されていますよね。ただ、現行のウェブサイトに出てくるのは「7516(0.75mm経16ターン)」「5045」の2種類のローターで仕様違いの計3種類のみ。RCに使われている「8023」(=スポチュン)や「6527」(=RC用ノーマル540SH)というのは向け先が特定されていてカタログに載せる意味がないからでしょう、記載はありません。ウェブサイトに掲載されているのはあくまで「標準モデルの参考例」であって、巻き線やシャフト、進角にはオプションがあるそうです。そうそう、「オプション」の最たる例として、一連のタミヤ向けカスタム品がありますよね。「RX-540VS」(RX-540VS-9019)は「ダイナテック01R」の名称で売られていました。「RX-540SD」は「テクニパワー(21T)」「テクニチューン(23T)」の名称で(いずれも線径は不明)「RX-540VZ-8021」は「テクニゴールド」の名称でした。私たちにとってはそれぞれ別個のモノでしたが、マブチ的には「全部540の派生型」だったわけですね。ダイナテック01とノーマル540がひとからげに扱われるってのも何となく納得いかないですが、余計なお世話ですね(笑)。

今回入手した540SHも、外見からはどういう仕様なのか、特定できません。特に愛称もついてないので「呼称」がそもそも問題です。このサンプルはスーパーラジコン秋葉原店で03年10月に購入したものですが、聞けば、同年11月のツインメッセの世界戦会場のKOブースでも「RCエンジンカーのスターター用540のバラ売り」ということで売っていた、とのことですから、なにもスーパーラジコンの専売品、というわけでもないようです。ここでは、便宜上「産業用540」と呼ぶことにしておきます。
(11/30/2006追加)
KOさんでは、06年のホビーショーやタミヤフェアでも引き続きこのモーターを販売していました。「遊び用」と割り切って使うには安くて良いモーターなので、見かけたらゲットするといいですよ〜!


<外観上の違い>
まず、外観上の違いですが、見るからに通常の540SHより安っぽいカンです。RC用のカンは美観も考えて割高なニッケルメッキ仕上げですが、産業用540は安い亜鉛メッキ(いわゆるトタン)です。性能には関係ありません(高性能モーターだとコバルトメッキとかで磁束漏れ防止を強化するケースもありますが、ニッケルと亜鉛じゃぁ漏れ磁束は変わらないでしょう)。 エンドベルも未塗装。徹底的に「産業用」ですね。RC用じゃないのでギボシコードすら付いていませんし、シャフト先端のDカットもありません(ピニオンは問題なく装着できます)。幸い、エンドベル内側には最低限のノイズキラーコンデンサーが標準で付いています。だからこそRC用にも問題なく転用できるわけです。じゃなかったらこんなデカいモーター、ノイズ出まくって走行どころじゃありません。

実は、サンプルのモーターはお値段も超安くて、380円程度でした。1380円じゃありませんよ! そりゃ、単にスペアとして欲しがる人も出てきますよね、きっと。タミヤGPと無関係な用途で楽しんでいる限り、こんなお値打ち品は他にないですからねェ。

「外見」はこのとおりなんですが、実は、中を見るとローターが違う! まず、巻き線が通常の540SHよりもローターからやや大きく盛り上がっています。

もっと明らかな違いはローターコアにあります。なんと、ローター頂点をそいだ形状のフラットコアを採用しています。先のカワダ「R-COAT」と同じですね。(写真左がノーマル540SH、右が産業用540)

このコアを採用すると、一般にトルクは細くなってしまうわけですが、このモーターでは、その対策としてでしょうか、ローターのコアの積層が1枚くらい多いように見えます(磁石とコア端の位置関係から判断)。巻き線も、RC用の540SHの0.65mm27ターンより太い線が巻いてあるっぽく見えますが、これは気のせいかも知れません。写真ではたまたま遠近感でちょっと誇張されてますが、実際にはこんなには違いません。巻き数を含め、厳密な確認にはモーターを分解してみないと分かりませんね・・・。この他の相違点としては、シャフト長の長さ。もちろんDカットの有無もありますが、これはシャフト仕上げの問題ですから性能には無関係。ともあれ、いろいろ考えると、なんだか、ダイナテック01Rで使ったローターコアを流用してる感じが強いですね、これ。 シャフト長といいコア形状といい、そんな印象を受けます。

なお、進角についてはノーマル540SHと同じ逆進角ですし、ブラシも、耐久性を考えると540SHと同じ仕様である可能性が高いです。さて、こんな仕様で果たしてどこまで回るんでしょうか??


<540SHと比較>(計測時気温はRCT標準=25度)


<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線は産業用540、点線は「その2」で掲示した540SH基準データ)



<ヨコ軸:回転数[相対表示]で表示>
(実線は産業用540、点線は「その2」で掲示した540SH基準データ)



<ヨコ軸:トルクで表示>
(実線は産業用540、点線は「その2」で掲示した540SH基準データ)


<540-Jと比較>(計測時気温はRCT標準=25度)

03年12月、ついに「540-J」の呼称でホップアップoptとして発売されるに至った現行の2穴ジョンソン(第3世代)の基準データとも比べてみましょう。


<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線は産業用540、点線は「その7」で掲示した540-J基準データ)



<ヨコ軸:回転数[相対表示]で表示>
(実線は産業用540、点線は「その7」で掲示した540-J基準データ)



<ヨコ軸:トルクで表示>
(実線は産業用540、点線は「その7」で掲示した540-J基準データ)


<スポチュンと比較>(計測時気温はRCT標準=25度)

最後に、スポチュンとも比べてみました。


<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線は産業用540、点線は「その2」で掲示したスポチュン基準データ)



<ヨコ軸:回転数[相対表示]で表示>
(実線は産業用540、点線は「その2」で掲示したスポチュン基準データ)



<ヨコ軸:トルクで表示>
(実線は産業用540、点線は「その2」で掲示したスポチュン基準データ)


<考察>
2枚目のグラフ=相対回転数ベースのグラフを比較してみてください(このグラフは、無負荷回転数の異なるモーター同士をギヤ比を変えて同じ回転数に揃えて比べたようなイメージです)。性能的には「使い始めのジョンソン(注1)より良く回るけどスポチュンほどではない、ビミョ〜な540」といったところでしょうか。中身はまったくスポチュンとは似ても似つかないことも分かりましたけどね。しかし!遊び用としてはこんなに安くて性能もそこそこなモーターはありません。ってゆーかカスタマーサービス直販のモーターの値段が高すぎたことがバレバレです(苦笑)。いっそ、タミヤもこのモーターをoptとして公認して希望小売価格800円くらいで売ったらどうでしょう!? みんながハッピーになれそうなんですが・・・。 え、余計な面倒が増える? そりゃどうも失礼しました・・・。

(注1)ジョンソンは「その7」でも紹介したとおり、ブラシ摩滅で正の進角が付いていきます。したがってマブチ540SHと異なり、使い込むと正回転での性能がアップしていきます。ただし、通常はコミュ焼けを伴うので必ずしも使い込むと共に性能アップするわけではありません。あくまでコミュが綺麗な状態でブラシだけ摩滅が進めば、という話です。

基本的に「モーター研究室」では、再現性のないテーマは議論の対象にしていません。「使用済みジョンソン」もそのひとつで、ブラシとコミュの状態を特定できないまま、性能をいくら議論しても意味がないと考えています。したがって、「モーター研究室」で表示しているジョンソンの性能は、あくまで「使用開始時」のものです。ただ、最初に述べたとおり、ジョンソンは消耗が進むと性能が良くなる方向へ変化しますから、「その7」のナラシ済みデータが示すとおり、「コンディションの良い使用済みジョンソン」ならば、ここに示した「産業用540」よりも優れた性能を発揮する可能性は十分にありますのでご注意ください。一方、「産業用540」については、しょせん540SHですから、消耗が進むと逆進角が強まり、消費電力は増えますが性能は一向に変わりません。実使用では、コミュ焼けにつれて、むしろ若干悪化していくと考えられ、正転で使う限りは、通常の540SH同様「使い始めがベスト」なモーターであると考えられます。



<余談:ナラシについて>
実は、今回の計測に当たって、産業用540にはまったくナラシを入れない状態から計測をスタートしました。実際問題として、1回のダイノテストでモーターはおよそ30秒程度回転を続けます。つまり、10回テストすれば5分間ナラシを行ったのと同じ結果になるわけです。回転上昇中は7.2Vかかっていますが、通電カットされて停止するまでは無通電ですから、大ざっぱに「平均3.6V」とみて良いでしょう(やってることはESCやモーターチェッカーと同じPWM制御そのものですから)

過去にスポチュンや23Tストックなどの計測を行ってきた際に積み上げてきた経験から、新品のモーターはブラシの当たりが出るまで一貫して計測データがどんどん良くなり、そのうちにピークアウトして少し落ちたところで落ち着く(=ナラシ完了)、ということが分かっていますので、どこまで回数を重ねたらナラシが終わるのか、見てみよう、ということもあって無ナラシから計測をスタートしたのでした。なお、この計測の間、モーター内部がブラシの摩擦熱で加熱すると特性が変わるため、十分なインターバルを置いて、内部温度が30度を越えないように非接触温度計で管理しています。

結果は、6回目の計測で下記の表の最初のデータを計測。結局、これをピークにしてあとはどんどん下降線を辿りましたが、再び上昇が始まって性能低下が落ち着いたところで計測を終了しました。ということは、ものの数分もカラ回しすれば初期のナラシとしては十分、ということになります。もちろん、ブラシ圧を減らして回転数を稼いだりする「チューニング」はまた別の話ですが。

なお、グラフの作成にあたっては、最も良いデータと最も悪いデータを除外し、残ったデータの平均を取るのが筋なんですが、手間がかかり過ぎるので、中心的なデータとして4番目に取ったデータ(540TIN04)を便宜的に採用しています。
(当初、スズメッキだと思い込んでデータ名をTINとしましたが、ホントはZINCですね)



最後にオマケ情報として、逆回転時のデータも示しておきます。案の定、このほうが良い結果が出ました。スポチュンを除く通常の540SHはブラシに逆進角がついているので当然の結果ですね。使い込んで進角が進めばもっとすごいことになるはずです。



(おわり)


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